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女性医師の生涯未婚率35.9%、休職の主要因は自分の病気…女性医師を破壊する医療現場の闇

取材・文=小野貴史/経済ジャーナリスト
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女性医師の生涯未婚率35.9%、休職の主要因は自分の病気…女性医師を破壊する医療現場の闇の画像1「Gettyimages」より

 東京医科大学における事実上の女子学生への一律減点が発覚したことで、女性医師の労働環境をめぐる問題がクローズアップされている。そこで前回記事『1点につき100万円、合格は寄付金次第…医学部入試、裏口入学と男女比調整が常態化の理由』に引き続き、美容外科医でハイクラス家庭教師MEDUCATEを運営する細井龍氏に話を聞いた。

――東京医大が行った女子受験生に対する一律減点については、女性医師の退職が理由に挙げられています。2015年の統計でOECD加盟国の女性医師割合は平均45%で、日本は20%弱でした。この差は何が原因だと考えられますか。

細井 日本は変化を好まない保守的な国なので、男女平等を謳いつつも、政界や経営者は男性が多くを占めているのが現状です。日本はかつて鎖国をしていた国でもありますから、新しいものを取り入れるのが苦手な国とも捉えられると思います。

 医師の場合、とくに50代以上の方々は、昭和の考え方の持ち主が多く、柔軟とはいえない場合も多いです。自分の利権や立場に固執しようとしてしまいがちです。たとえば、新しいITシステムを組み込もうと思っても、決定権を持つ教授や、上層部が受け入れられないと導入は難しいのが実情です。

――今年4月の診療報酬改定で、遠隔診療が保険診療に認可されました。これまで反対論が多かったのは、そうした保守的な体質が背景にあったのではないでしょうか。

細井 遠隔診療については、アクティブな医師の間でITを駆使して、遠隔診療を広めていこうという流れがありましたが、ベテラン医師たちは、「診察が不確実になる」「エビデンスのない医療が広まってしまう」と、ネガティブな部分を捉えていました。そういう世代による考え方の違いがあってなかなか足並みが揃わないのだと思います。

――女性医師の支援については、日本医師会が女性医師支援センターを設置して女性医師の就労支援に取り組んでいます。ただ、日医の役員14名のうち女性は1名ですね。

細井 医療関連団体の代表や幹部に就任している女性医師は60歳を過ぎた方が多いのですが、現場を離れている方が多いので、どれだけ女性医師の働きやすさについて、現場のストレスを共感できているかはわかりません。出産後の女性医師が出産前と同じように働くことがなかなか難しい背景には、就労環境の未整備だけでなく、こんな事情もあります。

 不思議なことに、医師は忙しいほうが稼げない仕事なのです。週5日常勤で働くよりも、週5日非常勤で働いたほうが、おそらく4~5倍の収入になると思います。子供のいる女性医師は医局に戻らないで、週3日保育園に子供を預けて非常勤で働いて、他の日は子供と一緒に過ごすスタイルで出産前と同じ額を稼げてしまいます。しかも非常勤のほうが責任は軽く、担当患者を持っていないので急変時に呼ばれることもなく、時間きっかりに帰れます。常勤よりもオンとオフのしっかりした生活ができるのです。

――非常勤医師の報酬はどのぐらいですか。

細井 非常勤の報酬は時給1万円から1万2000~3000円が相場なので、1日8時間で週3日働けば週に24万円、月に96万円になります。他の職業では考えられない金額です。大学病院の常勤医師なら週5日・当直1回で月給40万円程度なので、非常勤を選択するというのはある意味で理にかなっています。医師のキャリアは医局のなかで長く働いていくことで、ポストが上がっていきます。常勤が割りに合わなくても多くの医師が辞めずに続けているのは、そういった理由もあるのです。

女性医師の抑制が議論の的に

――東京医大が意図した女性医師の抑制策は、医療界が医師の男女比を世間に問いかける契機になったのではないでしょうか。

細井 医療現場の労働改革を促す大きな契機になったと思います。今、学生として入学した学生が本格的に医師として稼働するのは10~15年後ですから、現在直近でこの医師不足を解決する方法としてあげられているのは、離職している女性医師に復帰してもらうことです。

 大学側は、女性医師が実際どれくらい15年後に働いているか、20年後に働いているかの統計データを持っています。それに基づいて、将来的に必要と予想される医療労働人口を推定し、そこから男女比の調整を図ったのではないかと考えています。医療資源の最適なバランスを考えたまでであり、男女差別をしようとしていたわけではないということです。というか職業の向き不向きを男女差別と呼ぶのであれば、助産師さんは女性しかなれませんが、それは男子差別ということになってしまいますよね。

