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短時間睡眠、脳の機能に悪影響…アルツハイマー型認知症リスクが高まる恐れ

取材・文=渡邉由希/医療ライター 協力=佐藤誠/筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構教授
短時間睡眠、脳の機能に悪影響…アルツハイマー型認知症リスクが高まる恐れの画像1佐藤誠教授

 日本は世界でも有数の“睡眠不足大国”として知られているが、個人差はあるものの、多くの人にとっては6~8時間程度眠ることが最適だということがわかっている。

「自分はショートスリーパーだから、短い睡眠で大丈夫」というのは無理があるという。本当に睡眠時間が5時間未満のショートスリーパーだと判明するのは、100人中1人いるかいないかだとされている。

「人はなぜ眠るのか?」と考えることはないだろうか。よくよく考えてみたら、毎日眠らないと生きていけないというのは不思議なことかもしれない。しかし、最新の研究をもってしても、人がなぜ眠らなければならないのかは、よくわかっていない。

 眠りについて少しおさらいをすると、睡眠には「ノンレム睡眠」と「レム睡眠」という2つのタイプがある。寝るとまず「ノンレム睡眠」が、続いて「レム睡眠」が出現して、だいたい90~120分おきに交互に繰り返しているとされている。

 ノンレム睡眠は、体と脳の両方が休息している睡眠で眠りの深さにより3段階に分かれている。目が覚めやすい浅いノンレム睡眠を経て、深いノンレム睡眠である「深睡眠(徐波睡眠)」に至るのに、約30分を要する。一方のレム睡眠は、全身の筋肉は弛緩しているが、大脳は活発に活動している状態。レム睡眠のときには、明瞭な夢を見ていることが多い。

 ヒトの睡眠について、どこまでわかっていて、どこからがまだ解明されていないのか。筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)の佐藤誠教授に話を聞いた。

「認知症予防」のカギは「深睡眠」?

――なぜ人は眠るのか?

佐藤教授 睡眠中に脳内の老廃物が排出されるなど、いくつかの機能は判明してきたが、よくわかっていないことがたくさんある。

 眠りの目的としてよく言われるのは「脳の休息」だが、実は眠っている間も脳は大半の時間、エネルギー消費量を落とすことなく活発に働いている。現在のところわかっているのは、記憶の整理と定着、脳に溜まった老廃物の排出などが行われているということだ。

 脳の毛細血管はほかの血管と大きく異なって密着性が強いため、動脈で搬送されても脳内へ入ることができない物質も多く、逆に血液中に流出することが阻止されている脳内産生物質も多い。このシステムを血液脳関門という。

 アルツハイマー型認知症の原因のひとつとされているアミロイドベータというたんぱく質(老廃物)は、血液脳関門を通過できない。そのためアミロイドベータは、排出されないと脳内に少しずつ蓄積していき、およそ20年という長い時間をかけてアルツハイマー型認知症を発症するとされる。

 特に老廃物の排出は大切で、このアミロイドベータが、睡眠中に脳脊髄液中に排出されることが近年明らかになった。

 脳を健康な状態に保つために睡眠は不可欠といえるが、しかしこれだけでは、「なぜ睡眠が必要か?」という理由として十分ではないといえる。「なぜ人は眠るのか」という遠大なテーマの解明は、今後の研究に委ねられる。

――良い睡眠とはなんでしょうか。

佐藤教授 これもはっきりとした定義はなく、よくわかってないが、「量」と「質」のバランスが大切ということは言える。

「量」については、これまで行われた疫学調査によって6〜8時間程度眠る人の集団で、高血圧や糖尿病、肥満などの病気の発症率がもっとも低くなることが示されている。また、睡眠時間が短い人はメンタルヘルスの状態が悪く、逆にメンタルヘルスの状態が悪いとなかなか眠れないというように、睡眠時間とさまざまな疾患は相互に関係している。

 よく「自分はショートスリーパーだから、あまり眠らなくても大丈夫」と豪語する人がいるが、実際にショートスリーパーだと確認できるのは100人のうち1人いるかいないかの割合。

 平日は4時間程度の睡眠で十分だが、週末に長時間眠っているという人も少なくない。これはショートスリーパーとは言わない。平日の「睡眠負債」を休日に返済しているにすぎない。睡眠は貯蓄する(寝だめする)ことはできないので、平日もなるべく眠る時間は削らずに確保してほしい。

「質」については、先ほども少し述べたが、「深睡眠」(徐波睡眠)を確保することがカギになる。ノンレム睡眠(特に深睡眠)は、コンピュータでたとえるとデフラグを行っている状態だというとわかりやすいかもしれない。シナプス(ニューロンとニューロンの接合部)の再統合を行っている。

 しかし、どうしたら深睡眠を得られるかもわかっていない。ちまたに溢れる「良い睡眠が得られる方法」などは、エビデンスがないものが少なくなく、「こうすれば良い睡眠が得られる」と断言できるものはない。

 それでも2つ挙げるとすれば、「生活のリズムや食生活を整えること」「寝室の環境を整えること」が、睡眠の質を上げることにつながるということだ。

「寝室の環境を整えること」については、脳は寝ていても聴覚・視覚中枢は働いているので、刺激しないように寝室を暗くする、静かにする、湿度・温度を快適にするという要素を見直してみてほしい。自分が心地よいと感じる環境をいろいろと試しながら探ってみることが重要だ。

 後編では、睡眠障害などついて紹介する。

佐藤誠/筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構教授

佐藤誠/筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構教授

筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構教授。
1982年 新潟大学医学部卒業後、新潟市民病院で初期研修。1985年より新潟大学医学部内科学第二講座医員、1987年より東北大学医学部内科学第一講座国内留学、1989年より新潟大学内科学第二講座医員、1996年より米国ウィスコンシン州立大学マディソン校留学、2001年より上越教育大学生活健康系講座教授・保健管理センター所長、2005年より筑波大学人間総合科学研究科、2015年より現職。

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