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インタビュー 出生前診断の正しい知識を 第1回 胎児クリニック東京 中村靖院長

「出生前診断」は怖くない~妊婦さんとその家族のために正しい知識を~

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「出生前診断」は怖くない~妊婦さんとその家族のために正しい知識を~の画像12013年にオープンした「胎児クリニック東京」

 2013年4月、妊婦さんの血液を検査して胎児の染色体異常を調べる「新型出生前診断」の臨床研究が一部の大学病院などで始まった。しかし検査を受けられる年齢が出産予定日に35歳以上であること、あるいは費用が20万円ほどもかかることなどもあって、まだまだ限られた妊婦さんしか受けられないのが実情だ。

 さらに、報道では「検査は胎児の選別につながる」という視点だけが強調されることが多く、検査の正しい情報が妊婦さんに届きにくいこともある。1980年代から胎児診断を専門に研鑽し、現在は日本ではめずらしい「胎児クリニック」を東京千代田区で開く中村靖・胎児クリニック東京院長に、「胎児診断」について、妊婦さんやその家族は、どのように考えたらいいのかを聞く。

 早くわかれば 早く治せる

「私は、20年以上にわたり、順天堂大学病院に産婦人科医師として勤務し、とくに超音波による『胎児診断』を専門にしてきました。そこには、一貫して『早くわかれば、早く治せる』という考え方がありました。赤ちゃんにとって、誕生は大きな変化のときです。肺で呼吸を始め、胎盤からはずれて自立しなければなりません。病気などがあると、この大きな変化を乗り越えられないことがあります。しかし、あらかじめわかっていれば、帝王切開で取り上げて、すぐに小児外科で手術をする、などの治療ができ、赤ちゃんが元気に生きていくことができるケースが増えます」(中村院長。以下同)
 
 超音波が体内で反射するようすを測定し画像化する超音波検査は、日本では順天堂大学病院がパイオニア的存在で、観察対象の周囲に液体があるとよく見えるため産科の領域では早くから発達してきた。胎児は羊水に浮かんでいるからであり、この胎児の形を見ることができる超音波検査は、「胎児診断」の大きな柱となっている。そしてもうひとつの柱が妊婦さんの血液を調べる方法だ。

「出生前診断」を取り巻く旧態依然な状況

「ダウン症候群の胎児を見つけるための『母体血清マーカー』が、1990年代に米英両国で普及しました。そして90年代後半になると日本にも輸入され、大きな話題となりました。私も当時、大学から米国に派遣され、検査方法を勉強しました」
 
 ダウン症候群は体細胞の21番染色体が3本(通常は2本)あることが原因である。妊婦さんの血清(血液の上澄み)から胎児のこの染色体が異常である確率がわかる「母体血清マーカー」検査は画期的であった。しかし、ダウン症候群を早く見つけることは、多くの場合中絶につながるため、「命の選別」であるとの論調が高まり、1999年に厚生科学審議会先端医療技術評価部会は、医師は妊婦に対し本検査の情報を積極的に知らせる必要はなく、本検査を勧めるべきでもないという見解を示した。このときの「勧めるべきでない」という見解が、およそ20年以上経ち、「新型出生前診断」が導入された今も、多くの産婦人科医の認識の中には残っているという。

「当院に来られる妊婦さんの多くが、産婦人科医に『出生前診断』について尋ねたところ、急に不機嫌になったり、しなくていいなど否定的な態度を取られた経験を持っています」
 
 また、血清マーカー検査の制限と同時に、超音波検査でも、ダウン症候群も含めた胎児の異常の疑いを早期に検出する技術の普及が、進まないままになっている現状があるそうだ。さらに、染色体検査などの遺伝の分野は、一般産婦人科医が持つべき必須知識よりもより専門的な分野になるため、検査結果を読むことに慣れていない医師もいるという。「出生前診断」は、妊婦さんにとって非常に気になる重大事であるのに、否定されたり、あるいは適切な情報が得られない状況にあるのだ。さらに

「『出生前診断』について、35歳以上の妊婦さんは大変心配されるのに、若い方はまったく無関心であるのは、専門家から見ると好ましい状況ではありません。ピッタリ35歳になると急にさまざまな障害の可能性が出現するわけでなく、若い方でも可能性はあるからです」すでに英国では、すべての妊婦さんが「出生前診断」を受ける制度が整っているという。
 
 それでは、「出生前診断・胎児診断」とは実際どのようなものなのか? 次回は胎児クリニック東京の検査を例に、何がわかって、何がわからないのかを見ていきたい。

「出生前診断」は怖くない~妊婦さんとその家族のために正しい知識を~の画像2

●中村靖(なかむらやすし)
順天堂大学医学部卒業後、同大学医学部附属順天堂医院で、超音波診断、合併症妊娠の管理を中心とした診療・研究に従事。3科(産婦人科・小児科・小児外科)合同の「周産期カンファレンス」において、草創期の中心メンバー。

2005年には順天堂大学医学部附属練馬病院の産科婦人科科長に就任、その後順天堂大学助教授(先任准教授)。2009年、米国留学(ボストン小児病院、シンシナティ小児病院、フィラデルフィア小児病院)。10年からは、ベルギー・ルーベンカトリック大学産婦人科で胎児治療の臨床・研究に携わる。同年、帰国後、茅ヶ崎徳洲会総合病院(現・湘南藤沢徳洲会病院)に、「胎児科」を新設。13年9月、よりきめ細かな胎児診療をアクセスしやすい都心で提供するため、胎児クリニック東京を開院。

一方、勤務医時代からタバコ対策・禁煙指導にも積極的に関わり、順天堂大学および附属病院の禁煙化に尽力。産婦人科分野の禁煙指導の中心者として、禁煙ガイドラインの作成にも参加。現在もNPO法人禁煙ネット http://www.horae.dti.ne.jp/~kinennet/ で活動している。

臨床遺伝専門医、超音波専門医・指導医、産婦人科専門医、禁煙専門医、FMF(Fetal Medicine Foundation)認定妊娠初期超音波検査者。

BusinessJournal編集部

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