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安倍政権がコロナ報道へ反論開始のなか、『新聞記者』のアカデミー賞受賞は称賛に値する

文=有森隆/ジャーナリスト
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映画『新聞記者』公式サイトより

 安倍の暴走、アベ友の跋扈、野党の非力ぶり――。日々、うつうつとしてきたが、3月6日、グランドプリンスホテル新高輪で行われた第43回日本アカデミー賞の最優秀賞の授賞式のテレビ中継を見て快哉を叫んだ。最優秀作品賞は『新聞記者』。最優秀主演男優賞は松坂桃李、最優秀主演女優賞はシム・ウンギョン。『新聞記者』で3冠。日本アカデミー賞を制覇した。

 3月7日付東京新聞朝刊社会面。「『新聞記者』3冠 日本アカデミー賞」の見出しで、松坂とシム・ウンギョンが並んでインタビューに答える写真付きで報じた。<『新聞記者』は本紙社会部の望月衣塑子記者の著書「新聞記者」を原案に、公文書改竄、政権への忖度などタイムリーなテーマを題材に権力とメディアの攻防を描いた>とした。目立つカコミ記事である。

 産経新聞はベタ記事。「『新聞記者』3冠」とした。作品賞、主演男優賞、主演女優賞を受賞したことを伝え<『新聞記者』の藤井道人監督は「本当に、本当にうれしいしか言えないです」と喜びを語った>と短かったけれど、きちんと記事として扱った。

 読売新聞社会面。ベタ記事以下のレッチでの扱い。お知らせである。「日本アカデミー賞発表」の見出しには、思わず笑ってしまった。見出しに『新聞記者』を出したくなかった気持ち、それは安倍官邸の気持ち。よくわかるよ。しかし、新聞の報道としてはいかがなものか。<女性新聞記者の奮闘と男性官僚の葛藤を描く社会派サスペンス『新聞記者』が作品賞など3部門で最優秀賞を受賞した>と書いている。社会派サスペンスとは少し違うんだよな。<新型コロナウイルス感染拡大防止のため、一般客の観覧と、報道各社による取材を中止して行われた>の文字数(情報量)は、本作の内容を紹介したそれとほぼ同じであった。

 最優秀賞の対象となる優秀賞受賞作品・受賞者は1月15日に発表された。作品賞は『新聞記者』のほか、『キングダム』『翔んで埼玉』『閉鎖病棟―それぞれの朝―』『蜜蜂と遠雷』の5本。『蜜蜂』が本命。『新聞記者』は大穴だが、よく優秀作品賞に入ったものだ、というのが筆者の見方だった。

 優秀主演男優賞は松坂桃李、笑福亭鶴瓶(『閉鎖病棟―それぞれの朝一』)、菅田将暉(『アルキメデスの大戦』)、中井貴一(『記憶にございません!』)、GACKT(『翔んで埼玉』)。菅田の『アルキメデス』での演技は特筆ものだった。鶴瓶は獲りたかっただろうな。もしかして『新聞記者』もあると思っていたが、ズバリ、松坂だった。

 優秀主演女優賞はシム・ウンギョン、二階堂ふみ(『翔んで埼玉』)、松岡茉優(『蜜蜂と遠雷』)、宮沢りえ(『人間失格 太宰治と3人の女たち』)、吉永小百合(『最高の人生の見つけ方』)。シム・ウンギョンは最有力の下馬評で、予想通り受賞した。

『パラサイト』→『新聞記者』の流れ

 第74回毎日映画コンクールの日本映画大賞は『蜜蜂と遠雷』。日本映画優秀賞は『新聞記者』で次点に入った。選考委員の佐伯知紀さんは毎日新聞の紙面で『新聞記者』について、<社会的、時事的な主題をリスク承知のうえで作品化し、なおかつヒットさせたことに敬意を表したい。『社会批評・社会批判』は日本映画史を流れる一つの底流である>と述べた。同じく選考委員の映画プロデューサーの新藤次郎氏は<「『新聞記者』は今の内閣を見れば作品にしたくなるテーマだが、実現は難しい。製作側がよくやったと褒めたい」>と評価した。

