この事前交渉で最初に降板したのはイオンだった。同社の買収提示額はローソンと三越伊勢丹のそれを大幅に下回っており、前出の投資ファンド関係者によると、「丸の内キャピタルが交渉を断った」のが実態のようだ。かくして、ローソンと三越伊勢丹による一騎打ちとなり、8月上旬に丸の内キャピタルは売却の正式入札を実施した。両社の入札額はいずれも500億円弱といわれているが、650億円の線を譲らない丸の内キャピタルの前に交渉は決裂し、ローソンも三越伊勢丹も成城石井の買収をあきらめた。

 一方、両社との交渉で「最低でも650億円」のもくろみが外れた丸の内キャピタルは、650億円を株式市場で獲得しようと、成城石井の株式公開(IPO)の準備に入った。だが上場想定の株価算定では、丸の内キャピタルが想定する売却額が見込めず、投資ファンド関係者から「これなら株式公開後に底値で買ったほうが得ではないか」と揶揄される始末だった。

 こうした丸の内キャピタルの動きに待ったをかけたのが三菱商事だった。同社は丸の内キャピタルに50%、ローソンには32.1%を出資しており、いわば双方ににらみが利く関係だ。「競合入札は当て馬。三菱商事は初めからグループ内のローソンに成城石井を売却させる腹だった」(総合商社関係者)とみる向きも多い。それが双方とも自社の主張をぶつけ合っての交渉だったせいか、妥協点が見いだせなかった。

 そこで交渉の仕切り役を買って出た三菱商事は、丸の内キャピタルに対しては「成城石井を株式市場で売ろうなんて、一体なんのための投資ファンドだ」とIPOを思いとどまらせ、ローソンに対しては「成城石井をライバルに買収されてもいいのか」と圧力をかけたという。これによって丸の内キャピタルとローソンは交渉を再開し、その後は短期間で売却額の550億円が決まった。

 玉塚社長は10月7日の記者会見で、「成城石井はダイヤの原石。我々が磨けば資産価値は10倍にもなる」と述べ、買収の成果を強調した。

●前途洋々説の根拠

 さて、ここであらためて先ほどの前途洋々説と経営独立性喪失説を検証してみよう。

 まず、前者を取る業界関係者の根拠は次の通りだ。

 ローソンにとって、成城石井の買収には2つのメリットがある。

 1つ目は、女性客層の獲得だ。同社は女性客層獲得を狙って「ナチュラルローソン」を展開中だが、実質的には失敗している。最初こそ好調だったが、今では当初の勢いを失い、まだ約100店舗で、13年に掲げた「5年間で3000店舗」の目標に遠く及ばない事実がそれを証明している。失敗の理由としては、女性客層向け商品開発力の欠如が指摘されている。今回の買収により、品揃えの豊富さで女性客層から断トツの人気を誇る成城石井の惣菜をローソンやナチュラルローソンにも展開することで、念願の女性客層を呼び込むことも可能になる。

 2つ目は、セブン-イレブン(以下、セブン)対策だ。コンビニ業界では、首位のセブンがハイペースで出店し続けている。2位のローソンは、出店競争ではもうセブンには追いつけない。一店舗一日当たりの平均売上高でも、セブンの約66万円に対してローソンは約54万円と、大きく水をあけられている。

 そこでローソンが取っている戦略が、消費多様化への対応だ。音楽CD販売のHMVジャパンやシネマコンプレックス(複合型映画館)運営のユナイテッド・エンターテインメント・ホールディングスの買収などが、その具体例だ。そして成城石井買収もその一環といえる。事業全体の売上高ではセブンに勝てなくても、成城石井が傘下に入れば一店舗当たりの売上高でセブンに追いつく可能性は出てくる。ローソン関係者も「成城石井はスーパーというより小商圏型の小売業で、コンビニに近い業態。したがって成城石井はコンビニのノウハウをフルに生かすことができる」と語り、買収は双方にとってプラスに働くと強調する。

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