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オービス取り締まり件数、大阪が突出して多い謎…いい加減な交通違反取り締まりの実態

文=深笛義也/ライター
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名神高速に設置されているオービス(「Wikipedia」より)

 大阪ではオービスによる取り締まり件数が突出している。昨年のデータを見ると、東京は3432件、大阪は1万3957件と4倍に上る。

 車を持たない若者も増えた。「オービスって何?」という読者も少なくないだろう。制限速度を越えて、車を飛ばしていると赤くピカッと光る。これが「あなたは今スピード違反しました」というサインだ。後日、警察から呼び出され処分の手続きが行われる。道路の上部に設置されているもの、路肩に設置されているもの、さまざまな形状のものがある。正式名称は、速度違反自動取締装置である。

 オービスの設置数、取り締まり件数などのデータを、警察庁から情報公開請求によって入手したのは、交通ジャーナリストの今井亮一氏である。オービスの設置台数は東京が51台、大阪は45台で、大阪の方が少ない。それがなぜ4倍もの取り締まり件数になるのか。今井氏は語る。

「これはもう、設定速度を下げているとしか考えられません。それ以上の速度なら取り締まると警察で決めるのが設定速度です。現在、固定式オービスについては、赤切符になる違反を取り締まっています。違反を認め反則金を支払えば、刑事上の責任は問われないのが、青切符。違反を認めた上で手続きを進めても、刑事上の責任が問われるのが、赤切符です。

 赤切符というのは一般道では時速30キロ以上の超過、高速道路では時速40キロ以上の超過で切られます。ただオービスで取り締まる設定速度を、一般道ではぴったり時速30キロ、高速道路ではぴったり時速40キロとしていることは少ないと考えられます。ぴったりの速度で取り締まられたドライバーとしては、そこが青切符と赤切符の境ですから、オービスがおかしいんじゃないかとか、文句を言いがちです。だから一般道で設定速度を時速31キロにしたり、35キロとか45キロとか高めに設定しているところもあるはずです。大阪はそれを低めに設定していると考えられます。

 大阪は騒音とか振動とか、排気ガスなどの公害問題で、制限速度を下げたことがあるんですね。やたら広い道路なのに制限速度はやけに低いという道路が昔はたくさんあって、現在もけっこう残っていると思われます。だから他県から来たドライバーなんかが普通の運転の感覚で、広い道路だから大丈夫だろうとスピードを出して、制限速度を越してしまいがちになるんです。それで設定速度自体を下げているということが考えられます」

 今井氏が入手したデータを見ると、他にも不思議なことがある。新潟の取り締まり件数は、0なのだ。隣り合った山形は、213件。長野は596件だ。オービスの設置台数は、新潟が3台、山形が2台、長野が7台だ。

「これは明らかにおかしい。新潟で何かあったんでしょう。従来、オービスは三菱電機と東京航空計器がシェアを分けていたのですが、三菱は撤退を決めました。おそらく、『東京航空計器はダメ』と新潟県警が怒るようなことがあったのではないでしょうか。

 今まで話していたのは固定式オービスについてですが、可搬式オービスといって移動できるオービスがあります。この4月に、東京航空計器のものであろう可搬式オービスの予算を、撤回したということがありました。いったん付いた警察予算を撤回するというのは普通ではありえないことで、新潟日報でも戦後初だと報じています。取り締まり件数0の背景には、東京航空計器と県警とのトラブルがあったのではないかというのは、そこからも読み取れる気がします」

警察のやる気次第?

 鹿児島(設置2台)、鳥取(設置2台)、高知(設置1台)も、取り締まり件数は0だ。鹿児島の場合など、隣県の熊本の取り締まりは140件(設置10台)である。

「1つ考えられるのは、ドライバーがスピードを出しやすい、警察から見たら取り締まり件数を稼ぎやすいドル箱路線があって、そこにオービスを多く設置したり、取り締まりも強化しているということがあるかもしれません。

 それと、やる気の問題もあるのだろうと思います。オービスで取り締まると、いちいちドライバーを呼び出して出頭させて、処分の手続きを取るわけです。その体制がしっかりしているところと、そんなめんどくさいことはやらなくていいというところと、各都道府県の警察によってかなり大きなばらつきがあるように見えます。

 警察庁の指導で、各1台はオービスが設置されているわけですが、運用の仕方がかなり違うのでしょう。埼玉県警は体制を拡充してがんばっているということは聞いています。確かに昨年の埼玉の取り締まり件数は1827件(設置10台)で、神奈川の180件(設置6台)、千葉の283件(設置8台)を大きく引き離しています。一方、裁判を傍聴していて知ったことですが、奈良県警では、オービスの担当は警察音楽隊が兼務していて、月の半分は演奏に出ている状態だったのです。現在もそうなのかは、わかりませんけど」

移動式オービス

 ここまで固定式オービスについて聞いてきた。三脚の上に載る装置で、ちょっとした道路脇にも設置できるのが、可搬式オービスだ。移動式オービスと呼ばれることもある。これによる昨年の取り締まり件数は、東京が58件(5台)、大阪が20件(1台)と固定式オービスの件数とは逆転している。可搬式オービスについてのデータも、今井氏が警察庁から入手したものだ。ちなみに固定式オービスも可搬式オービスも、台数については年度末時点のもの、取り締まり件数については昨年中のものである。

「今年3月31日の時点で、全国にある可搬式オービスは60台。昨年の取り締まり件数は5069件。1週間に2回取り締まりをやっているとすると、1回の取り締まり件数が1件以下になってしまうんです。実際に取り締まりを観察していた人の話を聞いたら、2時間近くやっていて1件も取り締まれずに帰ってしまったということです。そういうことが、しょっちゅうあるということが、データからも読み取れるわけです。

 可搬式オービスが持ち出されてきた大義名分は、通学路や生活道路の安全を守るために、青切符レベルの違反でも取り締まるということだったのに、そんなことでいいんでしょうか。あまりにも取り締まり件数が少ないことに対しては、これは見せる取り締まりだ、装置を見せることによって速度を落とさせるんだって警察は言うんだけど、そんなことのために1台1000万円の装置を買うのは、はたして適切な税金の使い方なのでしょうか」

 これまで可搬式オービスの主流だったのは、東京航空計器のLSM-300という機種。これに問題があるのだろうか。

「LSM-300による取り締まりを観察していた人によると、まず設定するのがなかなかちゃんとできないようです。可搬式オービスの場合、警察官が横に付いているわけですけど、『おいおい今の車、いくらなんでもこんなに速度出してなかっただろ』みたいなこともあるのではないかと。

 それに対して近年導入が進んでいるのが、スウェーデンのセンシス・ガッツォグループ社製の機種です。この会社は70カ国に市場を持つ世界的企業です。センシスの可搬式オービスで取り締まりを受けたドライバーが否認している、という裁判を傍聴しました。完璧を目指す検察官の立証によって、普通ならそこまでやらないよというところまで明らかになって、センシスの高性能ぶりがはっきりしました。今のところ、LSM-300のほうが圧倒的に台数が多いのに、裁判になったという話は聞きません。性能に疑問符が付いているので、たとえ取り締まられてもドライバーが否認したらそのまま不起訴になっているのではないでしょうか」

 スピード違反の取り締まりが、やる気や機種の性能で左右される。そんなことはあってはならないだろう。

(文=深笛義也/ライター)

深笛義也/ライター

深笛義也/ライター

1959年東京生まれ。横浜市内で育つ。10代後半から20代後半まで、現地に居住するなどして、成田空港反対闘争を支援。30代からライターになる。ノンフィクションも多数執筆している。

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