 毎日映画コンクールの女優主演賞をシム・ウンギョンが獲った。当サイトで書いた記事で、<米アカデミー賞で『パラサイト 半地下の家族』が作品賞など4賞受賞。ネットフリックス旋風は起きなかった>と総括した。<『パラサイト』のポン・ジュノ監督が、いみじくも語ったように、この映画は字幕(言語)の壁を乗り越えた。面白ければ英語でなくても、世界マーケットで商売になることを『パラサイト』は実証した。外国語映画賞が国際長編映画賞と名称が変わったのは大きな流れの一環である>とした。

『パラサイト』は格差社会を描いた悲喜劇だが、世界規模で分断が進み、中間層が貧困の半地下に落ちている。現在進行形で急激に進むこうした人々の姿を映画が映し出している。映画の持つ時代性、記録者としての側面・機能が生かされた米アカデミー賞授賞式だったと思う。

 数字が高いほど所得格差を示す「ジニ係数」は米国がもっとも高く、上位1%の富裕層の資産が米国全体の資産の30%超を一人占めにしている。中間層の貧困化が進む米国の大統領選。民主党では急進的な政策を掲げるサンダース候補が、30歳代を含む若者に熱烈に支持されるのには切実な理由があるわけだ。『新聞記者』が『パラサイト』現象を起こすのか? と予想したが、『パラサイト』→『新聞記者』の流れは、確かにあった。

 ただ、日本アカデミー賞の主催者、授賞式を中継した日本テレビ、そして読売新聞の上層部は『新聞記者』の受賞を喜んではいないのではないのか。作品賞受賞の舞台裏を誰かリポートしてくれ。

『モーニングショー』への反論

 以下はアベ友についての論考である。自民党の世耕弘成・参院幹事長はロシア紙イズベスチャに掲載されたインタビューで「安倍晋三首相はトランプ米大統領やロシアのプーチン大統領と良好な関係を築いている。世界が(安倍さんが)辞めることを許さない」と語った。自民党総裁連続4選に期待を示すのは勝手だが、この時期に、あえて、「世界が(安倍さんが)辞めることを許さない」と言うことは、世耕氏の安倍首相に対するアピール。アベ友の跋扈。もういいよ。

 政府が新型コロナウイルス感染症をめぐる報道をした特定の番組に対して、内閣官房公式ツイッターで反論の投稿を始めた。番組のコメント(論評)に反論しているのだ。政府が事実関係について反論することはあり得る。しかし、コメントに反論するのは、報道内容を政府が個別に批判することになりはしないか。憲法が保障する表現の自由とどうかかわってくるのだろうか。

 官邸の幹部が反論を指示し、テレビ朝日の『羽鳥慎一モーニングショー』が名指しされた。

 3月7日付毎日新聞社説。<NHK番組への批判 経営委員長の資格があるのか>。毎日はこのところNHKが「かんぽ生命保険の不適切販売問題」を報じた番組への森下俊三・現経営委員長の“介入”を報じてきた。森下氏は衆院総務委員会で「番組への批判発言をしたこと」を公式に認めた。

 国民はバカではない。今、何が起こっていて、何が足りないかを肌で感じ取っている。コロナウイルスに関する大本営発表のような記事はいらない。

(文=有森隆/ジャーナリスト、敬称略)

有森隆/ジャーナリスト

有森隆/ジャーナリスト

早稲田大学文学部卒。30年間全国紙で経済記者を務めた。経済・産業界での豊富な人脈を生かし、経済事件などをテーマに精力的な取材・執筆活動を続けている。著書は「企業舎弟闇の抗争」(講談社+α文庫)、「ネットバブル」「日本企業モラルハザード史」(以上、文春新書)、「住友銀行暗黒史」「日産独裁経営と権力抗争の末路」(以上、さくら舎)、「プロ経営者の時代」(千倉書房)など多数。

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