不正にアップロードされた漫画が読み放題――違法サイト「漫画村」をめぐる問題では、そのモラルなき運営体制が問われたのと同時に「ネット広告のあり方」についても一石が投じられた。
「漫画村」には多数の企業広告が掲載されており、それらが「不正を行うための資金源」として糾弾されたのだ。多くのウェブサイトやアプリは無料で利用できるが、それらのサービスは広告主の広告費によってまかなわれていることが多い。無料でネット上のサービスを楽しめる背景には、複雑化するネット広告の仕組みがある。
そんな「ネットと広告」について、adjust株式会社の日本チームカントリーマネージャー・佐々直紀氏に話を聞いた。
ネット広告が複雑化する、2つの問題点
――「漫画村」には数々の企業広告が掲載されていましたが、そのなかには広告主が意図しないかたちで出稿されていたケースもあることが問題視されました。そもそも、なぜこのようなことが起きるのでしょうか。
佐々直紀氏(以下、佐々) 主な要因は2つあります。まず一点目は、アドネットワークの問題です。アドネットワークは、いわばウェブサイトやアプリなど広告を出す「枠」を束ねている存在です。広告を出稿したい広告主がアドネットワークに出稿を依頼すれば、そのアドネットワークが持つすべての広告枠に広告が出稿される仕組みとなっています。そして、そのアドネットワーク同士が非常に複雑にからみ合っており、自動化されているんです。
広告業界内では、アドネットワークが持つ広告枠を「在庫」と呼びます。そして、広告業界の関係者にとっては「在庫があるのに広告が表示されない状態」が一番まずい。そのため、「あるアドネットワークと別のアドネットワークが、お互いに空の在庫に保有している広告を表示し合う」ということが自動的に行われています。したがって、今は広告主が「自社の広告がどのサイトに出ているか」をすべて把握するのは、とても難しいと思います。
――ネット広告の仕組みが複雑すぎるんですね。「複雑さに乗じて不正をしやすい環境」とも言えますね。
佐々 そして、二点目はアフィリエイトを行うアフィリエイターの存在です。アフィリエイターは商品やサービスを宣伝するホームページ(ランディングページ)をつくり、そのページ経由で商品が購入されれば、広告主から規定の報酬を得られます。
したがって、アフィリエイターが「漫画村」のような「道義的に問題はあるが、アクセス数は莫大」なサイトに、あえて自分のランディングページの広告が表示されるのを狙うケースもあると思います。
アフィリエイターもさまざまで、企業と提携しているケースもあれば個人で活動しているケースもあります。これも、企業側がそのすべてを把握することは不可能でしょう。
「漫画村」がアプリでは不可能だった理由
――「漫画村」については、政府がプロバイダ業者にサイトを表示させないようにするブロッキングを求める姿勢を示しました。「漫画村」では、出稿している企業が「不正の手助けをしている」と批判される事態にもなり、いわば広告業界も加担している構図になりました。一連の問題に対して、広告業界での対策は行われているのでしょうか。
佐々 「漫画村」をきっかけに、アドネットワーク側でも違法や不正なサイトへの広告出稿についての議論や取り組みがさらに進んでいます。今後は、ますます業界を挙げての取り組みが必要ですね。ネット広告市場が縮小していくとは考えられないですから。
一方で、「漫画村」の問題は「ウェブサイト」だから起きたことであり、「アプリ」では比較的難しいと思います。アプリの場合は「Google Play」や「App Store」の審査があるので、「漫画村」のように道義的に問題のあるアプリは審査の段階ではじかれてしまいます。
――より「自由度」の高いウェブだからこそ起きた事件だったんですね。
佐々 はい。ですが、今はスマホユーザーの「アプリシフト」が進んでいます。利用シーンが「ウェブ(スマホのブラウザ)」から「アプリ」へ流れているということです。
eコマースなどでも、販促費のウェイトをウェブからアプリに移すケースが増えています。アプリならプッシュ通知が送れたり、ユーザーとのコミュニケーションが増えたりするので、「1ユーザー当たりの売り上げはウェブよりアプリのほうが高い」と言われています。そのため、各企業はアプリのインストール促進キャンペーンを行い、インストール後もユーザーが休眠したりアプリをアンインストールしたりしないよう、広告費をかけてテコ入れの施策を行っています。
――かつてはアプリのテレビCMといえばゲームばかりでしたが、今はゲーム以外もよく見かけるようになりましたよね。
佐々 このアプリシフトは、裏を返せば「広告を利用して不正を働き、儲けようとする人や組織が活動する場所も、ウェブからアプリに移りつつある」とも言えるということです。
――しかし、先ほど「『漫画村』のような道義的に問題のあるコンテンツは審査のあるアプリでは提供は難しい」というお話がありました。
佐々 はい。アプリの場合、「漫画村」で行われていたような「道義的に問題はあるがアクセス数が莫大なコンテンツに広告を出稿し、クリックしてもらうことで儲ける手口」は使いにくい。その代わり、テクノロジーを活用し「広告経由でインストールした」という状況を偽につくり出して、広告主の広告費をかすめ取る「アドフラウド(広告詐欺)」の問題が深刻化しているんです。
当社は、アプリ業者に向けて、そのアプリがどのメディアを通じてどのくらいインストールされ、その後どのくらい活用されているかを計測するツール「Adjust」を提供しています。Adjustのなかにはアドフラウドのフィルタリング機能もあるのですが、現状ではおおまかに全体の約10%が不正に行われたインストールですね。
――かなりの割合です。
佐々 はい。今は、アプリのリリース時に数億円もの広告費用をかけてキャンペーンを行うことも珍しくありません。そのうち10%が「偽の広告効果」として、不正を働く個人や組織に無意味に吸い取られてしまっているのです。
――ありがとうございました。
ネット不正の舞台はウェブからアプリへ……次回はアドフラウドの詳細な手口について、引き続き佐々氏にお話をうかがう。
(構成=石徹白未亜/ライター)
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