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高井尚之が読み解く“人気商品”の舞台裏

過酷労働でも報酬たった5千円…野球審判員、副業なしで生活困難な実情、プロは超狭き門

文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
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条件は厳しいが、「審判員の仕事は天職」

過酷労働でも報酬たった5千円…野球審判員、副業なしで生活困難な実情、プロは超狭き門の画像42013年独立リーグ「グランドチャンピオンシップ」第1戦の試合前整列時。球審が松本氏、左翼外審が粟村氏

 プロ野球の試合で見る4人審判制(控え審判を入れると5人)は、アマチュア野球では一定レベル以上の試合でしか見られない。草野球などでは、1人か2人で審判業務を担う試合も多い。

「審判の依頼にはできるだけ応えたいので、時間をやりくりして1日で複数の試合を違う場所でこなすことも多く、審判員以外の仕事とのかけもちは当たり前です」(粟村氏)

 塾の講師で収入の多くを賄う粟村氏の場合、試合と授業が重なると、こんな日を送る。

・7時30分に都内の自宅を自家用車で出発
・8時30分に埼玉県の球場に入る
・9時30分~14時頃まで球審を2試合こなす。その後、都内に戻り、自宅に立ち寄って入浴(試合が長引くと入浴をあきらめて教室に直行)
・16時30分~21時30分まで複数の授業をこなす
・22時30分頃帰宅

 雨天や荒天の時は試合開催に影響が出る。公式試合の審判員は担当日で出番が決まる「日持ち」と、担当試合で出番が決まる「ゲーム持ち」があり、後者は試合を行い、終了するまで拘束される。試合中の選手はダグアウトに控える時間もあるが、審判員は攻守交代でもずっとグランドに立っている。水分補給は可能だが、トイレ休憩はできない。審判控室の環境にも恵まれず、審判服に着替える場所もない時は、自家用車の車中で着替えるという。

 灼熱の夏、寒い冬の試合など、業務環境は想像以上に大変で、知識と技術を必要とする専門職なのに待遇面は恵まれない。報酬は試合によって異なるが、アマチュアはトップレベルの試合でも1試合5000円程度だという。逆に草野球の報酬はもう少し上がり、グラウンド利用時間の関係で試合時間制限もあり、予定が立てやすい。いずれにせよ、アマチュア野球の審判員は、ほかに仕事を持たないと成り立たない。前述の松本氏も平日は保育園に勤務しており、休日を中心に審判業務をこなす。審判員は自営業者と公務員が多いという。

 それでも粟村氏も松本氏もやりがいを感じており、「もう一度生まれ変わっても野球審判員になりたい」と口を揃える。審判員の世界は人間関係も濃密で、仲間に励まされたり、NPB審判員の愛用品や中古品を、本人からもらうこともあるそうだ。メーカーのなかには、審判用具の試作品を提供して、アマ審判員を支援する会社もある。待遇面では恵まれなくても、情熱的に審判業務に取り組む人たちが、国内野球の試合を支えている。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)

高井 尚之(たかい・なおゆき/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)
1962年生まれ。(株)日本実業出版社の編集者、花王(株)情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。出版社とメーカーでの組織人経験を生かし、大企業・中小企業の経営者や幹部の取材をし続ける。足で稼いだ企業事例の分析は、講演・セミナーでも好評を博す。最新刊は『なぜ、コメダ珈琲店はいつも行列なのか?』(プレジデント社)。これ以外に『カフェと日本人』(講談社現代新書)、『「解」は己の中にあり』(講談社)など、著書多数。
E-Mail:takai.n.k2@gmail.com

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