「値上げ=客離れ」の法則は簡単に打ち破れない。カジュアル衣料の“勝ち組”であったユニクロが、2度にわたる値上げで客離れを起こし、苦戦に陥ったことは記憶に新しい。株式市場がもっとも注目したのは、焼き鳥チェーン、鳥貴族の値上げの成否だった。
黒田東彦・日本銀行総裁が、社名こそはっきり出さなかったが、鳥貴族の“値上げ力”の高さを称賛したことがあった。そこで、値上げによって鳥貴族の客足がどう変遷したのかを検証してみた。
鳥貴族は2017年10月、焼き鳥などの価格を税抜き280円から298円に引き上げた。値上げの理由は、人手不足によるアルバイトなどの人件費の上昇と野菜の高騰だった。その後、業績への影響はどうだったのか。結論を言えば、客離れは会社側の想定を超えていた。
【月次動向】(前年同月比)
既存店売上高
17年8月 ▼0.5%
9月 1.9%
10月 ▼3.8%
11月 5.3%
12月 0.4%
18年1月 ▼3.6%
2月 ▼6.0%
3月 ▼2.8%
4月 ▼4.3%
5月 ▼8.8%
6月 ▼9.0%
7月 ▼11.2%
18年7月決算の累計 ▼3.7%
客数
17年8月 1.5%
9月 3.4%
10月 ▼7.0%
11月 0.5%
12月 ▼2.1%
18年1月 ▼6.2%
2月 ▼8.0%
3月 ▼4.7%
4月 ▼6.2%
5月 ▼11.4%
6月 ▼11.4%
7月 ▼14.2%
18年7月決算の累計 ▼5.7%
客単価
17年8月 ▼2.0%
9月 ▼1.4%
10月 3.5%
11月 4.7%
12月 2.6%
18年1月 2.8%
2月 2.2%
3月 2.1%
4月 2.1%
5月 2.9%
6月 2.7%
7月 3.5%
18年7月決算の累計 2.1%
(資料:鳥貴族月次報告)
18年7月期決算の既存店売上高は前年比3.7%減、客数は5.7%減、客単価は2.1%増だった。客数の落ち込みを値上げによる客単価の上昇で吸収し、既存店売り上げを増やすというシナリオだったが、その思惑が見事に外れた。
客数は値上げ後、前年同月比で実績割れが続き、18年5月からは3カ月連続で2ケタのマイナスとなった。
1品18円の値上げといっても、ファミリー層は支払いの絶対額が増えることにナーバスになる。家族連れでの利用が多い40代のファミリー層の来客数は15%以上落ち込んだ。
コアターゲット層である20~30代の会社員も減り、学生は10%減った。大幅に増えたのは外国人で、20%以上の増加。鳥貴族は外国人観光客が訪れる人気焼き鳥店になったのだ。
地域別での既存店の売上高は、本拠地の関西圏が0.1%増と健闘した。一方、関東圏は5.4%の減少。関東圏の利用客のほうが価格にシビアだった。
素人考えだと280円から298円の値上げは6.4%にすぎないということになるが、サービス業はこうした単純な発想では勝ち抜けない。
客数の落ち込みを、客単価の上昇で吸収するという会社側の当初のシナリオは、アルコール類の注文が減ったことで砂上の楼閣となってしまった。結局、客単価は2.1%増にとどまり、客数の落ち込みを埋めるには全然足りない。客数は大きく落ち込み、客単価の伸びは小さかった。
鳥貴族の当初の想定が甘かったということかもしれない。