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SL列車「きかんしゃトーマス号」にあり得ないほど乗客が殺到しているワケ

文=池口英司/鉄道ライター、カメラマン
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 もちろん、大井川鐵道でも蒸気機関車の運転だけでは黒字を出すことは難しいという。乗客を安定的に誘致し、訪れた人に沿線での観光やショッピングを楽しんでいただき、あるいは沿線の施設に宿泊してもらうことで、ようやくビジネスとして成立するのが蒸気機関車の運転である。40年を超える長い保存運転の経験を有している大井川鐵道だからこそ、この「きかんしゃトーマス」のプロジェクトも実を結んだのだった。

SL列車「きかんしゃトーマス号」にあり得ないほど乗客が殺到しているワケの画像4大井川鐵道「きかんしゃトーマス号」の車内。リネンにはイラストが入れられ、天井には小旗が掲出される演出がなされている(c)2018 Gullane [Thomas] Limited.

徹底的に「トーマスの世界」を再現

「私たちがこのプロジェクトを始めるにあたって留意したことは、『本格的なものをつくる』『できることはすべてやる』ということでした」と、山本さんはプロジェクトを振り返る。

 主人公の「トーマス号」は、C11形蒸気機関車を青く塗装。テレビに登場するトーマスを再現した。もちろん、これだけでは「きかんしゃトーマス」の世界が再現されたとは言い難い。運転が開始された2014年には、「トーマス号」のほかに、「ヒロ」「ラスティー」といったなかまも登場。さらに、2015年には「パーシー」「ジェームス号」が、2016年には「バスのバーティー」「いじわる・いたずら貨車」が、さらに2018年には「ウィンストン」が、「トーマス」のなかまとして増やされていった。

 機関車の乗務員の服装についても、赤いネッカチーフを首に巻くヨーロッパ風のものに改められた。このスタイルは、「菜っ葉服」とも呼ばれるシンプルな青いものよりも暑いのだが、そのような細部に至るまで「トーマスの世界」のスタイルが再現されたのである。

 黒が当たり前だった日本の蒸気機関車を青く塗ることに懸念を示す層もいたが、実際に「きかんしゃトーマス号」の運転が開始されると、不安視する声は消えた。線路の上を走る「トーマス」に会うために、観光客が殺到したのである。

 もちろん、現地までの足にクルマを利用する人も多い。「トーマス号」の終点、折り返し点となる駅は山間部にある千頭駅だが、ハイシーズンともなれば駅に隣接する駐車場は満杯となり、2駅ほど離れた場所に設けられた臨時駐車場との間にシャトルバスが運転されるまでになった。千頭駅の駅前に並ぶ数軒の食堂も、昼時には行列ができるようになった。静岡県の山の中にある食堂のにぎわいを、70年以上前に地球の裏側に住んでいた、この物語の原作者は予見していただろうか。

SL列車「きかんしゃトーマス号」にあり得ないほど乗客が殺到しているワケの画像5「きかんしゃトーマス号」の終点、千頭駅では「トーマスフェア」を開催。多くの乗客が、ここで帰りの列車までの時間を過ごす(c)2018 Gullane [Thomas] Limited.

年間10万人以上を運ぶ「トーマス号」

「トーマス号のお客様は、首都圏ばかりでなく、地元の方も多いようです。お子様を連れての小旅行にうってつけなのが、大井川鐵道なのだと思います」と説明してくれたのは、同社経営企画室の徳丸茜さん。

 大阪で生まれ、「大都会ではなく、静かな環境で働きたかった」ことから大井川鐵道に入社した徳丸さんも、「トーマス号」が生み出すにぎわいは想定外だったようだ。

SL列車「きかんしゃトーマス号」にあり得ないほど乗客が殺到しているワケの画像6大井川鐵道経営企画室の山本豊福さん(右)と徳丸茜さん(左)。この日も、広報担当としてイベント会場を東奔西走の活躍ぶりだった

 近年の大井川鐵道では、SLをテーマにしたファッショングッズや、レトルトカレーなどのコラボ商品が続々と登場。「きかんしゃトーマス号」の車内でも、記念写真の撮影やじゃんけん大会などの新しい趣向が、年を追うごとに増やされている。

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