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大学生の“ストロングゼロ依存症”、実生活に深刻な影響…安い&甘い&高アルコール度数の罠

文=編集部、協力=岡田正彦/新潟大学名誉教授、医師
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「-196℃ストロングゼロ」(撮影=編集部)

 最近、インターネット上で飲み方や商品の危険性をめぐる議論が盛んなサントリースピリッツ「-196℃ストロングゼロ」。ジュースのような軽い口当たりと甘味が人気だ。アルコール度数も9%と、平均5%の発泡酒に比べて高く、安価とあって「手軽にすぐ酔える」と老若男女問わず多くの消費者に飲まれている。

 アルコール度数が高くて飲みやすいカクテルは、バーや居酒屋に行けばいくらでもある。そんななか、なぜストロングゼロなどの缶酎ハイが注目を集めて続けているのか。アルコールに人生で初めて接する機会の多い東京都内の大学生にストロングゼロにまつわる体験談を聞き、専門家にその危険性を解説してもらった。

年齢制限、規制回避の手段

 夏はテニス、冬はスノボという典型的なオールラウンド系サークルに所属する女子大生は次のように話す。

「最近、居酒屋やバーは年齢確認や飲み方に対する規制が厳しいので、コンパの2次会や3次会などを学生宅で行うことが増えています。その際、ビールや発泡酒より安くて、甘く飲みやすいストロングゼロはかなり人気です。特に新歓(新入生歓迎)コンパの前の時期に、量販店で大量に買い込んでいます。新歓期は、基本、上級生が飲み代を負担しなければならないので助かるという一面があります。

 ここだけの話、未成年の新入生にも飲ませていますよ。お酒と初対面の子たちでも、みんなぐびぐび飲んでしまいあっという間に一人で2~3本空けてしまうこともありますね。何度か酩酊して意識を失う学生もいました。やはり、他の缶酎ハイに比べて、吐いたりする学生も多い印象です。大事になるので、救急車などは呼ばず、こたつに朝まで寝せておいたりしています」

 飲酒経験のない未成年に缶酎ハイを何本も飲ませ、さらに意識を失ったまま放置しておくというのはかなり危険な行為といえる。この事実が大学当局に発覚すれば、サークルの活動禁止や責任者の処分は免れ得ないだろう。

二日酔いでインターン面接に出られず

 また、ストロングゼロとの出会いが若者の将来に影を落とすこともあるようだ。今年の春から就職活動を行う女子大生は次のように語る。

「サークル活動などでストロングゼロを知り、毎日寝る前に少しずつ買って飲んでいたら、どんどん毎日飲む本数が増えてしまいました。最初は1本で満足だったのが2本、3本と増えて、最近では授業が終わったあとにも隠れて飲んでいます。就活とか、卒論とか嫌なことが忘れられるのでハマっています。飲みすぎてインターンシップの面接に行けなかったこともあります。最近は反省しています」

 一方で、別の大学のボランティアサークルに所属する男子学生は、ストロングゼロに関して今一つピンと来ない様子で次のように語る。

「体育会系の飲み会以外で、ストロングゼロを飲んでいる人を見たことがありません。それ以外の飲み会では飲酒量も少なくカシスオレンジやカルーアミルクを飲む学生が多いです。

 ただ私が以前はプレーヤーとして、今はサポーターとして関わっているスポーツサークルでは、ストロングゼロを飲んでいる学生がそれなりにいます。彼らは体つきがいいこともあってか、あまり悪酔いしている様子はありませんでした。また、倒れた学生は見たことがありませんが、むしろ、私が調子に乗ってストロングゼロのロング缶2本に手を出したところ、悪酔いして吐いてしまったことがありました。

 3年前の話ですが、アルコール度数が桁違いに高いチューハイなので、酔いはかなり早く回りました。ただ、美味しいのでリピートすることは多かったです。何回か悪酔いが続いたので、アルコール度数が低い氷結に乗り換えました」

 一方、大勢での人付き合いが嫌いで、サークル活動に所属していないという男子学生は次のように話す。

「大学入学当初から、知人や交際相手と自宅でストロングゼロを買ってよく飲んでいます。独り酒も多く、自分では酒量が増えている気はしませんでしたが、交際相手から顔が黄色くなってきたとか、太ったと言われています。別に自覚症状はないし、まだ大学生だし、若いからいいやと思って病院には行っていません」

 別の男子学生は、ストロングゼロを好む理由を次のように語る。

「友達が昼食と一緒に飲んでいたので、自分も飲むようになりました。昔は夜しか飲まなかったけれど、缶酎ハイならどこでも気軽に飲めるので楽しいです」

1本で36グラムのアルコール

 実際に飲んでいる学生の話からも、ストロングゼロの特性である「缶チューハイという手軽にどこでも飲めるスタイル」「安価」「強い依存性」が窺える。この商品とどのように付き合えばいいのか。予防医療学を専門とする新潟大学名誉教授・医師の岡田正彦氏は次のように見解を述べる。

