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鳥インフル、過去最多の殺処分約1千万羽…なぜウィンドレス鶏舎で?経営大規模化が仇に

文=小倉正行/フリーライター
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サイト「政府インターネットテレビ」より

 日本で過去最大規模の高病原性鳥インフルエンザ感染が広がっている。3月13日に栃木県芳賀町で新たに鳥インフルエンザが発生し、この採卵鶏農場を含めて52農場で殺処分された鶏は計986万羽にも及び、過去最多だった183万羽の5.4倍以上に及んでいる。

 今回の流行は、主に「H5N8」というA型の鳥インフルエンザで毒性が強い高病原性のタイプであるが、感染から死亡までの期間がこれまでの2〜3日から6日に伸び、感染に気づきにくいといわれている。ヨーロッパで「H5N8」の感染が広がるなか、日本での感染拡大は渡り鳥がウイルスを持ち込んだことによるものである。渡り鳥はウイルスによる致死率が低いといわれる。

 今回の感染拡大では、注目すべき2つの特徴がある。ひとつは、この間の採卵養鶏経営の規模拡大の進行が、被害の拡大をいっそう深刻化させた点である。1990年には8万6500戸あった飼養農家は、2020年には3300戸と3.8%の規模まで縮小し、1戸当たりの採卵鶏飼養規模は1583羽から4万3000羽と27倍にもなっている。今回被害を受けた経営体では、1カ所で最大115万羽にも及んでいる。そのため、一度感染すると大規模に殺処分され、それも自治体や自衛隊の力を借りなければ処分できない状態に陥っている。

 もうひとつの特徴は、鳥インフルエンザ予防の切り札ともいわれてきたウィンドレス型の鶏舎で広がったという点である。野鳥が鶏舎内に入り込まないように窓がまったくない鶏舎だが、鶏糞の処理や餌も自動で処理されている。現在、日本ではこのウィンドレス型鶏舎が大規模に展開され、養鶏経営の規模拡大に拍車をかけていると。光が入らない構造で、養鶏業者は鶏がとる餌の量を減らすために鶏舎内の照明を極力減らし、薄暗い中で飼育している。

 高密度のケージ(バタリーケージ)飼育で、幅60センチ奥行き40センチのケージの中に10羽の鶏が押し込められており、アニマルウェルフェアなどどこ吹く風である。養鶏業者としては、鳥インフルエンザは絶対発生しないとの安心感からこのウィンドレス型鶏舎をどんどん導入してきたのだが、その神話が見事に崩壊した。養鶏業者からは、「うちの設備でも感染してしまうのか。これから防疫をどうしたいいものか」「明日はわが身。あとは運しかない」(共に2月10日付東京新聞より)との声が出ている。

養鶏経営の見直し急務

 農林水産省の疫学調査によれば、野鳥は防げても、ネズミや猫の侵入が認められたり、飼育担当者の靴の洗浄が不十分であったり、手指の洗浄が十分なされていなかったりといった事例が認められている。人や小動物によりウイルスが持ち込まれているのである。

 養鶏経営ではアニマルウェルフェアをどのように導入するのかが重要な問題となっているが、経営規模拡大や鳥インフルエンザに対する適切な防疫対策のあり方など、総合的に見直さなければならない時期に直面しているといえる。

 今回の感染拡大で国内の採卵鶏の4.4%が殺処分されたため、鶏卵の不足と価格上昇に懸念が広がっている。新型コロナウイルス感染拡大を受け、外食をはじめとする業務用需要が落ち込んでいるため、深刻な供給不足は生じていないとみられるが、今後の予断は許せない。

(文=小倉正行/フリーライター)

小倉正行/フリーライター

小倉正行/フリーライター

1976 年、京都大学法学部卒、日本農業市場学会、日本科学者会議、各会員。国会議員秘書を経て現在フリーライター。食べ物通信編集顧問。農政ジャーナリストの会会員。
主な著書に、「よくわかる食品衛生法・WTO 協定・コーデックス食品規格一問一答」「輸入大国日本 変貌する食品検疫」「イラスト版これでわかる輸入食品の話」「これでわかる TPP 問題一問一答」(以上、合同出版)、「多角分析 食料輸入大国ニッポンの落とし穴」「放射能汚染から TPP までー食の安全はこう守る」(以上、新日本出版)、「輸入食品の真実 別冊宝島」「TPP は国を滅ぼす」(以上、宝島社)他、論文多数

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