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ソフトバンク、行き詰まり、財務内容へ懸念広がる…投資先企業の経営が急速に同時悪化

文=真壁昭夫/法政大学大学院教授
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ソフトバンクG、19年10-12月期決算を発表(写真:アフロ)

 投資家の間で、ソフトバンクグループ(SBG)の業績と財務内容への懸念が高まっている。多額の投資によって成長を実現する、同社のビジネスモデルの実力が問われているといえる。

 昨年、SBGは米シェアオフィス大手ウィーカンパニーの新規株式公開(IPO)の延期などで多額の損失が発生した。また、世界中で新型コロナウイルスの感染が拡大し、SBGの投資先企業の経営が急速に悪化している。

 最大の問題は、いつ新型コロナウイルスの感染がピークを打ち、収束に向かうかだ。新型コロナウイルスの感染拡大によって、2020年の世界経済全体の成長率はマイナスに陥る可能性がある。比較的短期間で感染の影響が収まったとしても、短期的にV字回復は期待しづらい。逆に、感染が長期化すれば世界経済にはより深刻な影響があるだろう。先行きの不確実性が急速に高まるなか、業績、財務内容、信用力などの下振れリスクにどう対応するか、SBGの経営は重要な局面を迎えている。

SBGの利得確保の遅れ

 昨年以降、SBGが高値で資産を取得し、結果的に利得の確保(利食い)が遅れていると懸念する市場参加者が徐々に出始めた。投資によって利得を手に入れるためには、株式などに安値で投資し、価格が上昇したところで徐々に売却することが重要だ。当初、SBGは創業者である孫正義会長兼社長の指揮の下でこの投資の哲学を徹底していたように見えた。

 SBGでは、孫氏がアニマルスピリットあふれる企業家を発掘し、かなり初期段階から投資を行ってきた。よい例が中国のIT大手アリババ・グループだ。孫氏は創業の初期段階でネットワークテクノロジーの革新性に惹かれたジャック・マーの企業家としての資質を見抜いた。孫氏の“眼力”を頼りにSBGはアリババに出資し、その後の成長や株価の上昇などを通して莫大な利得を手に入れた。未上場企業への投資は、安値で投資を行う良い例といえる。アリババの株価上昇などは、SBGの業績と財務を支える大きな柱の一つにまで成長した。

 ただ、2017年頃から、SBGの投資スタンスには変化の兆しが出始めたと考える市場参加者は徐々に増え始めた。どういうことかといえば、創業後間もない企業の発掘に注力するよりも、高値圏にあると考えられる未公開企業の株などを取得することが増えた。2017年の米ウィーカンパニーへの出資はその一例だ。

 背景には、複合的な要因があっただろう。まず、SBGが投資によって成長するためには、ライバルよりも有利な成果を実現しなければならない。そのため、どうしても世界が注目する企業への出資を行わざるを得なかったのだろう。また、世界的な“カネ余り”の影響もあったはずだ。低金利環境が続くと多くの市場参加者が先行きを楽観し、世界全体で株価は“上がるから買う、買うから上がる”という様相を呈した。本来ならSBGは株価が高値で推移する環境を利用して資産を売却し、利得の確保とリスクの削減に努めてもよかっただろう。しかし、SBGは投資による高い成長の実現を優先し、高値掴みが増えるとともに利食いが遅れてしまった。

SBGのリスクの上昇と管理体制への懸念

 投資によって長期の成長を目指すためには、強欲になりすぎず、保有する資産を高値で売却し、現金を着実に増やすことが重要と考えられる。それがリスク(予想と異なる結果)への対応余地を増やすことにつながる。

 ウィー社の高値掴みを境に、SBGのリスク管理体制は重要な局面を迎えたと考えられる。つまり、想定外の事態が発生した場合に、収益と財務内容をどう維持するかという重大な問題に直面した。昨年、ウィーカンパニーがIPO申請を取り下げて以降、SBGは環境の変化に思うように対応できていないように見える。同社はウィー社に関して「救済は例外」と表明した。同時に、当時、世界経済の不確定要素は増えつつあった。本来なら、投資資金の回収=保有株式などの一部売却を検討しても良かったはずだ。

