たばこ、本人以外が「三次喫煙」被害で肺がんや要介護の危険性増大…多額の医療費・介護費
「わかっちゃいるけどやめられない」――。できれば、たばこをやめたいが、長年の習慣を変えるのは難しいと感じている。そんな方々に、禁煙へのインセンティブになればという思いを込めて、前編に引き続き、たばこがどれくらい経済的損失を被るものなのかをお伝えしよう。
前編では、以下の喫煙による5つの経済的なデメリットのうち(1)(2)をご紹介した。後編では、(3)~(5)について詳しく説明する。
(3)医療・介護費がかかる可能性が高い
たばこが原因でがんや脳卒中などの病気のリスクが高まり、それがもとで要介護状態になり、医療費や介護費がかかる。こんなケースは、多くの人にとって、周知の事実だと思っていた。しかし実際、そうともいえないのではと疑うような出来事に遭遇した。
先日、都内のある居酒屋で友人と会食をしていたときのこと。隣のテーブルの会話が耳に入ってきた。
発言A「たばこが健康に悪いなんて、よく言うけどさー。確かなエビデンスってないんだよね」
発言B「ホント、ホント。それに、健康被害があるとしても、本人の自己責任で吸ってるんだから、別に誰にも迷惑かけてないでしょ、って感じだよね」
「エビデンス(科学的根拠)」「自己責任」といった用語を使っているあたりは、さも知識がありそうな30~40代のサラリーマンのグループだったが、今時、こんなことを言っている社会人がいるとは、真剣に驚いた。
しかし、一般人の健康に関する知識はこんなものかもしれない。そこで念のため、上記の2つの発言に誤りがある点を指摘しておこう。
まず発言Aのたばこによる健康被害については、さまざまな研究成果が発表されている。例えば、日本医師会のHPによると、喫煙によるがんのリスク(男性)は、肺がん4.8倍、咽頭がん5.5倍、食道がん3.4倍と明記されている。
そして、がん以外にも、脳卒中や虚血性心疾患などの循環器疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの呼吸器疾患、生活習慣病の糖尿病、妊娠周産期の異常(早産、低出生体重児、死産、乳児死亡など)、歯周病、認知症など、要するに、さまざまな病気との関連性が指摘されている。
続いて発言Bだが、たばこの害は、本人限定ではない。たばこの煙には、本人が吸う「主流煙」とたばこの先から出る「副流煙」があり、煙の中に含まれる有害物質は、主流煙よりも副流煙のほうが数倍から数十倍も多いといわれている。
この副流煙を、自分の意思とは無関係に吸い込んでしまうことを「受動喫煙」というが、これによる肺がんのリスクは、たばこの害を受けない人の1.3倍にものぼる(国立がん研究センター 社会と健康研究センター「日本人のためのがん予防法」)。
さらに最近、問題視されているのが「三次喫煙」である。これは、たばこの煙が壁やカーテン、洋服に染み込み、煙が消えた後でも有害物質を放出し続け、それによってひき起こる健康被害のことだ。病院などで、「喫煙後45分間は、院内の立ち入り禁止」「喫煙後30分はエレベータ使用禁止」などといった張り紙が掲示されており、いずれも三次喫煙防止のためだろう。
そこで改めて「医療・介護費がかかる可能性が高い」を検討してみると、喫煙者本人だけでなく、受動喫煙にさらされる家族等の費用もかさむことも考慮すべきなのだ。
ちなみに、がんにかかる医療費は、肺がんの場合108万円(※1)、介護費用は約494万(※2)となっている。ただし、これらはあくまでも目安にすぎない。数百万円から数千万単位となることもある。
※1:厚生労働省 第3次対がん総合戦略研究事業「がんの医療経済的な解析を踏まえた患者負担の在り方に関する研究」2012年度報告書
※2:生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査」(平成30年度)より。介護を行った期間平均54.5カ月×介護に要した費用(公的介護保険サービスの自己負担費用を含む)月々の費用平均7.8万円+一時費用平均69万円(住宅改造や介護用ベッドの購入など)
