アマゾンで買える謎の“中華ゲーム機”を購入→プレイしてみた…著作権侵害の違法性は?

アマゾンで買える中華ゲーム機の数々

 世界一の市場規模を誇るネットショッピングサイト「アマゾン」では、常に3億点以上の商品がラインナップされているという。しかし、最近はアジアなどに籍を持つ実態のよくわからない業者からの出品や、そうした商品をたどたどしい日本語で絶賛するレビューなどが横行し、信用度の低下が叫ばれている。

「確かに『最近のアマゾンは劣化した』と言う人は多いですが、逆に言えば、その怪しさが魅力的にもなってきました」と語るのは、コラムニストのジャンクハンター吉田氏だ。

「アジアの国々にはたいていナイトマーケットがあって、そこで売っているさまざまなガジェットを買うのが好きでした。でも、今やコロナ禍で海外旅行ができないので、あの高揚感を味わえない。それが、自宅でアマゾンを眺めているだけで海外旅行気分に浸ることができるというわけです」(吉田氏)

 パロディTシャツや謎のDVD、動くかどうかわからないデジタル機器……そんな怪しい商品がアマゾンでも売られているが、中でもオススメは「中華ゲーム機」だという。

「1台にあらゆるレトロゲームを詰め込んだエミュレータマシンは『中華ゲーム機』と呼ばれ、把握できないほどの機種がリリースされています。日本でも、一部のゲームマニアから注目を集めています」(同)

 エミュレータマシンとは、本来は専用のゲーム機でのみ稼動するソフトをエミュレータ(コンピュータや機械の模倣装置)を使ってプログラム的に再現し、1台のマシンに詰め込んだもの。

 2017年に任天堂が発売し、大ヒットした「ニンテンドークラシックミニ」も、同社の「ファミリーコンピュータ」の人気タイトルを収録したエミュレータマシンだ。

「ニンテンドークラシックミニシリーズに収録されているタイトルは約20種類ですが、中華ゲーム機では1000タイトル以上収録しているものがザラにあります。しかも、任天堂の『ファミコン』や『スーパーファミコン』だけでなく、セガの『メガドライブ』、その海外版の『Genesis』、さらにはゲームセンターで稼働していたアーケードタイトルまで、さまざまなレトロゲームを網羅しているものが多く、ゲームの歴史が1台に詰まっているといえます」(同)

 アマゾンでもさまざまな業者から大量の中華ゲーム機が出品されており、タイプも据え置き型から携帯型まで幅広く、価格も1000円代から購入できる。ゲームファンにとってはたまらないアイテムだが、中身のソフトはコピー品に近いものであり、その違法性も気になるところだ。

「中華ゲーム機のメーカーは、著作者からライセンスを取っていないと思われます。日本の法律ではゲームソフトの著作権は公表後70年間有効とされているので、中華ゲーム機の製造はイリーガルな行為でしょう。ただし、著作権法は違法な製品であることを承知の上で購入しても、個人の場合は罪に問われることはないんです」(同)

 山岸純法律事務所の山岸純弁護士は、次のように解説する。

「確かに、著作権法第113条は『著作権を侵害して作成されたプログラムの著作物を、侵害品と知っていながら入手し、業務上電算機で使用する行為』を著作権侵害とみなし、5年以下の懲役を科しており、『ライセンスをとらずに勝手に作成したゲーム』も『プログラムの著作物』として処罰の対象となります。しかし、『業務上』という点がポイントです。要するに、家庭で個人的に遊ぶために購入した場合は処罰されないけど、これを利用して人を集めて遊ばせたり(たとえカネをとらなくても)すると処罰されるということです。

 これに対し、『著作権を侵害して違法にアップロードされた音楽や漫画データ』などは、個人で楽しむためであっても処罰されます。このへんの“デコボコ”加減が、著作権法が侵害行為とのいたちごっこだと言われている所以なのです」

1000種類以上のゲームが詰まった「Retroquest」

 そこで、実際にアマゾン中華ゲーム機を購入してプレイしてみた。まず手に入れたのは、マニアの間で決定版との誉れ高い「Retroquest」。据え置き型で、付属のHDMIケーブルをモニターにつなげてプレイする。日本語で書かれた説明書が添付されており、設定に手間取ることがない。

 その中身は、まさにゲームの歴史が詰まった博物館だ。1972年に北米でリリースされた史上初の家庭用ゲーム機「オデッセイ」から、アメリカで大ヒットした「Atari 2600」、そして日本の「ファミコン」「セガマークIII」「PCエンジン」などの8ビット機、「スーファミ」「メガドライブ」といった16ビット機、「ゲームボーイ」などの携帯マシンのソフトがほとんど網羅されており、大量のアーケードタイトルも揃っている。

 さらに「プレイステーション」「ドリームキャスト」「ニンテンドー64」といった高機能マシンのソフトも入っており、この1台に約40年に及ぶゲームの歴史がギュッと凝縮されている。

