
東京医科大学の裏口入学の問題で7月24日、収賄側として、息子を入学させた文部科学省の前科学技術・学術政策局長の佐野太被告(59)と、仲介役を果たした医療コンサルティング会社の元役員、谷口浩司被告(47)が起訴された。また贈賄側として、東京医科大の臼井正彦前理事長(77)と鈴木衛前学長(69)が在宅起訴された。
東京医科大における裏口入学は今回が初めてではなく、恒常的に行われていたという報道もある。他の医科大学でも同様なことが行われているということはないのか。『勝つ大学・伸びる大学』(エール出版社)など大学に関する著書も多い評論家の島野清志氏に話を聞いた。
「1980年代から90年代の前半くらいまでは、寄附金をもらって点数を水増しするという情実型の入学は、医大に限らず名のある私立大学でも多く聞かれました。今はもう、特に医大などはお金があるんです。第2次ベビーブーマーの受験期があって、その後も今みたいに18歳人口が悲惨なほど少ない状況ではなかったので、内部留保が大きいんですよ。だから、わざわざ評判を落とすようなことをする必要はなくなりました。
今回驚いたのは、ブローカーがいたことです。もし医大の内部関係者が学長に直接言えば簡単に話がついて内々で終わってしまうので、外部に露見することはない。以前もブローカーが介在して裏口入学がバレてしまうことがあったので、そういう手法は消えたと思ってました。ブローカーはフリーハンドで、失敗しても別の仕事をやればいいから、第三者にペラペラ話して情報が広まってしまう。仲立ちしているだけなので、大した罪にもならないですから。ブローカーではなくて、医学専門の予備校が仲介するという話は聞いたことがあります。そういうところは受験がビジネスですから、口が堅いので露見しないですよね」
今回の裏口入学に関しては、東京医科大の体質が関係しているのだろうか。
「私立大学というのは設立の時の経緯が、現在に至る校風に大きく影響してると思います。たとえば早稲田大学は、政治家とジャーナリストを育てるためにつくられた大学です。慶應義塾大学は財界に行く人材を育てるためにつくられた大学。明治大学や法政大学、中央大学は法律家を育てるための大学。そのカラーは今でもありますよ。
東京医科大は、日本医科大学から分裂するかたちで設立されました。日本医大に不満を持った先生や学生が集団で辞めて、それでつくった大学です。日本医大は、慶應や慈恵医大とともに“私立医御三家”と言われる名門です。そこから脱退したところなので、反主流であるとともに独立心が旺盛、唯我独尊でもある。
医学の世界は保守的なので、慶應閥とかいろいろな閥がありますが、東京医大というのは孤立しているわけですよ。それで新宿に高層の病院を建てるなど大胆な行動に出たり、ちょっとがんばりすぎてしまう傾向があるんですね。どこかの閥に入っていれば、バックボーンがあって安心ですが、それがないので無理してしまう。そのため他の医大に比べて“常にお金が欲しい状態”で、それが今回の事件の背景にある気がします」