新型コロナ予防にBCG接種をしてはいけない…強い副作用の恐れ、取扱い方を知らない医師も
新型コロナウイルスの予防を目的としてBCGワクチン接種を行い、副作用が発生するという事例が起きた。報道によると、「成人に“絶対にしてはならない”と明記してある皮下注射」を医師が行ったという。医師がBCGワクチン接種に関する基本を知らなかったことは驚きである。
医師にとって、BCGワクチンの取り扱いは常識ではないのか、との疑問を持つ。BCGワクチンに詳しい有明こどもクリニック理事長、小暮裕之医師に聞いた。
「通常、BCGワクチンは生後11カ月(1歳未満)までに1回接種し、スタンプ方式という接種法により行います。医学部の授業で、BCGの基礎を学びます。医師となり普段、BCGにまったく触れることがないと忘れてしまう医師もいるのかもしれません。しかし、BCGの添付文書にも、『本剤は、経皮接種用の濃厚なワクチンであり、もし皮内等に注射すると強い局所反応を呈するので、絶対に注射してはならない』とあります。今回のニュースは同じ医師として、残念に思います」(小暮医師)
通常通りBCGワクチンを接種した場合でも副作用は起きる可能性があるため、信頼できる医師なら事前に副作用について、しっかりと説明を行う。
「リンパ腺の腫れや接種部の化膿、まれに骨炎や全身性のBCG感染症、アナフィラキシーなどの重大な副反応があります。BCG接種を受けた皆さんは、接種箇所が赤く腫れた記憶があると思いますが、通常は接種後2週間過ぎくらいに赤く腫れてきます。しかし、コッホ現象が起きると、接種後2~3日でこういった症状が見られます」(同)
コッホ現象は一種のアレルギー反応で、命にかかわるような重篤な症状に進行することはないといわれているが、このような症状が発現した場合には、速やかに医療機関を受診してほしい。
「新型コロナウイルスの予防にBCGが有効かもしれないというニュースを聞いて、接種したいと思う気持ちは理解できますが、日本の場合、高齢者以外はBCGワクチンを受けていると思います」(同)
日本の場合は1949年よりBCGワクチンの接種を義務化している。つまり、現在71歳以下の人はBCGを接種している可能性が高いと考えられる。
「すでにBCG接種をしている人や、結核に感染したことがある人が接種すると、副作用が強く出てしまう可能性もあるので、新型コロナ感染症予防のためにBCGを接種することは推奨できません」(同)
BCGワクチンが新型コロナウイルスに効果があるのではないかという説についても、冷静に受け止めるべきだと話す。
「現段階ではあくまで一考察、仮定にすぎません。今後、疫学的調査が行われ、さらに作用機序などの解明が必要です。今、感染が不安だからとBCGを接種することは適切ではないと思います」(同)
赤ちゃん用のワクチンが不足する恐れも
また、小児科医としての懸念もあるという。
「BCGワクチンは、メーカーが出生率なども参考にし、需要と供給のバランスが取れるように製造しています。今回のことで本来の使用目的以外で医療機関からの注文の増加などがあると、本来の目的である赤ちゃんへの接種ができなくなりますので、冷静な判断をお願いしたいと思います」(同)
さらに、今回のニュースでBCGワクチンの取り扱いの基本事項を理解していない医師がいることにも注意したい。
「BCGワクチンの接種は小児科のほか、最寄りの内科医で行う人もいますが、ワクチンを溶解液で溶かしたあと2分置いてから使用しないと、十分に効果が出ないなど取り扱いの注意があります。今回のことで、そういった基本事項をしっかりと確認せず行う医師もいるということが心配されますので、赤ちゃんのBCGワクチンは、やはり専門の小児科医で受けることをお勧めします」(同)
コロナ禍にあって、医師の信頼性が問われる事例も発生している。我々は「不安」により正確な判断を欠くことがないよう、冷静さを保つことを忘れてはいけない。
BCGワクチンの新型コロナウイルスへの効果については、WHO(世界保健機関)が12日付で「エビデンスがない現段階では、新型コロナウイルスによる感染症予防を目的としたBCGワクチンを接種することは勧めない」とする見解を出している。
我々が今できる最大の予防策は「STAY HOME」、すなわち外出自粛であることを再認識したい。
(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)