 ファミコン時代のゲームは、どれも再現性は完璧。そこでデータが重い、新しめのタイトルとなるプレステ版「クラッシュ・バンディクー」を起動してみたが、操作性にわずかな鈍さを感じるも、おおむね快適な遊び心地。画質や音楽も、オリジナルと遜色がないように思える。

 吉田氏によると、中華ゲーム機の中には動作が遅かったり、音が欠けてしまうケースなども多いというが、その点で「Retroquest」のオリジナル再現度は極めて高いと言えるだろう。

 一部のタイトルが起動しない、といった不具合はあるものの、遊びきれないほどのレトロゲームが詰め込まれているので、年季の入ったマニアから浅く広く楽しみたいライトなファンまで、幅広い人が楽しめる1品だ。

PSPにそっくりなポータブル中華ゲーム機

 次に入手したのは、ポータブルタイプ。見た目は完全に「PSP(プレイステーションポータブル)」をモデルにしていることが丸わかりのデザインだが、そのぶん使い勝手は良好だ。

 収録されているゲームはファミコンやスーファミのタイトルがほとんどだが、「NEOGEO」などのアーケード、数本だがプレステなど32ビット機のタイトルも入っている。

 ディスプレイも大きめで解像度もPSPに見劣りしない。期待を膨らませてプレステ版「ザ・キング・オブ・ファイターズEX2」をプレイしたところ、一部のボタンが効きにくく、操作に対してキャラクターの動きが若干遅れるが、プレイできないほどではない。それ以外のほとんどがスムーズに操作ができたので、タイトルによってプレイのしやすさにムラがあるようだ。

 また、本体にはカメラ機能や動画・音楽再生機能も内蔵されており、マルチメディアプレイヤーとして使うこともできる。ゲームはあくまでもオマケと考えるなら非常に高性能であり、十分に満足できる商品と言えるだろう。

ゲームと扇風機が一体となった「GAME-FAN」

 最後は、アマゾンの画面で見ただけで思わず失笑してしまい、衝動的に購入ボタンを押してしまった「GAME-FAN」。

 最近よく見かける、充電式の携帯扇風機の胴体部分に液晶画面とエミュレータをブチ込んでしまったという、邪教の館で悪魔合体させたようなアイテムだ。商品ページやパッケージには内蔵コンテンツの情報は一切載っておらず、搭載されているソフトの種類は起動してみないとわからない。

 注文から2週間ほどで届いた箱を開けてみると、中には説明書のようなものはなく、本体と充電用のUSBケーブルが入っているのみだった。充電して電源を入れると、表示言語を中国語と英語の2種類から選択できる。英語を選択するとメニュー画面に移行し、「500 IN 1」という文字の下に英語表記のゲームタイトルが並ぶ。「500 IN 1」とは、この1台に500種類のゲームが収録されているという意味のようだ。

 画面をスクロールしていくと、「スーパーマリオブラザーズ」を筆頭に「ボンバーマン」「ドンキーコング」など往年のファミコンタイトルがズラリ。さらに、「Harry Potter」というタイトルがあったので起動してみると、謎のテトリス風ゲームだったりと、オリジナルと思しきゲームも多く収録されている。

 音量が調節できないのが不便だが、画面が途中で止まってしまう、カーソルボタンの効きが悪い、といった不備は一切なかった。ただし、ディスプレイが約10センチ四方とかなり小さめのつくりとなっており、老眼の人は遊ぶのに苦労するかもしれない。

賛否が分かれる中華ゲーム機

 1台で昔なつかしいソフトをたっぷり楽しめる中華ゲーム機著作権法を完全に無視しているということもあり、ユーザーの間でも賛否が分かれているアイテムだが、吉田氏は異なる視点からポジティブに評価する。

「レトロゲームは世界中で需要があり、メーカーも新たな機種を出すごとに昔のタイトルを再発売して何度も稼いでいます。ただ、そうした商業主義やさまざまな権利にとらわれているおかげで、ゲームファンが気軽にレトロゲームに触れることができず、開発者やゲームの歴史を学術的に掘り下げている研究者にとっても、ある意味で妨げになっています。

 その点、製造元も年代もバラバラな複数のゲームを横断的に網羅している中華ゲーム機は、遊んでいるうちにこれまで誰も指摘してこなかったようなタイトル同士の影響関係がわかったりすることもあります。著作権を無視していることからゲーム文化の破壊者と考えられがちですが、見方を変えれば、フラットな立場からゲーム資料を保存するという貴重な役割を担っているとも言えるのではないでしょうか」(同)

 さらにマクロな視点から見れば、エミュレータ技術の進化にも寄与していたり、中華ゲーム機の製造・流通過程そのものもゲームカルチャーの一部といえる。コロナ禍のステイホームの楽しみ方のひとつとして、選択肢に入れてみるのはいかがだろうか。

(文=清談社)

清談社

せいだんしゃ/紙媒体、WEBメディアの企画、編集、原稿執筆などを手がける編集プロダクション。特徴はオフィスに猫が4匹いること。
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