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渡辺雄二「食にまつわるエトセトラ」(4月5日)

ペットボトルは人体に危険、は本当?樹脂が溶けて中身に混じる?動物実験で意外な事実が判明

文=渡辺雄二/科学ジャーナリスト
ペットボトルは人体に危険、は本当?樹脂が溶けて中身に混じる?動物実験で意外な事実が判明の画像1「Thinkstock」より

 コンビニエンスストアスーパーマーケットでは、ミネラルウォーターや茶系飲料、炭酸飲料など、さまざまな飲み物が売られていますが、そのボトルにはいずれも「PET」という表示があります。

 PETとはポリエチレンテレフタレートという合成樹脂の略で、これを原料につくられているボトルは「ペットボトル」と呼ばれています。

 PETは透明で、軟化点が摂氏260度という耐熱性に優れた特性があります。またガラスに比べて軽く衝撃にも強いため、多くの飲み物の容器として使われています。ソース、つゆ、ドレッシング、みりん、浅漬けの素など調味料の容器としても使われています。

 ところで、ペットボトルは一般に安全性が高いといわれていますが、なかには「本当に安全なのか」という疑問を持っている人も少なくないと思います。ミネラルウォーターや茶系飲料などの多くは加熱された液体がボトルに充填されます。そのため、熱によってペットボトルの樹脂が溶け出して中身に混じらないのかという不安があります。

 PETは、テレフタル酸またはテレフタル酸ジメチルとエチレングリコールを結合させて高分子化した合成樹脂です。これまでの実験では、PETを10%含むえさをラットとイヌに3カ月間食べさせても、栄養状態、血液、尿に異常は見られず、病理学検査でも異常は認められませんでした。そのため、一般にペットボトルは安全性の高いプラスチックとして認識されています。なお、この実験データは『食品用プラスチック衛生学』(厚生省環境衛生局食品化学課・編著/講談社)に掲載されています。

 PETは分子量が大きいため動物に投与しても腸から吸収されにくく、毒性が現れることはないと考えられます。しかし、原料として使われているテレフタル酸またはテレフタル酸ジメチル、あるいはエチレングリコールが溶け出さないのかという問題は残ります。なぜなら、高分子の合成樹脂の場合、原料が高分子化せずに、そのまま微量ながら残ってしまうことがあるのです。そして、条件次第では、それが溶け出してくることがあるのです。

 PETのフィルムについて、95度の熱湯で4時間溶出試験を行ったところ、テレフタル酸が0.014ppm(ppmは100万分の1を表す濃度の単位、1ppm=0.0001%)、エチレングリコールが0.016ppm検出されました。テレフタル酸ジメチルは、ND(検出限界以下)でした。また、ポリエチレンテレフタレートのシートについて、同様の溶出試験を行ったところ、テレフタル酸が0.037ppm、エチレングリコールが0.072ppm検出されました。テレフタル酸ジメチルはNDでした。これらのデータも『食品用プラスチック衛生学』に掲載されています。

 この実験結果をどうとらえればよいのでしょうか。テレフタル酸1%を含むえさをラットに2年間食べさせた実験では、異常は認められていません。同様に2%を含むえさを食べさせた実験ではオスの成長が悪くなり、5%を含むえさではオスとメスの成長が悪くなり、死亡率も高くなりました。しかし、腫瘍形成などの徴候はありませんでした。

 エチレングリコールは、最低3年から最高9年にわたってイヌに対して1日に体重1kg当たり0.235~0.4gを投与した実験では、腎臓の病変は認められませんでした。一方、ラットに対してエチレングリコールを0.1~4%含むえさを食べさせた実験では、0.5%以上含むえさを食べさせたオスに腎臓の石灰化が、そして4%含むえさを食べさせたメスに結石が認められました。ただし、1%および2%を含むえさを2年間ラットに食べさせた実験では、腫瘍の発生は認められませんでした。これらの実験データも同書に掲載されています。

 ここで、いずれの実験でも腫瘍の発生が認められなかったことがひとつのポイントとなります。もし腫瘍が発生していた場合、それは発がん性物質として扱われ、放射線と同様に閾値(しきい値:これ以下なら安全という値)は存在しないことになります。つまり、どんなに微量でも危険性があるということです。

 反対に腫瘍が発生しなかった場合は、閾値を設定することができます。テレフタル酸の場合、1%を含むえさでは異常は認められませんでした。人間と実験動物との種差および人と人との個人差を考慮して安全係数は100となるので、「1%×1/100」という計算になり、すなわち0.01%となります。つまり、これ以下なら影響はないと考えられます。

 エチレングリコールの場合、イヌの実験では1日に体重1kg当たり0.235gの投与量では腎臓に病変は認められなかったので、「0.235×1/100」で、0.00235g以下なら影響はないと考えられます。これは、たとえば体重10kgの子供なら0.0235gとなります。またラットの実験では、0.4%以下の場合異常は認められていないと判断されるので、「0.4%×1/100」で、0.004%以下なら影響はないと考えられます。

 前出のPETの溶出実験ではシートのほうが溶出量は多かったので、そちらを採用し、、テレフタル酸の溶出量は0.037ppm、エチレングリコールは0.072ppmです。それらはパーセントに直すと、0.0000037%、0.0000072%となります。動物実験ではえさを与え、ミネラルウォーターや茶系飲料は飲み物ということで、違いはありますが、それを考慮しても、これらの値は、実験結果から影響がないと考えられる値よりもかなり小さいことになります。
また、1本(500ml)の飲み物に溶け出しているエチレングリコールの量は、約0.000036gと計算されます。これも、影響がないと考えられる値よりもかなり小さいことになります。以上のことから、飲み物のペットボトルの人体への影響はほとんどないといえるでしょう。
(文=渡辺雄二/科学ジャーナリスト)

渡辺雄二/科学ジャーナリスト

渡辺雄二/科学ジャーナリスト

1954年9月生まれ。栃木県宇都宮市出身。千葉大学工学部合成化学科卒。消費生活問題紙の記者を経て、82年からフリーの科学ジャーナリストとなる。全国各地で講演も行っている

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