(4)住まいにかかる費用負担が大きい
たばこのリスクと住まいといえば、火災による損害賠償リスクと現状維持費用の2つがある。
前者についてはケースバイケースだろうが、損害額がかなり高額になる可能性が高い。火災の場合の損害賠償責任は、失火責任法が適用され、火災を起こした者に「故意または重大な過失」がなければ損害賠償責任を負わないとされている。つまり、わざとor当然払うべき注意をはなはだしく怠った場合には、損害賠償責任を負わなければならない。たばこの火を消し忘れて眠ってしまった場合などはこれに該当する。
消防庁のデータ(平成28年中)によると、住宅火災の発火源別死者数(放火自殺者等を除く)は、たばこを発火源とした火災が16.5%と最も高い。物損だけでなく、死者が出たとなると、損害賠償責任ははかりしれない。
後者の現状維持費用については、例えば、賃貸物件の退去時の費用や分譲住宅の壁紙などの張り替え費用など。もっと身近だが、意外にかかると考えておいたほうが良さそうだ。
とくにトラブルになりやすいのは、賃貸住宅を退居する場合。通常は契約時に預けた敷金を原状回復費に充当し、差額が生じた場合は、入居者に返金されるのが一般的となっている。
国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」によると「喫煙等により当該居室全体においてクロス等がヤニで変色したり臭いが付着した場合のみ、当該居室全体のクリーニングまたは張替費用を賃借人負担とすることが妥当と考えられる」と明記されている。
さらに、同ガイドラインでは、部屋を構成する部位ごとに耐用年数を考慮した償却期間が定められている。壁やクッションフロアなどは一般的に6年間なので、住んでから6年経過後は、原則として原状回復時の入居者負担はゼロ。問題は、6年未満など数年住んだ後に退去したケースである。
あるクリーニング業者によると、入居者が喫煙者の場合、たばこのヤニが壁全体についてしまっていて、全面張り替えとなるケースも少なくないという。実際、2~3年しか住んでいないのに、クロス張り替えやドアなどの建具、スイッチ、エアコンなどのヤニ取り清掃費用、タバコ臭の除去費で、10~20万円を請求されトラブルになったという事例もある。
(5)民間保険の保険料が高い(健康体割引が利用できない)
民間保険のなかには、非喫煙者が保険に加入する場合、保険料に「非喫煙者割引」が適用されて、通常よりも保険料が割安になる商品がある。基準は保険会社によって異なるが、過去の一定期間(1~2年など)喫煙していないこと、血圧(90~140mmHgなど)、BMI値が正常値であることなど。対象となるのは、定期保険や逓減定期保険、収入保障保険などの商品だ。
一家の大黒柱などが死亡した場合、保険金を年金等で分割して受け取れる収入保障保険で、具体的にどれだけ安くなるかみてみよう。
たばこを吸わない+健康体基準を満たす場合(非喫煙者健康体保険料率)は、最安3,640円となり、最も高い、たばこを吸う+健康体基準を満たさない場合(喫煙者標準体保険料率)の5,440円に比べて33%も安い。差額保険料は月額1,800円で、保険期間である25年間トータルでは54万円もの違いが出る。
最近では、商品の差別化をはかるために、喫煙者であっても血圧やBMIに異常がなければ割引する商品や、保険加入後に禁煙し、健康状態が改善した場合、保険料が再計算されたり、現在の保険料と健康体割引保険料との差額を契約日に遡って給付したりする商品も登場している。
以上、たばこによる経済的なデメリットをご紹介してきたが、がん患者である筆者の立場からすると、どんな理由をつけても、喫煙者には禁煙していただいて、周囲の健康にマイナスになるようなリスクを軽減させたいというのが正直なところである。ホント、早くやめておけば良かったと、あとから後悔しても遅いんですよ。
(文=黒田尚子/ファイナンシャルプランナー)