米国と韓国の一部で5G通信サービスが始まり、5Gでは日本が遅れているといった意見が出ているが、これは正しくない。というのは、ダウンリンク20Gbps/アップリンク10Gbpsという最終目標の高速データレートを、米ベライゾンも韓国勢も実現できていないからだ。改めて5Gとは何か、考えてみよう。
新聞や調査レポートなどで、「5Gになると2時間の映画を3秒でダウンロードできる」という表現がよくみられるが、これは20Gbpsが実現できて初めていえることである。しかも、ダウンリンクがたとえ20Gbpsになっても、一人がその通信容量を占有できるわけではなく、10人が同時に使えばデータレートは10分の1以下になる。
また、動画や映画のダウンロード時間を短縮するために世界各国が5Gを開発しているわけではない。五輪やサッカー、ラグビーのワールドカップや人気歌手のコンサートなどが行われている場所で、多くの観客が選手や歌手の情報をダウンロードしたり、スマートフォンで動画を撮影してアップロードしたりすると、データレートはたちどころに遅くなる。LTEだと400Mbps程度の高速レートでも4000人が同じ時間にアップロードやダウンロードすると、100kbps以下になってしまい、とても遅く感じてしまう。
その10倍の4Gbpsにすれば1Mbpsで済むため、少しはマシになる。5Gの狙いは、同じ場所にいる大勢の人が一斉にダウンロードやアップロードする際に、データレートが悪化しないようにすることだ。通信トラフィック量が急増すると、基地局で処理できなくなる恐れもある。だからこそ、もっと余裕のあるデータレートである20Gbpsと10Gbpsという規格を、3GPP(欧州の規格委員会)で決めたのである。スタジアムやコンサートなど人が多数集まる場所では、もちろんWi-Fi利用時のデータレートを高める必要があるが、その場合は光ファイバも敷設していることがマストとなる。
最終目標が20/10Gbpsといっても、このデータレートが今すぐ実現するわけではない。データレートは通常、使用するキャリア周波数の数分の1のデータ速度しか実現できない。3.7GHzの周波数だと、1Gbps程度がやっとである。今のところ、3.7GHz、4.5GHzといった6GHz以下の周波数、いわゆるサブ6GHz帯でのサービスであるから、20/10Gbpsの実現ははるかに遠い。実際、米国で始まったベライゾン社のサービスは最高1Gbpsだ。