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コロナ10万円支給でマイナンバーがまったく役に立たない…かえって国民の混乱に拍車

文=佃均/フリーライター
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総務省 HP」より

 安倍内閣の新型コロナウイルス感染拡大への対策の評判がよろしくないのは、緊急経済対策の目玉である特別定額給付金の給付について、オンライン申請が渋滞を起こしているからで、その原因はマイナンバーと預貯金口座がヒモ付いていないことだと指摘する向きがある。しかし本当にマイナンバーが原因なのかを調べると、原因はまったく別のところにあることがわかってきた。

 高市早苗総務相が会見で「申請書類を待たず、マイナンバーカードによるオンライン申請を」と訴えたのは5月1日だった。オンラインだとスムーズに申請できるから書面による手続きより早く給付される、というのが骨子だった。同日に受け付けを始めたのは全国679市区町村。総務省の集計によると、ゴールデンウィーク明けの7日までに、申請件数は51万件を上回ったという。

 マイナンバーカードを利用するのは確定申告のときだけという人が、ここぞとばかりにマイナポータルにアクセスしたに違いない。筆者もその1人だ。

カード申請窓口が三密状態に

 以前はICカードリーダーを別途購入しなければならず、それがe-Tax(国税電子申告・納税システム)の利用を阻害する要因だった。しかし現在は NFC(Near Field Communication)機能を搭載した端末があればいい。◯◯PayやSuicaといった電子マネーが使えるスマートフォンにかざすだけだ。

 出だしは好調だった。ところが、これが市区町村の職員を悩ませることになった。マイナンバーカードの窓口に多勢の人が押し寄せ、3密状態が発生したのだ。オンラインだとスムーズに申請でき、書面手続きより早く給付される、それならマイナンバーカードをつくろうという人が急増したのだ。3月は1日当たり2万5000件強だった新規交付の申請件数が、4万件から5万件(1.5~2倍)に跳ね上がった。

 申請からカード発行まで最低1カ月かかることを知っている人なら、「書類が届くのを待ったほうがいい」と考える。また、運転免許証など本人確認ができる公的証明書があれば、パソコンやスマホで申請手続きができることが周知徹底されていれば、窓口に行列はできなかった。現在では多くの市区町村が「マイナンバーカードの作成には2カ月ほどかかります」と表示するようになっている。

 もう1つは、すでにマイナンバーカードを持っている人が暗証番号の確認や変更のために押し寄せたことだ。こればかりは窓口の職員との対面で、専用端末を操作しなければならない。オンライン申請をするには、マイナンバーカードを読み取って、マイナポータルにログインする必要がある。ログインするには数字4けたの「利用者証明用電子証明書暗証番号」(ログイン・パスワード)を入力しなければならない。

 また申請者の氏名、住所、メールアドレスや振込み先預貯金口座の情報を入力し終わっても、英数字6~16けたの「署名用電子証明書暗証番号」(本人確認用パスワード)を付けなければ送信できない。マイナンバー・システムは、マイナンバーカードの不正利用を防止するために、登録と違う暗証番号が連続して入力されると、自動的にロックされる。利用者証明用電子証明書暗証番号は3回、署名用電子証明書は5回だ。

 それとカードが交付されてから5回目の誕生日が過ぎると、登録した暗証番号が無効になる。カードそのものの有効期限は10年なのに、利用者証明用電子証明書は5年。ダブルスタンダードまがいのルールが混乱を大きくした。

「世帯主」という時代遅れの概念

 以上はマイナンバー・システムに起因する特別定額給付金給付の「想定外の事態」だが、今回のマイナポータル経由のオンライン申請には制度設計上の重大な欠陥があった。「マイナンバーカードを持っている人なら誰でも」でなく、「世帯主」という条件が付いているのだ。世帯主が代表して申請し、人数×10万円を世帯主の預貯金口座で受け取って同居家族に分配するという設定になっている。

 今年4月1日現在のカード交付枚数は約2033万枚、全人口に対する普及率は単純計算で16.0%、紛失・破損、内蔵ICの不具合などによる再発行を除いた実質普及率は15%台に下がる。そのうち世帯主は何割いるだろうか。

 内閣府と総務省の官僚は、その3割が世帯主だとしたら約700万件の申請で2000万人以上に給付金を支給できる、と考えたのかもしれない。申請件数を減らせば支給する手間が減る。手間が減れば迅速な支給が可能になる、という三段論法だ。

 しかし今回の特別定額給付金の支給は、「1人に10万円」だったはずではないか。新型コロナを大規模な激甚災害と拡大解釈して、「マイナンバーを保有している人なら誰でも」にすべきだった。振込みの手間は増えるかもしれないが、一括で支給したあと、本当に各人に10万円が渡ったのかを確認する手間はかからない。

 マイナンバーのそもそもの発想は、「公平・公正な税負担」だ。それに「厳正な年金管理」が加えられ、さらに「大規模自然災害への対応」という言い訳がましい目的が付いた。いずれも行政(国・市区町村)と個人(国民・住民)の関係がベースになっているのに、「世帯主」という前時代的な概念を持ち込んだのが、市区町村の現場を振り回した。

ログインツールとしてだけの役割

 オンラインで申請してきた人が世帯主かどうかはわからない。マイナンバーは住民登録している個人に付番されているだけで、リンクしているのは氏名、住所、生年月日、性別の基本4情報だ。家族構成や続柄は、マイナンバーの対象外だ。申請者が世帯主かどうかだけでなく、並記されている「家族」が本当に同居家族か、指定された預貯金口座が実在するか、実在していても申請者の口座かどうかもわからない。

 市区町村では住民基本台帳と照合(行政用語では「突合」)しなければならない。当該個人のマイナンバーがわかれば、住基データと自動的に照合できる。ところが特別定額給付金システムは、マイナンバーカードをログインのツールに使っているだけなのだ。そのように考えると、氏名、住所、性別、生年月日(マイナンバー基本4情報)を改めて入力する仕様になっていたことが「なるほど」と理解できる。マイナンバーと基本4情報がカードのICに記録されているのは、デジタル・ガバメントの大前提、ワンスオンリー/アットワンスのキーになるからだ。それがまったく活用されていない、役に立たせていないというのは、いったいどうしたことだろう。

 新型コロナをマイナンバーカード普及のテコにしようと考えた官僚や政治家の姑息さはさておき、また閣議決定から10日という短期間で申請システムを構築したパワーは評価するとして、デジタル・ガバメントの原則を理解していない人間が旧来型の手続きにこだわったのが大きな間違いだった。
(文=佃均/フリーライター)

佃均/ITジャーナリスト

佃均/ITジャーナリスト

1951年9月、神奈川県生まれ。IT業界紙取締役編集長を経て、2004年からIT記者会代表理事として『IT記者会Report』を発行している。主な著作は『ルポ電子自治体構築』(自治日報社)、『日本IT書紀』(ナレイ出版局)、IT/ソフト産業の調査分析として『IT取引の多重取引き構造に関する実態調査』、『中堅企業向けERPにおける SaaS/SOAビジネス市場動向調査』、『地域の中小サービス事業者におけ るIT利活用状況及びサービス事業者に特有の課題の把握に関する調査』など。

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