――総務省が12年に実施した就業構造基本調査から算出されたデータによれば、男性医師の生涯未婚率は2.8%で、女性医師は35.9%となっています。

細井 医師の間でよく言われるのは、女医は「3分の1が結婚して幸せになる」「3分の1が結婚して離婚する」「3分の1が1回も結婚しない」という「女性医師の3分の1の法則」です。日本ではシッターさんに抵抗を持つ家庭が多いだけでなく、お金もかかりますし、保育園もなかなか見つからない場合もあります。国は能力の高い女性が存分に働けるように、子育てを支援していくことが大事です。女性医師を含めた優秀な女性が、どんどん働くことで、医師不足も解消されますし、彼女らが稼ぐことに伴い、税収も増えます。

――厚生労働省の資料を見て驚いたことがあります。女性医師が離職もしくは休職する理由の1番目が出産、2番目は子育てで、3番目の理由が自分の病気療養です。勤務医の仕事が過酷なことは知られていますが、そこまで過酷なのですか。

細井 度重なる当直や、当直明けの連続勤務などは健康を害する要因には十分なり得るでしょう。概日リズムも大きく崩れますし、特に女性にとっては、ホルモンバランスの面でも不調をきたす原因になると思います。「自分たちはブルーワーカー」と口にする医師は多く、確かに体力と精神力を削りながら、働いているのです。こうした現状を踏まえると、あえて女性医師が、夜間診療の多い科を避けてしまうのは至極当然ともいえるでしょう。

 一方、アメリカでは、ハードで専門性の高い科ほど年収が高い傾向にあり、心臓外科などは年収5000万円くらいです。これだけの金額なら納得できる医師も増えるかもしれません。

――日本では診療科によって給与水準に差がないのでしょうか。

細井 常勤の給与は科に関係なく、学年やポストで決まり、差はほぼないと思います。時間外勤務をしたり、当直をたくさんこなしたり、休日にアルバイトに行くことで収入をアップさせるというのが、医者の稼ぎ方なのです。

なぜ医師の労働環境は改善されないのか

――医師の長時間労働を是正する手段に医療のIT化が挙げられていますが、日本の医療現場では、まだIT化が遅れているのですか。

細井 IT環境はまだ改善の余地はあると思います。カルテを国内でテンプレートを統一し、各病院で共通のデータベースで患者情報を管理することで紹介状作成の手間を省いたり、AIによる診断を導入することで時間削減を図ったり、さまざまなIT技術で医者の業務を減らすことはできると思います。

 しかし実際、さまざまなイノベーションが起きていても、それをすんなり取り入れにくいのが、先ほども言った通り日本の性質ですよね。確かにカルテシステムなんかは大病院で入れ替えるとなると、数千万円のお金がかかりますから、病院単位で先進的にそういった試みは足取りが重いことも考えられます。そういった部分には国立病院が主導となってリードしていく必要があるとは思います。

 休日の指示等に関しても、自分のスマートフォンからオーダーや指示を管理できるようになればどれだけ可処分時間が増えるでしょうか。働きやすい環境をつくることで医師がストレスなく長く先進医療に従事し、結果的には医療資源の増大をもたらすのです。

――日本でIT産業を管轄するのは経済産業省です。ところが、厚生労働省にはIT化に限らず経産省が進める医療関連プロジェクトに対して、「医療の産業化によって、医療に市場原理を持ち込むことは好ましくない」というような拒絶反応があるようにもみえます。

細井 そうですね。ITの推進などイノベーティブなテーマを推進するのは経産省ですが、それを厚労省がのまない限り、医療現場に普及しません。医療機器は製品化されてから保険適用されるまで5~10年かかります。保険適用されないと、一般の患者さんは利用できません。さまざまなベンチャー企業が多様なアイデアを持っていますが、それを保険適用にするかどうかは、厚労省の医系技官や役人が承認してくれなければなりません。医療費増大がささやかれるなか、なかなか承認が下りにくいのは仕方のないことだとは思いますが、20~30年後の医療を鑑みた長期的な展望は必要だと思います。

――政策を検討する専門家たちの年齢も気になります。厚労省の医療分野の審議会や検討会の委員は、主に大学教授や医療関連団体の代表者などが就任していて、多くの方が60歳以上です。

細井 彼らは医療界の具現の士であることは間違いないと思いますが、今後20~30年の医療を自分の問題としてとらえてもらえるでしょうか。実際に20年後の医療を背負っていく世代の起用を進め、ベテランとイノベーターがシナジーを起こしていくことが求められていくと思います。
(取材・文=小野貴史/経済ジャーナリスト)

小野貴史/経済ジャーナリスト

小野貴史/経済ジャーナリスト

1959年茨城県生まれ。立教大学法学部卒業。経営専門誌編集長、(社)生活文化総合研究所理事などを経て小野アソシエイツ代表
著書「経営者5千人のインタビューでわかった成功する会社の新原則」

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