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「万引きがやめられない」病気で窃盗の繰り返し…苦悩する家族の実態

取材・文=里中高志
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どのような接し方が<再犯を防ぐ>のか?

 家族支援グループでは、お互いの体験を分かち合うだけでなく、毎回30分ほどの心理教育や本人への対応方法、刑事手続きに関する解説が行われる。そこで参加者から寄せられる質問でいちばん多いのは、「どのように接したら再犯を防ぐことができるか」だ。

「残念ながら、その問いに対する明確な解答はありません。また、このグループはスタッフが答えを助言する場所ではなく、体験を共有し家族自身が楽になるための場所です。ただし、『家族として何か落ち度はなかったのか……」と自分を責めることはしないように助言しています。その上で、治療に使う『リスクマネジメントプラン(RMP)』を、家族のキーパーソンに共有してもらいます。患者の周囲にも、何がリスクで、再犯の引き金になりやすいかなど、警告のサインを理解してもらうのです」

家族が家族支援グループにつながり続けるということ

 斉藤氏は、家族支援グループにおいて本人の再犯防止の観点から「①プランニング(日常生活の計画を立てる)」「②モニタリング(本人の予定や家族と決めたルールなどを確認する)」「③コーピング(問題行動への対処方法を家族が知る)」「④シェアリング(情報を分かち合う)」という「4つのing」の実践を推奨している。
 
 また、万引きをした人をことさら責めてしまいがちな家族には、無理にその気持ちを抑えさせず、正当な怒りだと認めた上で、患者本人に「なぜあなたを責めるのか? あなたの家族の気持ちに想像力を働かせてみよう」とアプローチしている。

「なかには、患者本人は通院せずに家族だけが家族支援グループに参加、というケースもあります。それでも家族支援グループというつながりを持ち続けることが大切です。それは、問題行動を起こしている本人の行動を変えるきっかけになることがあるからです。専門医療機関との接点は、患者の家族の支えになるだけでなく、周囲の理解や対応の足並みがそろう事によって本人への介入や治療を進めることにもつながります。そういう意味で専門医療機関との接点は大事にしていただきたいです」(同)

 高齢化社会の進展につれて深刻化が予想される万引き問題――。万引きされた店の損失はもちろんのこと、そこから刑事事件としてかかるさまざまなコストや労力など、社会全体に大きな損失を与える。

 クレプトマニアの存在を社会が認知して、病気に対する理解を深めて患者の治療を進めることは、社会全体に利益をもたらすはずだ。
(取材・文=里中高志)

斉藤章佳(さいとう・あきよし) 
大森榎本クリニック精神保健福祉部長。アジア最大規模といわれる依存症施設「榎本クリニック」(東京都)で、精神保健福祉士・社会福祉士として、アルコール依存症を中心にギャンブル・薬物・摂食障害・性依存・虐待・DV・クレプトマニアなどのアディクション問題に携わる。大学や専門学校で早期の依存症教育にも積極的に取り組んでおり、講演も含め、その活動は幅広くマスコミでも度々取り上げられている。著者に『性依存症の治療』、『性依存症のリアル』(ともに金剛出版)、その他、論文も多数。

里中高志(さとなか・たかし)
精神保健福祉士。フリージャーナリスト。1977年生まれ。早稲田大学第一文学部卒。大正大学大学院宗教学専攻修了。精神保健福祉ジャーナリストとして『サイゾー』『新潮45』などで執筆。メンタルヘルスと宗教を得意分野とする。著書に精神障害者の就労の現状をルポした『精神障害者枠で働く』(中央法規出版)がある。

シリーズ「窃盗症(クレプトマニア)という病」バックナンバー

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