リバースモーゲージ普及を阻害する要因
長寿社会において、老後資金の不足に対応する一つの方法は、自宅を担保にお金を借り入れ、死後に売却して返済する仕組みであるリバースモーゲージを活用することである。この仕組みには、商品を提供する金融機関にとって、住宅価格下落で担保価値が落ちるリスクのほか、借り手が長生きするリスク、金利上昇リスクなどが存在する。いずれも担保割れにつながるリスクであり、金融機関は担保評価額の5~6割を融資額としてきた。また、日本の中古市場では、建物価値は築20年ほどでゼロ評価になるため、担保としては通常、土地しか評価されていない。
一方、担保割れした場合は、担保以外に返済義務が生じない「ノンリコース型」の仕組みでなく、「リコース型」の仕組みであることが一般的であるため、子どもなど相続人に返済義務が及ぶ可能性がある。これらの難点は、リバースモーゲージの普及を妨げる要因となってきた。民間の金融機関がリバースモーゲージの商品を初めて提供したのは1999年のことであったが、高齢者の潜在需要に比べればこれまでの利用実績は多くない。
しかし、近年はリバースモーゲージ以外にも、住んだままで自宅をお金に換えたり、自宅を担保にお金を借りられる手法が登場している。以下では、そうしたいくつかの手法を検討した上、今後の普及可能性を考える。
セール・アンド・リースバック
新たに登場した仕組みの一つは、「セール・アンド・リースバック」と呼ばれるものである。自宅を不動産会社に売却すると同時に、不動産会社から賃借して住み続ける方法である。こうした商品を2013年から提供しているハウスドゥ(2016年12月に東証一部上場)の買い取り件数は順調に伸びており、今年6月で累計成約件数は985件に達した。買い取り価格は市場価格の7割、リース料は買い取り価格の約8%(年間)に設定されている。将来、余裕ができた時に買い戻すこともできる。
利用が想定されるケースは、(1)住宅ローン返済に窮しているが競売や任意売却は避けたい、(2)住宅ローンは完済しているが生活資金に余裕がないなどの場合である。(1)の場合、物件の売主にとっては自宅に住み続けたまま、ローン返済を免れることのできるメリットがあり、物件の買主にとっては、競売や任意売却前に優良物件を自社物件として確保できるメリットがある。リース期間としては3年の基本契約を結び、リース料支払いが続く限り期限を延長するが、逆に言えば、リース料が滞れば住めなくなることで、物件の買主にとって不良借家人に居座られるリスクはない。売主が物件を買い戻す際の価格は、買い取り価格より15%高く設定される。