楽天モバイルは3日、4月から開始する携帯電話サービスの料金を発表した。満を持して発表されたプランは、国内かけ放題・データ無制限で月2980円の「Rakuten UN-LIMIT(アンリミット)」プラン1種類のみだ。しかも、300万名を対象に1年無料で提供する。
サービス開始時点での自社回線の共用エリアは、基地局の設置が終了している東京、大阪、名古屋の3都市に加え、千葉、埼玉、愛知、兵庫の各県。それ以外の地域はauのローミングを使用するため、月2GBまでのデータ制限があり、使いきると通信速度が最大128kbpsに制限される。
三木谷氏「ノーガード戦法で頑張りたい」
3日に世界同時配信されたプレスカンファレンスで、楽天の三木谷浩史社長は新規事業を「Rakutenビッグバン」と評し、「誰もが不可能と考えた完全仮想化ネットワークを実現した」「ノーガード戦法で皆さんのために頑張っていきたい」などと語った。料金プランも「世界の主要キャリアで唯一のワンプランの料金設定だ。携帯使用料の複雑な料金体系をシンプルにした」と誇った。
楽天は現在、東京23区と名古屋市、大阪府、神戸市などにエリアを限定した「無料サポータープログラム」を展開している。携帯電話事業開始にあたって、同業他社がもっとも関心を示していた新料金プランは、かねてから三木谷社長が宣言していた通り、「他社にはできない」プランになった。また新規事業開始にあたって最も障害になっていた基地局の設置は、当初総務省に提出した計画の約3400カ所を上回る約4400カ所の設置を今月末までに終える予定だという。
プレスカンファでは、楽天モバイルと衛星通信事業を展開する米AST&Scienceとの業務資本提携も合わせて発表された。ASTのサービスを利用して国内全域でのエリアカバー100%を目指す。
AST&Scienceは、スマートフォンへ直接繋がる低軌道衛星通信サービス「SpaceMobile」の展開を予定。楽天はこの衛星を活用した4G、5Gの通信サービスを展開する方針で、世界中のどの地域でも、人口の多寡にかかわらずエリア全域の通信をカバーする壮大な構想を示した。
「三木谷社長はシェア獲得のため自身の本気を示した」
楽天の料金プランやビジネスプランをどう見れば良いのか。スマホ評論家の新田ヒカル氏は次のように解説する。
「端的に言うと、三木谷社長は本気なんだということが強く伝わりました。採算性については単純計算で300万回線×2980円×12カ月なので、かなり大きな支出になりますが、グループの総力を結集してこのくらいやらないとシェアを取ることができないと判断したのだと思います。
現在、国内のシェアはNTTドコモ、au、ソフトバンクの大手携帯キャリアに3分されています。料金もおおむね妥当な結果になっていて、大きな差を出せない構造にあります。ここに同じ規模のインフラを構築してシェアを4分させることができるかが、楽天の大きな戦略的な目標でしょう。
かつてドコモが国内シェアの半分を押さえていた時代、ソフトバンクが新規参入し、音声通話無料の『ホワイトプラン』や『iPhone』を導入して業界に大きな衝撃を与え、シェアの3分1を奪いました。楽天は、インフラの設置コストなどを抑えるなど地道なコスト削減を行いながらも、最終的に大きなインパクトを与える『1年間無料』という決断をしたのでしょう。
一方で正直、『電波の入り』は期待できないとは思います。『2台目を持つのであれば、無料で料金設定もリーズナブルなので、選択肢に入るかも』というところです。自社回線の基地局はまだ限定的ですし、自社エリア外で使用する2GBのauローミングも、あっという間に使い果たしてしまうデータ量なので、最初は『つながらない』というクレームの嵐になるとは思います。
楽天はそれを逆手にとって、基地局や電波強度の穴がどこなのか、運用面での問題点などはどこなのかを徹底的に洗うと思います。つまり、現在実施している『無料サポータープログラム』を300万人規模に拡大するということです。ユーザーには迷惑をかけてしまうかもしれないので、1年間無料ということなのかもしれません。
しかし、シェアを取りにいく事業というのは、事業者が本気かどうかにかかっています。三木谷社長は以前から、GAFAを意識した経営を行っています。インターネット通販大手のアマゾンも世界的なシェアを獲得するまでは、赤字を抱えながら事業を進展させてきました。
楽天が国内のシェアの4分の1を獲得するまでには時間がかかるでしょう。その間は苦しい経営が続くと思います。一方で前向きに考えるのであれば、一度シェアを押さえてしまえば長年にわたって、現在の携帯キャリア大手が出している利益の4分の1が入ることになります。携帯電話業界はこれ以上進化しないという指摘もありましたが、最近の情勢を踏まえれば5Gの導入なども考えられ、インフラやスマホの更新も必要になり、今後10~20年は拡大を続けるでしょう。利益が拡大する可能性は高く、スタート時に1年間300万回線を無料にするくらいの先行投資は充分にカバーできると思います」
(文=編集部、協力=新田ヒカル/スマホ評論家)