もちろん、元社員は個人として、世間から非難を浴びてしかるべきである。しかし、ミスを隠すために自殺をほのめかす高校生を装った手紙を、わざわざ高校に届けるようなやり方をしたところに、別の大きな問題が潜んでいる。不祥事を隠そうとしなければならないところまで社員を追い詰める社風に原因があると考えられる点だ。このような社風は、社員を「自爆営業」という恐ろしい状況に追い込むことにもつながりかねない。
自爆営業とは、ノルマ達成のため社員に自社製品を買わせたり、自分や家族の名義で契約を結ばせるなどの経済的な負担を強いる業務のことをいう。社員に経済的負担を強いるまではいかなくとも、ミスを過度に叱責するような社風が蔓延し、「ミスをしたことが上司に知られるぐらいならなんでもやる」と考えてしまう社員がいる会社は意外に多い。これは自爆営業が生まれる土壌にもなっている。
今回は、企業で働く人々の抑圧された環境を調査し、5月に『自爆営業』(ポプラ社)を上梓したルポライターの樫田秀樹氏に、自爆営業をもたらす会社の問題点を聞いた。
●何がJTB元社員を追い詰めたのか?
–今回の事件を起こしたJTBでも、ミスを過度に叱責するような社風はあったのでしょうか?
樫田秀樹氏(以下、樫田) 可能性はあると思います。私も過去に旅行会社に勤務していた経験があるので、ある程度はJTBの元社員に何が起きたのか推測できます。まず、予約ミスが発生した場合には、早急に穴埋めする必要があります。今回のケースに当てはまるかわかりませんが、旅行業界では「バスとばし」という手法がよく行われています。いったん予約したバスを利益の高い別の案件に付け替えるのです。そしてもともとの依頼に対して別のバスを手配する必要があるのですが、それができず当日になってもバスを用意できないという事態が発生し得るのです。
–今回の事件が「バスとばし」によって引き起こされたかどうかはわかりませんが、背景には、もっと根深い問題が潜んでいる可能性もありますか?
樫田 JTB元社員の偽装が露見せず、遠足が中止になっていた場合にどうなるのかを考えてみればわかります。もし学校側が遠足を中止していたら、JTBに対してほぼ100%の金額でキャンセル料を支払わなければなりません。たとえ「生徒が自殺をほのめかしたので」と言っても、それは学校側の都合にすぎませんから、元社員は罪を問われるどころか会社に利益をもたらすことになります。
ところが、隠蔽工作が露見してしまいました。元社員は「手配を忘れたまま放置してしまった」と言っているようですが、本来であれば気がついた時点ですぐにバスを手配するか、自分でできないなら上司なりに報告して判断を仰ぐべきだったのです。それなのに自分一人で抱え込んでしまいました。ミスを報告できない社風があったと推測されても仕方ないでしょう。
『自爆営業』 各業界の自爆営業の実態を明らかにし、そこから脱出するための具体的な方策を提示する
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