NEW
片田珠美「精神科女医のたわごと」

緊急事態宣言、安倍首相の「幻想的願望充足」…感染拡大でより厳しい外出規制の可能性

文=片田珠美/精神科医
【この記事のキーワード】

, ,

緊急事態宣言、安倍首相の「幻想的願望充足」…感染拡大でより厳しい外出規制の可能性の画像1
新型ウイルス肺炎が世界で流行 安倍首相、緊急事態宣言を発令(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 安倍首相が4月7日、緊急事態宣言を発令した。その後の記者会見では、自粛による収入激減に対する補償を含めて「相当度のアフター・サーヴィスをやる覚悟」が感じられなかった。極めつきは、新型コロナウイルスの感染拡大を抑えられなかった際の自身の責任について「最悪の事態になった場合、私が責任を取ればいいというものではない」と発言したことだ。

 この発言を聞いた国民はどう思っただろうか。なかには、「自分で責任を取る覚悟もない国家の指導者がいくら自粛を要請しても、適当に聞き流しておけばいい。第一、十分な補償もないのに自粛していたら食べていけない」と思った方もいるのではないか。

 安倍政権は今回の措置で外出自粛が自主的に進むことを期待しているのだろう。そうなることを私も願うが、欧米の現状を見ていると甘すぎると思う。「国民が外出を自粛して、感染拡大が収まればいいのに」という願望を現実と混同しているようにしか見えない。

 これを精神医学では「幻想的願望充足」と呼ぶ。政治家は常に最悪の事態を想定し、その対策を講ずるべきなのに、「幻想的願望充足」にとらわれていて大丈夫なのかと危惧せずにはいられない。

 同じ危惧を海外の主要メディアも抱いているようで、欧米諸国の非常事態宣言などと比べて「大胆な措置を取るのが遅い」「強制力も罰則もない」という厳しい見方が少なくない。たしかに、欧米では多くの国で外出制限は強制措置で、違反者に罰則を科している国もある。

 たとえば、死者が世界最多のイタリアでは、全土の外出制限と生活必需品を扱う店を除く商店の閉鎖を命じ、街中では警官が検問を実施しており、行き先と理由を記した「証明書」を携帯していない人は最大3000ユーロ(約35万円)の罰金を払わなければならない。死者が1万人を超えたフランスも外出禁止令を出しており、生活必需品の買い物など、政府が認めた目的以外の外出に135ユーロ(約1万6000円)の罰金を科している。

 こうした違いがあるにもかかわらず、「欧米人は外出制限を守らないから、厳しい罰則を科さなければならないが、日本人は民度が高いから大丈夫」と主張する識者がいる。本当にそうだろうかと疑問を抱くし、これも「幻想的願望充足」ではないかと危惧する。

 たしかに、日本人は欧米人と比べると「お上」の指示や要請には素直に従う傾向がある。だが、多くの日本人がそうだとしても、なかにはきちんと守らない人もいる。また、緊急事態宣言が出た直後は、さすがに自粛しているかもしれないが、しばらくすると「少々は大丈夫だろう」と気が緩んでくる人もいるだろう。

RANKING
  • 連載
  • ビジネス
  • 総合