ビジネスジャーナル > ライフニュース > ゲノム編集食品、遺伝子組換え無表記
NEW

イオン以外の食品に「遺伝子組み換えの可能性あり」表記が“ない”という気味悪さ

文=渡辺雄二/科学ジャーナリスト
【この記事のキーワード】, ,
イオン以外の食品に「遺伝子組み換えの可能性あり」表記が“ない”という気味悪さの画像1
「Getty Images」より

 ゲノム編集食品が話題になっていますが、近い将来スーパーやコンビニエンスストアなどでも販売されることになりそうです。しかし、ゲノム編集食品の多くは、表示がなされないことになると考えられます。

 ゲノム編集とは、DNA切断酵素を使って、DNA上の目標とする遺伝子を破壊したり、別の遺伝子を挿入したりする技術のことです。この技術を利用してつくられた食品がゲノム編集食品で、主に2種類あります。

 一つはDNAを狙った所で切断して、特定の遺伝子の機能を止めたもので、筋肉量の多いマダイや収穫量の多いイネなどで知られています。もう一つは、狙った所に別の遺伝子を組み入れるものです。従来の遺伝子組み換えでは、遺伝子がどこに組み入れられるかわかりませんでしたが、ゲノム編集では狙った所に組み入れることができます。厚労省では、前者については、従来の品種改良と区別できないという理由で、任意の届け出だけで販売を認めることとし、10月1日から届け出を受け付けました。また、消費者庁は表示を義務付けないことを決めました。したがって、この方法でつくられたゲノム編集食品が市販されても、表示はなされないということです。

 一方、別の遺伝子を狙った所に組み入れてつくられたゲノム編集食品は、従来の遺伝子組み換え食品と同様に扱われます。つまり、食品として流通させるためには、厚労省の安全性審査を受けなければならず、また表示も必要です。しかし、実際には表示されないケースが多いと考えられます。なぜなら、従来の遺伝子組み換え作物がアメリカやカナダなどから輸入されていて、市販の食品の原材料として使われている可能性が高いのですが、実際にはそれが表示されていないケースが多いからです。

イオン、法律上の義務付けはなくても表示

 この事実は、遺伝子組み換え作物の使用の可能性を積極的に表示しているイオンの「トップバリュ」の製品と、その他の企業の製品とを比べるとよくわかります。たとえば、イオンの「トップバリュ 甘さひかえめきんとき豆」の原材料は、「金時豆(北海道)、還元水あめ、砂糖、食塩、しょうゆ(小麦・大豆を含む)、乳酸カルシウム」ですが、そのなかの「還元水あめ」について、次のように表示しています。「還元水あめ(とうもろこし):遺伝子組換え不分別(遺伝子組換えとうもろこしが含まれる可能性があります)」。

 水あめは、デンプンを分解した液状の糖で、麦芽糖、ぶどう糖、デキストリン(ぶどう糖がいくつも結合したもの)などの混合物です。この水あめに水素を結合させた(これを水素添加という)ものが還元水あめで、吸収率が低いため血糖値が上がりにくく、低カロリーという特徴があります。水あめは、通常価格の安い加工用トウモロコシのデンプンからつくられていますが、加工用トウモロコシは日本ではほとんど生産されておらず、ほぼ100%輸入に頼っており、その約9割はアメリカから輸入されています。

 そのアメリカでは、加工用トウモロコシの9割以上が遺伝子組み換えのものになっており、日本で使用されている加工用トウモロコシは、遺伝子組み換えのものが混じっている可能性が極めて高いのです。イオンでは、そのことを前述のように表示しているのです。

 ところが、ある大手食品企業の煮豆製品の場合、同様に「還元水あめ」を原材料として使っているにもかかわらず、遺伝子組み換えのトウモロコシが使われている可能性を示す表示は何もありません。その他の企業の製品でも、同様に「還元水あめ」や「水あめ」が原材料として使われていても、何も表示がなされていないケースが圧倒的に多いのです。

