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「相馬勝の国際情勢インテリジェンス」

日本と北朝鮮が極秘会談…拉致被害者の返還を直接交渉、安倍首相の電撃訪朝の可能性も

文=相馬勝/ジャーナリスト
日本と北朝鮮が極秘会談…拉致被害者の返還を直接交渉、安倍首相の電撃訪朝の可能性もの画像1北朝鮮・金正恩氏(提供:KNS/KCNA/AFP/アフロ)

 8月28日付の米紙ワシントン・ポストは、7月に日本と北朝鮮の当局者がベトナムで極秘会談を行ったと報じた。この会談は米国にも秘密にされていたとのことで、トランプ米大統領は安倍晋三首相に対して非常に立腹しているらしい。

 トランプ氏は米朝首脳会談で日本人拉致問題に言及したと言っているから、「日本が北朝鮮と抜け駆けするのはけしからん」という理屈なのだろうが、米メディアの報道によると、トランプ氏は金正恩朝鮮労働党委員長に「安倍が『日本人拉致被害者を返してくれるよう、金委員長に言ってください』と私に泣きついているんだ」という程度しか触れていないというから、日本が本気で拉致被害者を取り返すには北朝鮮との直接交渉するしかない。日朝当局者の秘密接触は当然だ。

 問題は首相官邸などごくわずかの人間しか知り得ない極秘情報を、誰がワシントン・ポストの記者に漏らしたかだ。同紙の記事を読むと、ニュースソースとして「北朝鮮問題に詳しい人」という漠然とした表現を使っている。また、「米政府高官(複数)」が日朝の秘密協議について「苛立ちをあらわにした」と書いているので、日本側が意図的に複数の米政府高官に情報をリークしたのは間違いないだろう。

 日本政府を代表して交渉に臨んだのは、安倍首相の側近中の側近といわれる北村滋内閣情報官だが、彼は北朝鮮の専門家ではない。本来ならば、北朝鮮問題のエキスパートである外務省担当者、あるいは高官が北朝鮮当局者と接触すべきところが、外務省ルートが機能しないことから、北村氏が出てきたとみるべきだろう。読売新聞は今年6月、外務省が動かないため、安倍首相が北村情報官を主軸とする情報担当者を通じ、北朝鮮との接触を模索していると報じている。

 それを裏付けるように、北村氏が接触した相手が北朝鮮の情報機関といわれる朝鮮労働党統一戦線部の金聖恵(キム・ソンヘ)策略室長だったことも、外務省関係者が外された理由とみられる。このため、なんらかのかたちで、この秘密接触の情報を入手した外務省関係者が北村・金接触をつぶそうとして、旧知の米政府高官にリークした可能性も考えられる。少なくとも、拉致被害者の帰還よりも、自らの手柄のほうに重点を置いている人物といえるだろう。

金正恩指導部を支える有力幹部

 それでは、金聖恵氏とはどのような人物なのか。

 韓国メディアによると、金日成(キム・イルソン)総合大学出身とされる50代のエリート官僚で、南北閣僚級会談など「対南(韓国)交渉」に長く関わっており、「いつも自信満々」「柔らかく落ち着いた言動が普通の人ではない印象」とされる。

相馬勝/ジャーナリスト

相馬勝/ジャーナリスト

1956年、青森県生まれ。東京外国語大学中国学科卒業。産経新聞外信部記者、次長、香港支局長、米ジョージワシントン大学東アジア研究所でフルブライト研究員、米ハーバード大学でニーマン特別ジャーナリズム研究員を経て、2010年6月末で産経新聞社を退社し現在ジャーナリスト。著書は「中国共産党に消された人々」(小学館刊=小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞作品)、「中国軍300万人次の戦争」(講談社)、「ハーバード大学で日本はこう教えられている」(新潮社刊)、「習近平の『反日計画』―中国『機密文書』に記された危険な野望」(小学館刊)など多数。

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