日産自動車の西川廣人社長兼CEO(最高経営責任者)の突然の辞任は、本人の本意ではなかった。詰め腹を切らされたかたちに至った直接の原因は、自らの報酬のかさ上げ問題だったが、西川氏への社内外からの批判は根強かった。
西川氏の挫折は、何よりカリスマだったカルロス・ゴーン前会長を放逐した後に、自らが十分な経営実績を残せなかったことにある。思わぬかたちで経営トップのバトンを受け取ってしまった側近型経営者は、過渡期に放り込まれた大企業の舵取りを取れなかった。では、その後任にどんな人材が登場するのか。日産の悩みと苦悩はまだ続くだろう。
とどめを刺したのが報酬かさ上げ問題
日産は9月9日に記者会見を開き、西川社長の退任を発表した。9月16日付での辞任という形式になるが、9日の同社取締役会が西川氏にそれを要請した。実質的には日産経営陣の総意による更迭である。
前会長だったゴーン氏が金融商品取引法違反で逮捕されたのが2018年11月。西川氏はすでに17年4月から代表取締役社長兼CEOに就いていたが、実質的な立場としてはCOO(最高執行責任者)であり、ゴーン氏が真の経営トップとして君臨していた。
ゴーン氏の突然の逮捕劇で西川氏が急遽、経営トップの立場に立たされたわけだが、「思いがけず」という表現は当たらない。というのは、ゴーン氏を告発、放逐するのに大きな役割を果たしていたからである。
ところが、西川氏のCEOとしての立場はわずか2年半で終息することになった。今回、西川氏を退任に追い込んだのが、9月4日の監査委員会で報告されたゴーン氏らの問題に関する内部報告書とされる。西川氏自身も自らの報酬を不適切な手法でかさ上げした問題が指摘された。
これは、グレゴリー・ケリー前代表取締役が6月発売の月刊誌「文藝春秋」(文藝春秋)で告発していた。ケリー氏はゴーン氏とともに逮捕・起訴された人物である。ケリー氏としては自らを告発した西川氏に対して“You,too”という恨み節の暴露をぶつけたわけである。検察は西川氏を「嫌疑不十分」として不起訴としたが、都内在住の男性がその決定に対して検察審査会に不服の申立を行うなど、西川氏に対する批判も根強かった。