投資会社社員がこぞって確定申告で不正に還付金受領…国税局員も驚愕する前代未聞の手口
元国税局職員、さんきゅう倉田です。大切なものは「6親等以内の血族」です。
法人に税務調査が入ることで、雇われている従業員の申告漏れが明らかになる場合があります。内容によっては、法人がその申告漏れにかかる源泉所得税を納める場合もあるし、従業員自らが確定申告をして、所得税を納める場合もあります。
従業員の申告漏れは、法人にとってマイナスでしかありません。たとえば、従業員が勤務先に内緒で行っていた副業が、法人の売上を除外していたものだと勘違いされて税務調査が入った事例があります。
また、珍しい例では、法人が積極的に従業員の所得隠しを推奨していたこともありました。今回は、従業員の8割が不正な申告をしていた法人に、税務調査があった事例を紹介します。
従業員みんなで不正
日本の寒い地域の、ある投資会社で、従業員たちは毎日、顧客名簿の中から適当に電話をかけて、株の売買の良さを説いていました。まるで、レオナルド・ディカプリオ主演の映画『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(パラマウント)のように、ゴミみたいな株を、お金持ちでもなんでもない投資の素人に売買させ、手数料収入を得ていました。
従業員たちは、「あなたにだけ、とっておきの情報があります」「あなたの資産を10倍にします」「わたしは、ヴァイス・プレジデントです」などと言って、お金を出させていました。従業員は、みな固定給をもらっていましたが、法人が得た売買手数料に応じて、さらにボーナスを与えられていました。それも毎月、現金で。
会社はボーナスからも源泉所得税をきちんと天引きしていましたが、従業員たちには上司から税に関して、以下のような説明が行われていました。
「この会社では、売り上げに応じてボーナスが支払われる。でも、ボーナスからは税金が引かれている。その金額を覚えておけ。その分の経費があったことにして確定申告をすれば、税金を還付できるんだ。ウチではみんな、そうしているぞ」
従業員は、みな給与所得者です。一般的な会社員、パート、アルバイトと同じ扱いで、経費は認められません。仕事で出張してバス代がかかったり、取引先と飲んだり、勉強のために書籍を購入したりしても、個人事業者のように収入から引くことはできません。その分、給与所得控除があります。それでも不公平だと思う人は、個人事業者になるという選択をおすすめします。
もちろん、会社員でも確定申告ができます。法人からもらった源泉徴収票を添付して、収入や所得の金額を記入します。1カ所で働いているのなら、源泉徴収票の金額をそのまま書き写しますが、当該法人の従業員は源泉徴収票に書かれた1年間の給与とボーナスの合計から交通費や交際費、広告宣伝費、地代・家賃、新聞図書費を引いて収入金額とし、そこから給与所得控除を再計算して引いて、所得を記載していました。
そんな手法は聞いたことがありません。数名の国税局OBの税理士と話しましたが、同様の申告はやはり聞いたことがないようでした。
この従業員たちの不正は、数年後の税務調査でやっと是正されました。1人目の最初の申告時に税務署から連絡が来なかったことが不思議ですが、法人の税務調査によって明らかになり、不正に還付された所得税は法人がまとめて一括で返金し、従業員からは毎月の給与から天引きするかたちで徴収することにしたそうです。
源泉徴収票の支払金額と確定申告書の収入金額が同じかどうかは、人間の目でチェックするしかありません。膨大な申告書の中で、見逃してしまうこともあるでしょう。しかし、それは納税者全体の不利益となります。
マイナンバーによって収入と申告内容がつながり、人的チェックが不要になれば、そのような不正が数年にもわたって放置されることはなくなります。可及的速やかにデジタル化が進むことを切に願います。
(文=さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人)