 その後、SBGは金融支援やウィー社への経営陣の派遣を行い、経営再建にコミットした。見方によっては、SBGにとってウィー社への投資負担が大きく、投資資金を回収しようにも簡単にはいかない状況に陥ってしまった可能性がある。

 その上、2020年1月以降、新型コロナウイルスの感染が世界的に広まった。世界全体で需要と供給が大きく低下し、金融市場では株式、債券をはじめ価格変動リスクのある資産への投げ売りが起きた。これは、SBGにとって想定外の展開だろう。

 SBGは市場環境の急変に対応するために、複数の対策を発動した。4.5兆円規模の資産売却や自社株の買い取りがすでに発表されている。また、一時、同社は非上場化まで検討していたと報じられた。実現の可否は別にして、非上場化はステークホルダーの数を減らすことで迅速な利害の調整を目指し、抜本的な改革を進めるために重要な手段ではある。経営環境の急変に対する危機感はかなり強い。

 同時に、投資先企業のなかには経営破綻に陥る企業が出始めた。3月27日には、SBGが50%程度の株式(金額にして約2000億円)を保有するとみられる通信衛星企業のワンウェブが米連邦破産法11条(チャプター11)を申請した。新型コロナウイルスの感染拡大の影響から金融市場が混乱し、同社は資金調達を続けることが難しくなってしまった。

先行き懸念高まる収益・財務内容

 新型コロナウイルスの感染拡大によって、世界経済の先行きは非常に読みづらくなった。ワンウェブは通信衛星を打ち上げることによって通信サービスの提供を目指した企業だ。新型コロナウイルスの感染が広まるまで、5Gをはじめとする高速通信サービスの普及は、世界経済の成長を支える一つの原動力として市場参加者の関心を集めた。そうした見方が維持できなくなるほど、新型コロナウイルスは世界全体で人の移動を寸断し、需要と供給を落ち込ませている。

 今後の焦点は、どの程度の期間で感染が収まるかだ。いつそうなるかが、かなり見通しづらい。短期間で日米欧など世界各国の感染が収束し、人々の日常生活が通常に戻ればよいが、各国の状況を見ていると楽観できない。世界経済がかなり混乱する可能性は高まっている。

 今後の展開に次第では、収益と財務内容の両面でSBGはさらなるリスクに直面するだろう。追加の資産売却など、同社の事業内容が縮小均衡に向かう可能性は高まりつつある。世界的な需給の寸断を受け、各国の企業業績の悪化は避けられない。すでに財務内容が悪化してきたウィー社のようなケースにおいては、市場参加者のリスク削減などの影響を受け、資産を売却しても資金繰りが追い付かなくなる恐れがある。

 他のSBGの出資先に関しても、ネットワークテクノロジーを用いてグローバルな人の移動(動線)を整備し、そこから付加価値を得ようとしてきた企業が多い。感染対策のために各国が国境を封鎖し、主要都市の封鎖までもが増えている。民泊やライドシェアをはじめITを用いた需給のマッチングによって付加価値を目指してきた企業が付加価値を生み出すことは難しくなっている。それはSBGにとって大きなリスクといえる。

 また、SBGは大手銀行などからの借入によって投資を積み増してきた。SBGの経営体力の低下は、国内の大手金融機関の業績などにも無視できない影響を与える。どのように経営体力を維持するか、SBGは正念場を迎えていると考えられる。孫氏を中心に同社がリスクにどう対応して利害関係者との関係の維持・強化を目指すかに注目が集まるだろう。

(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

一橋大学商学部卒業、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学大学院(修士)。ロンドン証券現地法人勤務、市場営業部、みずほ総合研究所等を経て、信州大学経法学部を歴任、現職に至る。商工会議所政策委員会学識委員、FP協会評議員。
著書・論文
仮想通貨で銀行が消える日』(祥伝社、2017年4月)
逆オイルショック』(祥伝社、2016年4月)
VW不正と中国・ドイツ 経済同盟』、『金融マーケットの法則』(朝日新書、2015年8月)
AIIBの正体』(祥伝社、2015年7月)
行動経済学入門』(ダイヤモンド社、2010年4月)他。
多摩大学大学院

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