 遺伝子組み換え食品の表示は、食品表示法に基づく食品表示基準によって定められていますが、遺伝子組み換えのトウモロコシについては、表示する対象が、「コーンスナック菓子」「コーンスターチ」「ポップコーン」「冷凍トウモロコシ」などの9品目で、「還元水あめ」や「水あめ」は対象になっていません。還元水あめや水あめの場合、それを製造する過程で組み込まれた遺伝子およびそれがつくり出すたんぱく質が消失するという理由からです。

 したがって、仮に「還元水あめ」や「水あめ」が、遺伝子組み換えのものを含むトウモロコシからつくられたデンプンを原料に製造されていても、そのことを表示する義務は法律上はないのです。しかし、問題になるのは、消費者に商品情報をきちんと伝えようとする企業姿勢です。

 イオンでは、法律上は義務付けられていなくても、消費者が商品選択に必要と判断して表示しているのです。遺伝子組み換え食品についての消費者の関心は高いので、本来であれば他の企業も同様に表示すべきと考えられますが、ほとんどの企業はそれをしていないのです。

「還元水あめ」や「水あめ」のほかにも、加工食品の原材料として使われている「デキストリン」や「果糖ぶどう糖液糖」なども、通常加工用トウモロコシのデンプンを分解することでつくられています。したがって、遺伝子組み換えのものを含むトウモロコシからつくられている可能性が高いのですが、その点についてはほとんど何も表示されていないのが現状なのです。

原材料に遺伝子組み換えのものが含まれていても非表示

 また、大豆についても加工用トウモロコシと同じような状況で、アメリカなどから遺伝子組み換えのものが輸入されており、食品の原材料として使われています。しかし、食品表示基準では表示の対象が、「豆腐・油揚げ類」「凍り豆腐、おから及びゆば」「納豆」「豆乳類」「みそ」などの15品目にすぎず、大豆油やしょうゆは対象となっていません。

 そのため、遺伝子組み換えのものを含む大豆を使って大豆油やしょうゆを製造しても、そのことが表示されていないケースが圧倒的に多いのです。また、それらの大豆油やしょうゆを原材料として使っている場合も、何も表示されていないケースが多いのです。

トップバリュ ペペロンチーノ」の調味ソースの場合、原材料は「植物油脂(大豆を含む)、香味油、酸化防止剤(ビタミンE)、香料」ですが、「植物油脂(大豆、なたね):遺伝子組換え不分別(遺伝子組換え原材料が含まれる可能性があります)」と表示されています。

 しかし、その他の企業のパスタソースの場合、原材料として「植物油脂(大豆を含む)」を使っていても、遺伝子組み換えの大豆を使っている可能性を示す表示はほとんどないのです。

 ゲノム編集食品のうち、別の遺伝子を組み入れた類のものについては、前述のように従来の遺伝子組み換え食品と同様に安全性審査を受けなければならず、また表示も義務付けられています。しかし、これまで述べてきたように従来の遺伝子組み換え食品自体が表示されていないケースが多いのですから、この類のゲノム編集食品も実際には表示されないケースが多くなると予想されます。

 また、特定の遺伝子の機能を止めたもので、従来の品種改良と区別できないゲノム編集食品については、表示は義務付けられていません。結局のところ、ゲノム編集食品が表示されるケースは実際にはかなり少ないと考えられます。

(文=渡辺雄二/科学ジャーナリスト)

渡辺雄二/科学ジャーナリスト

渡辺雄二/科学ジャーナリスト

1954年9月生まれ。栃木県宇都宮市出身。千葉大学工学部合成化学科卒。消費生活問題紙の記者を経て、82年からフリーの科学ジャーナリストとなる。全国各地で講演も行っている

イオン以外の食品に「遺伝子組み換えの可能性あり」表記が“ない”という気味悪さのページです。ビジネスジャーナルは、ライフ、, , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!