●産業化への試みも

 近畿大学が評価されている理由の一つに、完全養殖化の産業化にも真剣に取り組んでいることが挙げられる。他の魚と同様、完全養殖化だけでは意味がないのだ。

 現在、国内のクロマグロ出荷量のうち、4分の1以上を近大マグロで賄っている。今日に至るまでにさまざまな効率化および供給安定化に取り組んできた近大マグロは、今後も改善を施す余地があるとはいえ、現段階においても安定して数万匹の供給を可能としていることから、産業化の水準を満たしているといわれている。実際に近畿大学は近大マグロについて各業界の大手企業ともビジネスベースでの連携を進めている。

 例えば豊田通商は、近畿大学からクロマグロの完全養殖に関する技術協力を得て、稚魚の養殖事業を展開。完全養殖クロマグロの年間出荷量を16年までに7万5000尾まで増やすとしている。こうした動きが今後広まれば、安定的に供給されることで価格面においても期待が持たれている。

 また、近大マグロを実際に味わえるお店も登場している。昨年12月、完全養殖クロマグロの専門料理店「近畿大学水産研究所」が東京・銀座にオープンした。先にオープンしていたグランフロント大阪内の店舗に続く2店舗目であり、東京初進出店となる。例えばランチメニューの「近大マグロとわかしらすの紀州丼」(小鉢・味噌汁付き)は一人前1600円と、クロマグロ料理としては比較的安価に本格的な味を楽しめるため、ランチタイムには連日行列ができ、夜は1カ月以上先まで予約で埋まっているほどの人気を呼んでいる。

 専門店での展開の狙いは、さらなる産業化だ。「安全で美味しい」を売りとする完全養殖クロマグロを一躍ビジネスベースに乗せるべく、その味を知ってもらうために専門店を通じて一般に広くアピールすることを目的としている。店舗が評価を得ることは、完全養殖クロマグロが市場に認められることに等しく、企業との協働も進めやすくなる。

 世界的にも和食人気が高まる中、ゆくゆくは世界展開を視野に入れることも可能だ。日本初の新たなブランドとなるべく、日夜研究が続けられている近畿大学の完全養殖クロマグロ。日本の食文化を担う今後の展開に、引き続き大きな期待が寄せられている。
(文=田中佐江子/株式会社デファクトコミュニケーションズ)

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