第一次世界大戦で毒ガス兵器として使われた塩素ガスは猛毒として知られていますが、二酸化塩素はそれ以上の毒性があるのです。国連の勧告であるGHS(化学品の分類および表示に関する世界調和システム)によると、二酸化塩素について、ラットに対する半数致死濃度は32ppmで、「吸入すると生命に危険」とあります。一方、塩素ガスの半数致死濃度は146ppmですから、二酸化塩素は塩素の4倍以上も毒性が強いといえます。
空間除菌製品を販売している会社のホームページによると、室内の二酸化塩素の濃度を0.01~0.02ppmに保ち2~8時間経過すると、浮遊するウイルスや細菌を99%除去できるとあります。それらの製品を家庭内で使用した場合も、二酸化塩素の濃度は同程度になるのでしょう。ラットが半数死亡する濃度に比べれば低濃度といえますが、見方を変えれば「薄いガス室状態」の中で生活することになるといえるでしょう。特に化学物質に敏感な人は要注意です。
二酸化塩素を利用した製品には、首から下げるタイプもありますが、これらについては2014年3月に消費者庁が、効果を裏付ける証拠がないとして販売元17社に表示変更などを求める措置命令を出しました。いずれも合理的な根拠があるとは認められなかったため、景品表示法で禁止している優良誤認(実際のものよりも著しく優良であると示すもの)に該当するとして、措置命令を行ったのです。排除する必要のない菌を駆除する除菌製品は、首から下げるタイプだけではなく、リビングや寝室などに置くタイプについても、そもそも必要ないものです。
しかも、これらの製品を使っていると、かえって病気にかかりやすくなる危険があります。私たちの体は、周辺のウイルスや細菌、カビなどの刺激を受けることによって免疫力が維持されています。ところが、それらを駆除してしまうと、刺激がなくなって免疫力が低下してしまうと考えられるのです。
家の外、特に人がたくさん集まる駅やデパート、スーパーマーケット、コンビニエンスストア、映画館などには、病原性のウイルスや細菌などが潜んでいることがあります。そのような場所に免疫力が低下した状態の人が出入りすれば、当然ながら病気に感染しやすくなります。除菌する必要のない家の中を除菌することで、外に出ると病気にかかりやすくなるのです。
結局、これらの除菌製品を購入して使っても、何もプラスになることはないのです。CMに惑わされて買い込まないようにしてください。
(文=渡辺雄二/科学ジャーナリスト)