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片山修のずだぶくろトップインタビュー 第5回 八郷隆弘氏(本田技研工業 代表取締役社長執行役員)前編

「一人負け」ホンダ社長が初激白…リコール続出の裏で、前代未聞の進化的経営革命

構成=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家
「一人負け」ホンダ社長が初激白…リコール続出の裏で、前代未聞の進化的経営革命の画像1八郷隆弘(はちごう・たかひろ)/本田技研工業株式会社 代表取締役社長執行役員。1959年生まれ。82年本田技研工業入社。2008年執行役員、10年購買本部購買二部長、11年生産本部鈴鹿製作所長、12年ホンダモーターヨーロッパ・リミテッド取締役副社長、本田技術研究所常務執行役員、ホンダR&Dヨーロッパ(UK)リミテッド取締役社長、13年中国生産統括責任者などを経て、14年常務執行役員。15年6月より現職。

 2015年6月に八郷隆弘氏がホンダ社長に就任してから、1年超が経過した。13年から14年には、人気車種「フィット」の5度にわたるリコール、タカタ製エアバッグ問題の拡大など品質問題が発生。15年は、7年ぶりにF1(フォーミュラ・ワン)世界選手権に復帰したものの1勝もあげられずに惨敗。業績は、大手自動車7社が好調のなか、タカタ関連のリコール費用引当金が収益を圧迫し、「ホンダ一人負け」とまでいわれた。

 本田技術研究所社長経験者という不文律を破り、“異例の抜擢”で社長となった八郷氏は、この一年、何をしたのか。また、ホンダにどんな未来図を描いているのだろうか。

現場回り

片山修(以下、片山) 就任から1年が経ちました。就任後はまず、現場に足を運ばれたそうですね。

八郷隆弘氏(以下、八郷) 販売店を含め、国内外の事業所を回りました。まだ行かなければならない場所はありますが、主要なところだけでも、かなり時間がかかりました。話をして歩き、「思い」は伝わったと思います。ただ、大きな方向性は一朝一夕には変わらない。とくに、日本の事業所は大きく展開していますから、難しいと実感しています。

片山 現在、ホンダの従業員数は連結で20万8399人。単独2万2399人。これだけ大きくなると、トップが「こっちだ」といっても、それを組織に完全に浸透させるのは簡単ではありませんね。

八郷 私は社長就任前、中国広州で2年、その前は英国の四輪工場で1年仕事をしましたが、地域本部は割と方向性を共有しやすい。まとまり感があるんです。一方、日本は大きいですから、経営陣が思っていることを現場にまで伝えるのが難しい。

片山 腕力がいります。「魂」が入らなければ、掛け声だけでは企業の方向性は変わりませんね。

八郷 そうですね。トップは大きな目的をつくり、各部門はそれに基づいた目標をつくりますよね。その目標は、数値化するほどわかりやすくなるんですが、数値が一人歩きすると、今度は上位概念が伝わらなくなる。難しいところです。

六極体制の進化

片山 前社長の伊東孝紳さんは、2008年のリーマンショック後、日米欧、中国、アジア、南米の六極に地域本部を設ける「グローバル六極体制」を構築しました。八郷さんは、社長就任時に「六極体制の進化」を掲げましたね。

片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

愛知県名古屋市生まれ。2001年~2011年までの10年間、学習院女子大学客員教授を務める。企業経営論の日本の第一人者。主要月刊誌『中央公論』『文藝春秋』『Voice』『潮』などのほか、『週刊エコノミスト』『SAPIO』『THE21』など多数の雑誌に論文を執筆。経済、経営、政治など幅広いテーマを手掛ける。『ソニーの法則』(小学館文庫)20万部、『トヨタの方式』(同)は8万部のベストセラー。著書は60冊を超える。中国語、韓国語への翻訳書多数。

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