【岡田氏の見解】

 ビールの平均アルコール度数はおおよそ5%前後と言われています。9%のアルコールということは同じ量を飲んでも2倍相当のアルコールを摂取していることになります。アルコールは比重が軽いため、グラム数を計算する際、たとえば500ミリリットル×0.09(%)×0.8という計算を行います。500ミリリットル缶ですと、一本当たりのアルコール量は36グラムほどになります。

 米国の研究データによると、一回の「楽しい飲酒で長生きできる」とされている適切な量はおおよそ12グラムとされています。裕度を取って20グラムくらいが適切だと考えても、やはり多いと言えます。

 アルコールは飲む量の増加にともなって、緩やかな上昇カーブを描きながら健康に有害な事象が起こることは明らかなのですが、どれくらいの量を超えると危険なのかという線引きは難しいところです。

 ちなみに米国でも、若者たちのアルコール中毒は問題になっています。特に、参加者相互で煽り合って、急性アルコール中毒になってしまう飲み方のパーティーを「どんちゃんさわぎ」と名付けています。いわゆる大学生のコンパと同じですね。

 ただ、日本のコンパと違い、米国ではこの「どんちゃんさわぎ」に関する定義があります。「3時間以内にウィスキーのショットグラス(1杯当たり12グラム)を5杯以上飲むこと」が定義です。そう考えると、コンパで缶酎ハイを2~3本飲むということは、それよりもかなり多く摂取することになります。

 一方、やはり米国の研究データによると、急性アルコール中毒で死亡する人はそもそも心臓病や脳卒中などの持病を持っている人が多いということが判明しています。お酒そのものによって、死亡するというより、致死性の高い病気が発症するトリガーになっていると言えると思います。

 だからといって、持病のない若者なら大丈夫ということにはなりません。急性アルコール中毒は、若者にとっても深刻なリスクがあるのです。

 1つにはアルコールは脳細胞を麻痺させるということです。呼吸数の低下、不整脈、意識の混濁など非常に危険な状態が起きます。

 2つ目に、細菌に感染しやすくなるというリスクも起こります。昔は悪くなった物を食べても、飲酒をして「アルコール消毒すれば大丈夫」というようなことが言われていましたが、実は逆です。腸内の粘膜には細菌の感染を防ぐため、ぎっちり細胞が並んでいるのですが、アルコールはこの並びをゆるゆるにしてしまいます。その結果、食中毒を起こすようなバイキンの毒素がしみ込みやすくなってしまい、感染症に弱い体質になってしまうのです。

 3つ目に、昔から言われているように肝臓に悪いということです。飲酒が肝臓に悪影響を与えるようになるのは「何十年も飲み続けた結果」と思われていましたが、最近の研究では急性アルコール中毒でも肝臓の機能を損なうことがわかってきました。

 具体的には肝臓の酵素に影響を与え、脂肪を酸化させ、エネルギー源として活用できない有害な脂肪に変えてしまうのです。急性脂肪肝のような状況が起こり、のちのち年齢を重ねていくにつれて健康障害の素地をつくってしまう可能性がります。

 また、私自身が患者さんたちから聞いて感じているのは、胃の粘膜が破れて吐血してしまう危険性があるということです。医学実験などで、細胞を顕微鏡で観察する際、形が崩れないように「固定」という操作をします。そのために使う薬品がアルコールです。つまり、アルコールは細胞を固めてしまう作用があるのです。固まった細胞は死んでしまいます。

 一気飲みなどで、強いアルコールによって胃の粘膜の細胞が破壊され、そこに大きな血管が通っていれば、吐血することになります。以上のように、急性アルコール中毒は若者の健康を害する危険な行為だと言えると思います。

エネジードリンクなどと混ぜるのは危険

 もうひとつ気になることがあります。日本のストロングゼロなどの缶酎ハイでは「糖質ゼロ」とか「プリン体ゼロ」といったように、ヘルシーで安全なイメージを煽り文句にしています。それは裏を返せば、飲んだ際の甘味の物足りなさを感じる原因にもなり得ます。

 欧米では、似たような口当たりが良く糖分の多い炭酸飲料にアルコールを混ぜて飲むことが流行っていて、糖尿病のリスクの増加などが社会問題になっています。また、米国ではカフェインが多量に入ったエナジードリンクとアルコールを混ぜて飲み、若い人が死亡する案件も続いています。

 いずれにしても、こうしたお酒の問題は周りにいる大人がしっかり見守っていく必要があると思います。

(文=編集部、協力=岡田正彦/新潟大学名誉教授、医師)

岡田正彦/新潟大学名誉教授

岡田正彦/新潟大学名誉教授

医学博士。現・水野介護老人保健施設長。1946年京都府に生まれる。1972年新潟大学医学部卒業、1990年より同大学医学部教授。1981年新潟日報文化賞、2001年臨床病理学研究振興基金「小酒井望賞」を受賞。専門は予防医療学、長寿科学。『人はなぜ太るのか-肥満を科学する』(岩波新書)など著書多数。


岡田正彦

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