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相原孝夫「仕事と会社の鉄則」

優秀な大学出身者は、なぜ会社で「うつ病」「子ども社員」になりやすいのか?

文=相原孝夫/HRアドバンテージ社長、人事・組織コンサルタント
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優秀な大学出身者は、なぜ会社で「うつ病」「子ども社員」になりやすいのか?の画像1「Gettyimages」より

 昨今は、「5月病」ならぬ「6月病」ということが多く聞かれるようになった。5月病というのはもともと、1960年代にマスメディアがつくり出した言葉のようだ。当時は、社会人ではなく学生に対して使われていたようで、受験勉強をがんばってきた真面目な学生が入学後に燃え尽きて目標を失ってしまうことで、5月頃に学校を休みがちになってしまう現象のことを指していたらしい。その5月病という概念が、就職・転職・異動などで変化した新しい環境に適応できない社会人に対しても使われるようになったものである。気持ちが沈んでやる気が出ない、体が重くてだるい、食欲がない、寝付けない、不安を感じる、イライラするなどの症状が出るのだ。

 5月の大型連休明けに会社へ行きたくなくなるというのは想像しやすい。学生が夏休み明けに学校へ行きたくなくなるのと近い心情であろう。ではなぜ、5月ではなく6月となったのか。

 よく挙げられる原因の一つが、新入社員研修の長期化だ。研修期間が伸びたことで、正式に配属されるのが6月となり、従来の5月病と同様の症状が出るというわけだ。また、6月は梅雨の時期で、ジメジメした悪天候が続き、気圧が低く不安定になり、日照時間が減ることで、自律神経に悪い影響を及ぼすといわれている。心身のバランスを崩しやすくなるのだ。天候が大きく影響するということで、社会人だけでなく主婦の場合も似たような症状があり、「家事6月病」と呼ばれたりもする。加えて、6月は連休もなくリフレッシュもしづらい。新社会人にとっては、いくつもの要因が重なり、悪循環に陥りがちな要注意の月なのである。

 5月病も6月病も正式な病名ではなく、医学的にはどちらも「適応障害」に分類される。環境変化に伴うストレスが原因で心身にさまざまな不調が現れ、ひどい場合は社会生活や日常生活にも支障をきたしかねない。当初は急性疾患であっても、悪循環に陥ってしまい、ストレスが慢性的に存在するようになってしまうと、症状も慢性化し、慢性疾患、つまりは「うつ病」に移行しかねないのだ。「適応障害」と診断された人のうち40%以上が、5年後には「うつ病」などに診断名が変更されているという厚生労働省の調査結果もある。

優秀な人ほど要注意

 では、どういう人が5月病や6月病になりやすいかといえば、真面目で優秀で、几帳面で完璧主義な人という共通点も指摘される。数年前に、いくつかの会社で、新人研修中の新入社員のストレス診断をしたことがある。その際に、すでに過ストレス状態にあり、うつの傾向を示していた社員の多くが、優秀な大学の大学院を出た人たちであったことが思い起こされる。

 特に理工系の人に多く見られた。そうした人たちは、真面目さゆえ、「~すべき」「~しなければならない」と思い込みがちであり、優秀でプライドが高いゆえ、「自分ならうまくできるはず」という思いも強い。それで早期に思ったような結果が出なかったり、同期に先を越されたりでもすれば、「こんなはずじゃなかった」と途端に焦り始める。

 実は、こうした点は当コラムの2回目でテーマとした「子ども社員」の特徴と重なる。ハーバード・ビジネス・スクール教授のロバート・S・キャプランは、誰でも大なり小なり完璧主義の部分を持っており、それが強迫観念になるときに問題となるとし、「強迫行動は多くの場合、優秀な人材の決定的な欠点になる」と指摘している。完璧主義者たちは、自分がやっていることが間違っていたり、ずれていたりするとはまったく思っていない。誠心誠意、職務に邁進していると思っている。多くの時間と労力を費やして、本人が納得のいく“作品”ができたとしても、それが正当に評価されなかったり、賞賛されないなど、自分の優秀さが認められない場合、不満を覚えたり、急に不安になったり、場合によっては他者に対して攻撃的になったりする。完璧主義者の場合、子ども社員へと向かう導火線を内在化しているともいえるのだ。

 5月病や6月病の原因となる代表的なストレスは、「新たな環境へ適応できない」「円滑な人間関係が築けない」「思い描いていた理想と現実とのギャップ」などが挙げられる。「所属感」や「仲間意識」といった要素がとりわけ重要になってくるわけだが、昨今は成果主義や雇用形態の多様化、IT化などの影響で、職場の人間関係が希薄になっていることが背景にあると考えられる。5月病や6月病については、大手企業では多く耳にするが、中堅中小企業では問題になっているということをほとんど聞くことがない。たとえば、6月頃に顧客である中堅中小企業の現場に伺うと、新入社員たちはすっかり職場に馴染んでいる光景を目にすることが多いくらいだ。これはなんの違いかといえば、やはり職場の人間関係の違いであると考えられる。中堅中小企業では、大手企業に比べ、まだまだ職場の人間関係が濃密であり、新入社員が放置されるような状況が少ないのだ。

理想と現実のギャップが埋まらないのは「当たり前」

 さて、どうすれば6月病を防げるのか。結局のところ、「食事」「運動」「睡眠」となる。グーグルが社員に求める3大必須スキルとして「Cook」「Move」「Sleep」を挙げているとおりである。特に、たんぱく質の摂取、ジョギングやウォーキングなどのリズミカルな運動、十分な睡眠時間の確保と朝日を浴びることがポイントである。それにより、神経伝達物質の「セロトニン」が分泌されれば、心身の安定や心の安らぎを得ることができ、パフォーマンスも発揮しやすいというわけだ。

 付け加えるなら、これらの生活習慣と共に、仕事へ向かう心持ちを少し変えるべきではないだろうか。代表的なストレスである「新たな環境へ適応できない」「人間関係が円滑に築けない」「思い描いていた理想と現実とのギャップ」などは、早期にできない、あるいはギャップが埋まらないことは、いわば当たり前であって、焦る必要はなく、じっくり時間をかけてやっていけばいいのである。

 自分のことをさほど優秀だとは思っておらず、几帳面ではなく、いい加減な人が適応障害になるケースは稀である。仕事はその上達の段階を考えるのならば、勉強よりもスポーツに近いといえる。勉強のようなイメージを持っている場合、学生時代に優秀だった人たちは、短期的に、しかも個人的な努力で上達すると思いがちだ。しかし、スポーツはどんな種目であっても、そうそうすぐにできるようにはならない。と共に、できる人に教えを請うのが上達の一番の早道である。

 また、勉強は試験で間違ってしまえばそれで終わりだが、スポーツも仕事もすぐにうまくできなくて当たり前、失敗したところから始まるのである。
(文=相原孝夫/HRアドバンテージ社長、人事・組織コンサルタント)

相原孝夫/HRアドバンテージ社長、人事・組織コンサルタント

相原孝夫/HRアドバンテージ社長、人事・組織コンサルタント

早稲田大学大学院社会科学研究科博士前期課程修了。マーサージャパン副社長を経て現職。人材の評価、選抜、育成および組織開発に関わる企業支援を専門とする。著書に『コンピテンシー活用の実際』『会社人生は「評判」で決まる』『ハイパフォーマー 彼らの法則』『仕事ができる人はなぜモチベーションにこだわらないのか』など多数。

株式会社HRアドバンテージ

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