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田中圭太郎「現場からの視点」

桜美林大学、文科省が禁止する“授業外注化”強行…解雇恐れる講師との団体交渉を拒否

文=田中圭太郎/ジャーナリスト
桜美林大学、文科省が禁止する“授業外注化”強行…解雇恐れる講師との団体交渉を拒否の画像1
10月29日、神奈川県庁で記者会見を行う首都圏大学非常勤講師組合と全国一般東京ゼネラルユニオン

 大学で英語などの授業を「外注化」と称して民間に丸投げすることは、文部科学省が禁止している。にもかかわらず、外注化を試みようとする大学が後を立たない。今年も大規模な外注化を決定した大学が現れた。それは、東京都町田市にある桜美林大学だ。

 桜美林大学は今年7月、2020年から芸術文化学群の英語の授業をすべて外注化すると、突然学内に通知した。授業は全部で72コマあり、非常勤講師がすべての授業を担当しているが、講師たちの処遇がどうなるのか、11月に入っても何も明らかにされていない。

 それどころか、首都圏大学非常勤講師組合と、外国人講師が所属する全国一般東京ゼネラルユニオンの2組合が団体交渉を要求しても、いまだに1度も開催されていないのだ。

 10月下旬、桜美林大学の対応は不当労働行為だとして、2つの組合は東京都と神奈川県の労働委員会に救済を申し立てた。非常勤講師の大量解雇に発展する可能性がある、桜美林大学の現状を取材した。

約20人の非常勤講師が解雇の危機か

「英語の授業を外注化することだけがわかっていて、削減される授業のコマ数や、授業を担当している非常勤講師の処遇がどうなるのかなどは、まったく明らかにされていません。大学から説明がないままで、講師たちは大きな不安を抱えています」

 桜美林大学で働く非常勤講師が置かれた立場の異常さを訴えたのは、首都圏大学非常勤講師組合と全国一般東京ゼネラルユニオンだ。両組合は10月29日、神奈川県庁で記者会見し、学校法人桜美林学園と桜美林大学の不当労働行為に対する救済申し立てを、東京都と神奈川県の労働委員会に申し立てたことを明らかにした。

 問題が発覚したのは今年7月8日。大学は英語を担当する教員向けのニュースレターで、来年度から芸術文化学群の英語の授業を、ベネッセグループ傘下で英会話教室などを運営するベルリッツ・ジャパンに外注化することと、その結果として担当科目に大幅な変更が生じることを通知した。

 芸術文化学群の英語の授業は72コマあり、非常勤講師が担当している。担当する授業がなくなれば、講師は解雇される恐れがある。ところが大学は、外注化を通知して以降、削減するコマ数の規模や講師の処遇など、何も説明していないのだ。

 非常勤講師組合によると、72コマの授業がすべて外注化された場合、約20人の非常勤講師が解雇される恐れがあるという。非常勤講師の多くは無期雇用化されており、桜美林大学で長く勤務してきた外国人講師も多い。「外注化するからといって、詳細を明らかにしないまま解雇することは許されない」という非常勤講師組合の主張は当然だろう。

団体交渉の拒否は違法行為

 問題発覚から10日ほどが経過した7月19日に、非常勤講師組合と東京ゼネラルユニオンは団体交渉を申し入れた。桜美林大学は「9月下旬まで待ってほしい」と回答。理由も示さずに2カ月以上も先延ばしにするのは異例だとして、非常勤講師組合は8月中の開催を求めたが、結局9月24日に初めての団交がセッティングされた。

 ところが、この日の団交は、当日になって反故にされた。組合側は当事者も含めて20人程度が参加する予定だったが、場所が決まっていなかったため大学に問い合わせると、数人しか入れない会場を指定してきた。

 組合側が大きな会場に変更するように求めると、大学側はいったんは「変えます」と答えたが、やはり小さな会場で開催すると述べ、参加する人数を調整しない場合は延期すると通告。組合側は可能な限り多くの人を会場に入れようとしたが、大学側は「こんな大人数では交渉できない」として退出してしまった。

