山口組の代理抗争か、と取り沙汰されてきた“会津小鉄会の乱”。今年に入り、京都を拠点とする会津小鉄会が分裂し、現在は2つの「七代目会津小鉄会」が並存している状態だ。
かたや、六代目馬場美次会長(先頃、引退)の後継指名のもと、金子利典会長が七代目の座に君臨する会津小鉄会。かたや、六代目山口組若頭補佐でもある、三代目弘道会・竹内照明会長を後見に七代目に就いた原田昇会長率いる会津小鉄会。金子会長派を神戸山口組が、原田会長派を六代目山口組がそれぞれ後押しして、対立している格好なのだ。
両者は分裂が決定的になる直前、会津小鉄会本部(現在は京都地裁の決定により使用を差し止めされている)で衝突している。1月11日、金子会長派を後押しする神戸山口組傘下組員多数が本部に押し寄せ、原田会長派組員と乱闘騒ぎを起こしたのだ。この模様がテレビで流されたことで、業界関係者だけではなく、広く世間の知るところとなってしまった。
さらに、この乱闘騒ぎのワンシーンとして、相手方組員に暴行を受けたとみられる原田会長派組員が本部前で「いきなり本部に入ってきて、ボコボコにされた」などと、携帯で誰かに報告する場面が報じられたのだが、これに警察当局が敏感に反応したといわれている。当局としては、テレビを通じて全国に流され、暴行事件まで起こした抗争を放置しておくわけにはいかなくなり、騒動後も慎重に捜査が進められてきたようだ。
6月5日に神戸山口組の井上邦雄組長が、携帯電話に関わる詐欺容疑で兵庫県警に逮捕された背景には、この暴行事件があるのではないかと囁かれている。実際、逮捕前日までは、暴行事件に関与した容疑で井上組長を京都府警が逮捕するのではないかという情報が流れていた。そのため、暴行事件関与の証拠がつかめないなか、兵庫県警が別件で逮捕したのではないかとの見方も根強い。
その後も、京都府警が井上組長を再逮捕するのではないかという噂は絶えないが、その一方で、会津小鉄会の乱闘騒ぎの際にテレビにその姿が映った神戸山口組系幹部がまもなく逮捕されるという情報も駆けめぐっていた。そして13日、それが現実になったというのだ。
井上組長の再逮捕はあるのか?
「13日に、神戸山口組系幹部らや現在は任俠団体山口組の幹部になっている組員らが同時に逮捕されている。現時点で警察発表がされておらず容疑は不明だが、暴行事件関連となれば、まだまだ逮捕者が出るといわれており、関係者全員の逮捕を待って発表するのではないか」と地元関係者は話している。
また、「そのタイミングでの井上組長の再逮捕を京都府警が固めているのではないか」という。ただし、罪状が暴行事件にかかわるものなのか、はたまた兵庫県警が行ったのと同様、微罪による逮捕なのかはわからない。ただ、ある神戸山口組系幹部は「京都府警は、神戸山口組の関係者だけではなく、会津小鉄会の原田会長らも逮捕するのではないか」という見解を示す。
「それを察して、10日には原田会長の誕生日会を京都で行い、そこには六代目山口組サイドの幹部らも出席している。実際の誕生日はもう少し後だというのに、早めた理由はそのためかもしれない」(同)
さらに同幹部は、原田会長の逮捕は一連の騒動には関連するものの、暴行事件ではないと話す。
「確証は得ていないが、原田会長の逮捕は、会津小鉄会本部で暴行事件が起きた前日に、全国のヤクザ組織に流されたファクスに関わるものという情報がある」
そのファクスは、馬場六代目会長名義で送られたもので、六代目を引退し、七代目を原田氏に継承した旨を宣言したものだった。だが、これは原田氏派が独断で流したものだったようで、同日には馬場会長がそれを撤回するファクスを流し、原田氏を絶縁している。会津小鉄会の分裂を決定的にした出来事のひとつだった。
ただ、このようなことが事件化する可能性はあるのか。ファクスの内容が法律の定めるところの「事実証明に関する文書」であるのならば、有印私文書偽造の罪にあたるのは理解できる。しかし、ヤクザ組織が他のヤクザ組織宛に流したような先のファクスが、それに該当するかどうかは筆者には判断できない。だが、前出の幹部はこうも言う。
「そんなことで逮捕されるなんて聞いたことないが、京都府警が本腰を入れて会津小鉄会の騒動に取りかかっているのは事実。そして、数日前には、ファクス騒動において被害者となった馬場前会長に任意での出頭を求め、事情を聴いたという情報もある」
これが事件化するかは不透明だが、会津小鉄会の騒動をめぐり、日々情報が錯綜していることだけは事実だ。
筆者は、任俠団体山口組が結成されて間もない5月2日に当サイトで「不穏な情報が飛び交い、情報戦に突入か」と書いた。「当局サイドも各組織の弱体化を狙い、大いに揺さぶりをかけるだろうし、トップをなんらかの形で逮捕するという噂が流れるはずだ」というものだ。
井上組長の逮捕は噂が先行し、現実となった。そして、現在もさまざまな不穏な噂が飛び交っている。当局による揺さぶりは今後も続いていくだろう。
(文=沖田臥竜/作家)
●沖田臥竜(おきた・がりょう)
2014年、アウトローだった自らの経験をもとに物書きとして活動を始め、『山口組分裂「六神抗」』365日の全内幕』(宝島社)などに寄稿。以降、テレビ、雑誌などで、山口組関連や反社会的勢力が関係したニュースなどのコメンテーターとして解説することも多い。著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任侠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)など。最新刊は、元山口組顧問弁護士・山之内幸夫氏との共著『山口組の「光と影」』(サイゾー)。