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岡田正彦「歪められた現代医療のエビデンス:正しい健康法はこれだ!」

突然生まれた病気“線維筋痛症”と大ヒット鎮痛剤に疑惑…根拠不明、服用に危険性指摘

文=岡田正彦/新潟大学名誉教授
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「Getty Images」より

 鎮痛剤(痛み止めの薬)にお世話になったことがある、という人は多いものと思います。たとえば「ロキソニン」は代表的な鎮痛剤のひとつです。この薬は、特許が切れたあと多くのジェネリックが発売され、もっとも安い製品で1錠わずか5.6円になってしまいました。最近はドラッグストアで買うこともできます。

 一方、最新の鎮痛剤として、ぐんぐん売上を伸ばしているのが「プレガバリン」(一般名)で、1錠(75mg)111.5円と高価です。医師の処方を必要とする専門医薬品ですが、最近、売上額があらゆる分野の薬を通じて堂々の第4位にランキングされました。

 この薬は、神経の異常な興奮を抑える作用があります。当初、脳細胞の異常興奮によって起こる「てんかん」を抑える薬として開発されたものですが、あまり脚光を浴びることはありませんでした。ところが2008年、米国で「線維筋痛症」という“新しい病気”の治療薬としての使用が認可され、扇動的なテレビ・コマーシャルとともに一気にベストセラーとなりました。

 この薬が認可された当時の米紙ニューヨークタイムズによれば、一部の医師はこの薬の登場を熱烈に歓迎するとしているが、一方で、そもそも線維筋痛症という病気自体が存在しないと主張する医師も多く、なかにはこの病気を提唱しておきながら、あとになって自ら論文を取り下げた医師もいるとのことでした【注1】。この薬を推奨する有名医師の多くは、製薬企業の顧問などを務めているとも報じていました。

 線維筋痛症は、中年女性に多く、全身に痛みがあり、いかなる検査でも異常が見つからないという不思議な病気です。何年か前、日本でもこの病名がテレビで紹介されたことがあり、翌日から全国で患者が急増したとされています。「従来の鎮痛剤は効かない」とか、「この新薬は飲み続ける必要がある」「神経障害による痛みによく効く」など、もっともらしい紹介もなされているのですが、いずれも根拠は不明です。

 否定派のある医師は、ニューヨークタイムズ紙のインタビューに答えて、「この薬は患者にとって役に立つことは何もない」と断じています。また別の医師は、「線維筋痛症というもっともらしい病名をおどろおどろしく患者に告げると、ますます症状が悪化する。現場の医師が病気をつくり出しているのではないか」と述懐しています。

 私自身にも似たような経験があります。他院で線維筋痛症と診断され、同薬の処方を受けている人が少なからずいて、なかには絶対に服用をやめてはいけないと告げられている人もいます。このような人たちに対し、痛みの多くは精神的なものであり、リハビリなどに励むことで自然に治っていくことをしっかり説明すると、例外なく症状は改善し、服用をやめることができるのです。

継続的な服用に注意喚起

 今まで聞いたこともなかった病気が突然有名になり、しかも該当者が続々現れるということ自体、いかにも不自然です。この薬については、偽薬(プラセボ)と比べるとあきらかな効果が認められると結論した論文は多いのですが、知りたいのは、ロキソニンなど昔からある鎮痛剤に比べて有用なのかということです。【注2】は、その効果を他の鎮痛剤と比較した論文ですが、対象となった患者は腰痛を訴える人たちで、結論は従来の薬との間で効果にまったく差がなかったというものでした。

 脊柱管狭窄症という病気があります。背骨の変形で神経が圧迫され、腰痛などを起こすというものですが、この薬が神経の痛みに本当に有効なのであれば、このような症状にこそよく効くはずです。しかし患者を2群に分け、一方に同薬を、他方にプラセボを飲ませたところ、やはり効果に違いは認められなかったそうです【注3】。

 つい最近、ニューヨークタイムズ紙は再びこの問題を取り上げ、習慣性があること、突然やめると禁断症状が出ること、長く飲み続けた場合の副作用がわからないこと、など問題が多すぎるにもかかわらず、医師が使い続けていることに疑問を呈していました。
(文=岡田正彦/新潟大学名誉教授)

参考文献
【注1】Berenson A, Drug approved, is disease real? The New York Times JAN 14, 2008.
【注2】Enthoven WTM, et al., Non-steroidal anti-inflammatory drugs for chronic low back pain. Cochrane Database Syst Rev 10; 2: CD012087, 2016.
【注3】Markman JD, et al., Double-blind, randomized, controlled, crossover trial of pregabalin for neurogenic claudication. Neurology. 84: 265-272, 2015.
【注4】Brody JE, Millions take gabapentin for pain. but there’s scant evidence it works. New York Times, May 20, 2019.

岡田正彦/新潟大学名誉教授

岡田正彦/新潟大学名誉教授

医学博士。現・水野介護老人保健施設長。1946年京都府に生まれる。1972年新潟大学医学部卒業、1990年より同大学医学部教授。1981年新潟日報文化賞、2001年臨床病理学研究振興基金「小酒井望賞」を受賞。専門は予防医療学、長寿科学。『人はなぜ太るのか-肥満を科学する』(岩波新書)など著書多数。


岡田正彦

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