 さらに、外国人講師が加入する東京ゼネラルユニオンと大学側は、10月9日に団交を予定していたが、大学側は交渉は日本語だけで、5人までしか入場できないと一方的に決めた。ユニオン側は1回目は譲歩するけれども、英語でも対応するように団交の席で協議することを提案したが、大学側は拒否。結局折り合わず、団交は開かれていない。

 大学が一方的に日本語だけで対応することを決めて、組合が応じなければ団交自体を拒否する行為は、過去に東京学芸大学が行なって、2016年に東京都労働委員会から不当労働行為だと認定されたことがある。ユニオン側は桜美林大学の対応は不当労働行為にあたるとして、10月28日、東京都労働委員会に救済を申し立てた。

 そもそも、団交を拒否することは、労働組合法に違反する行為といえる。非常勤講師組合は組合員の多くが神奈川県に居住していることもあり、10月29日に神奈川県労働委員会に救済を申し立てた。これが現在までの状況だ。

外注化は大学教育の民間企業へのバラ売り

 非常勤講師組合によると、桜美林大学は以前は組合との団交に誠実に応じてきたという。今回交渉に応じようとしないのは、外注化を強引に進めようとしているからではないかと感じている。

 筆者は桜美林大学に取材し、2つの組合が労働委員会に救済を申し立てたことをどのように受け止めているのか聞いた。広報担当者は「団交を拒否しているわけではない」と説明する。

「首都圏大学非常勤講師組合との団体交渉については、慣例の通り、組合のしかるべき代表者と、学園のしかるべき担当者との間で、落ち着いた状態で話し合いたいと考えています。また東京ゼネラルユニオンについては、ルールが定まっていない中では交渉はできませんとお伝えしています。ルールが整えば、団体交渉をさせていただきたいと考えています」

 大学側は団交に参加する人数やルールなどを理由にして、団交に応じない姿勢をいまのところ崩していない。しかし、本質的な問題は、団交の開催ではなく、外注化による非常勤講師の雇用への影響を説明していないことと、外注化が果たして適切なのかどうかということではないだろうか。

 文部科学省は英語の授業の外注化が認められる例として「英語の授業全体を専任教員が進行しつつ、コミュニケーション部分を外部講師に担当させる」ことを想定している。全面的な外注化は認めていないのだ。この点についても大学側からの説明はない。首都圏大学非常勤講師組合の志田昇委員長は、桜美林大学でこのまま外注化が強行された場合、他の大学でも一気に外注化が進む恐れがあると警鐘を鳴らす。

「外注化は桜美林大学だけの問題ではありません。人件費を抑制するため、日本中のかなりの大学ができることなら英語の授業を外注化したいと考えているはずです。大学の教育が、営利企業にバラ売りされようとしているのです。

 これは延期が決まった大学入学共通テストの英語民間試験と同じ構図ともいえます。外部の営利企業に授業や試験を丸投げしようとする大きな流れがあるのは間違いありません。国や大学が責任を持って教育をすべきだということも、改めて訴えていく必要があると考えています」

 桜美林大学が団交に応じるのか、団交に関係なく外注化について説明をするのかは現時点では不明だ。来年度の契約について話し合う時期が近づくなか、非常勤講師の大量解雇という事態に発展するのかどうか、注視する必要がある。

(文=田中圭太郎/ジャーナリスト)

田中圭太郎/ジャーナリスト

田中圭太郎/ジャーナリスト

ジャーナリスト、ライター。1973年生まれ。大分県出身、東京都在住。97年、早稲田大学第一文学部東洋哲学専修卒。大分放送を経て2016年からフリーランスとして独立。警察不祥事、労働問題、教育、政治、経済、パラリンピック、大相撲など幅広いテーマで執筆。著書に『ルポ 大学崩壊』(ちくま新書・2023年2月9日発売)、『パラリンピックと日本 知られざる60年史』(集英社)。メールアドレスは keitarotanaka3000-news@yahoo co.jp、 HPはジャーナリスト 田中圭太郎のWEBサイト

Twitter:@k_taro_tanaka

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