会社を設立直後に税務署の調査が入り追徴課税!税理士使わず税務申告はこんなに危険!
元国税局職員、さんきゅう倉田です。好きな法人は「宗教法人」です。
「法人成り」という言葉があります。将棋で歩が盤面を進んで金に「成る」ように、仕事が増えてきた個人事業主者が法人になることを言います。なぜ、法人成りを行うかというと、事業規模が大きくなれば、取引先との関係や税制面で法人として取引を行ったほうが有利と判断されるからです。
しかし、「成る」といっても、ひよこが鶏になるように、おたまじゃくしがかえるになるように、ひき肉がハンバーグになるように、個人事業者が手続きによって法人に変化するわけではありません。法人が設立された後も、個人事業者としての仕事は可能ですし、消えることはありません。基本的には、今までの事業を承継し、減価償却資産や棚卸し在庫を譲り受け、個人事業者がその法人の代表取締役となり、従業員もそのまま採用されるので、個人が法人に「成ったような」外観があります。
個人から法人に引き継ぐにあたって、悩ましい問題があります。個人の決算期は12月ですが、法人の決算期は自由に選択できます。年の途中で法人成りすると、その年の所得の計算はどうなるのでしょうか。
ぼくの今の知識レベルで考えれば簡単にわかることなのですが、国税局に入って1年目のときに納税者の方にそのような質問をされて、困ってしまいました。1年上の個人課税部門の先輩に確認してもわからず、頭を抱えた思い出があります。
個人事業者の場合は、事業所得があり、確定申告をします。法人成りをすれば、代表取締役となり、役員給与がもらえます。つまり、給与所得です。その年中には、事業所得と役員給与が発生するわけです。これをどのように申告するかというと、たとえば、1月から8月までは個人事業者だったのでそれまでの事業所得をすべて算入し、そこから12月までの役員給与を給与所得として算入して、所得税の確定申告をすることになります。1年目のぼくにはこれがわかりませんでした。理解できればシンプルですが、事業を継続していた場合、いつまでが事業所得で、いつまでが給与所得となるのか、いつから法人格が成立するのかと聞かれたら、話はもう少し複雑です。
現実に、このことが争われた事例がありました。
法人成立の日付が焦点に
Aさんは、建築設計を行う個人事業者でしたが、法人を設立することにしました。法人設立後に役員になる人を集め、法人設立発起人会で決議しました。といっても、役員となるのはAさんだけなので、Aさんがひとりで「法人にするぞ」と考えて決議書を作成しました。
その後、法務局で登記をして法人の設立を行い、今までの事業を法人に引き継ぎ、取引を法人名義にして仕事を続けました。翌年2月には、所得税の確定申告をします。前年までは事業所得だけでしたが、今回は給与所得も加わります。来年からは役員報酬のみなので、年末調整を行い、確定申告は要しない予定です。申告を無事済ませ、その数カ月後。税務調査の連絡がありました。法人ではなく、Aさん個人への調査です。
調査で問題となったのは、法人の設立時期でした。いつから法人が存在し、売上が法人のものとなるのか。Aさんが売上を除外していたような事実はないので、個人と法人を合わせた売上は変わりません。しかし、Aさんへの調査ですから、調査官としては可能な限りAさんの所得を増やしたいわけです。そこで帳簿書類を確認すると、Aさんは「法人にするぞ」
と考えた日以降の売上を、すべて法人のものとしていました。
一般的に法人格というのは、法務局で登記することで生まれます。これは、法律で認められた人格であるからだと考えますが、Aさんのように法人設立の準備を開始した、つまり決議書作成の日から法人格を認めると、恣意的な損益調整ができてしまいます。ワードで作成した書類の日付を変えるだけのクローズドな作業で設立日を決められるからです。Aさんは売上だけではなく、経費も青色専従者給与も決議書の日を基準にしていました。
最終的に調査では、法人の成立は、「その本店の所在地において設立登記を行うことにより初めて法人としての権利能力を取得し法人として存在することとなる」とされ、Aさんの個人所得は増加することとなりました。税務においては、税理士さんと相談し、イレギュラーな“自分ルール”で処理を行わないことが賢明です。
(文=さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人)