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東京都・学校図書館の民間委託を廃止させた都議に聞く(2)…違法状態横行、単身で切り込む

文=日向咲嗣/ジャーナリスト
東京都・学校図書館の民間委託を廃止させた都議に聞く(2)…違法状態横行、単身で切り込むの画像1
「米川大二郎のチャンネル」より

 3月23日、東京都議会予算特別委員会で、不祥事が続出していた都立高校・学校図書館の民間委託を廃止する方針が正式に発表された。

 この日行われた締めくくり質疑のなかで藤田裕司教育長は、「新しい指導要領に対応するため」「学校図書館の機能を、より一層活用する」と答弁。その抽象的な表現とは裏腹に、具体的な施策の中身は、とんでもないサプライズだった。

 まず、民間委託されている128校のうち、2021年度末に契約が満了する86校から順次終了。それらを直接雇用(会計年度任用)に切り替えていき、23年度から委託校はゼロとなる。受託業者からすれば、その瞬間に20数億円の“ピンハネ市場”が露と消えることになる。

 ありとあらゆる公務の民間委託が急速に進められているなか、いったいなぜ、このような“逆流”が実現したのか。昨年9月の都議会での一般質問以来、都立高校での“偽装請負”を指摘し続けてきた都民ファーストの会所属の米川大二郎都議に、議会質問の影で繰り広げられていた当局との交渉の舞台裏を聞いた。

--都議会で学校図書館の問題を取り上げたのは、なぜですか?

米川大二郎都議 私は葛飾区議だった頃から区内・学校図書館の整備に力を入れてきまして、4年前に都民ファーストの会から都議会に立候補した際にも当時の野田数代表に、「当選したら学校図書館の問題をやらせてください」と言っていました。昨年9月の都議会での一般質問は、ようやくそのチャンスが巡ってきたという感じでした。

--都立高校の事件については、ご存じでしたか?

米川都議 ええ、2015年に偽装請負で労働局から是正指導を受けたことは知っていました。教育委員会から、ちゃんと人を配置していなかったので、そうなったと聞いていました。

 ただ、そのときは「2013年当時の仕様書のまま」という認識でしたので、書類上は問題ないように、うまく整えているのだろうととらえていました。ところが、いつのまにか仕様書の内容そのものが大幅に変わっていたことに気づいたのです。

--「名ばかり業務責任者」の問題ですね。

米川都議 そうです。昨年、ある関係者から「今は仕様書も変わったので、以前みたいに事件はもう起こりません」と言われたんです。「なんでそうなったの?」と聞き返すと、「全員“業務責任者”となっているから」という話が出ました。そこで、おかしいと違和感を覚えたのが、この問題を議会でも取り上げるきっかけになりました。

--いちいち本社にいる業務責任者を通さなくても、現場の従事者が全員、業務責任者も兼務していたら、学校側は派遣社員と同じように、その場で従事者とやりとりができるわけですね。いわば、工事現場で作業員全員を「現場監督」に任命したようなもの。

米川都議 そうです。これまで委託会社の本社にいる業務責任者が窓口になって学校側の要望を聞いて、業務従事者の指導監督をしていました。ところが、2019年度の仕様書を見ると、監督指導するはずの業務責任者が、現場での従事者も兼ねていました。

 また、業務責任者とは別に「受託者」という委託会社の社員を選定し、そちらが委託者である学校と直接やりとりをして、実質的な業務責任者の役割を果たす二段階方式を採用していました。

 仕様書を取り揃えて読んでみると、やはりおかしい。じゃあ、前後の契約はどうなっているかとか。そこから、まず今の学校の仕様書を見て、ほかはどうなっているのかを調べ始めたんです。

--そのときに東京労働局に行かれたんですよね?

米川都議 ええ、最初に東京労働局に行ったのは7月くらいでした。最初は、「じゃあ資料だけ受け取ります」ということで、契約データ、勤務体制表など入手した資料をすべて提出しました。また、「ここは問題あるのではないですか」と、自分で書いたものも添付しました。以後、都合3回くらい行っています。

--そこでわかったことは?

米川都議 従事者を兼務していても、業務責任者がその責務を果たしていれば、それ自体は違法とはいえない。問題となるのが、現場に従事者が1人しかいないときに、その人が業務責任者を兼務しているケース。その場合、発注者から従事者へ直接、指示・命令をしているとみなされて、偽装請負にあたることがわかりました。

--なるほど。完璧に対策したはずの仕様書にも、ほころびがあったんというわけですか。それで、各都立高校にも実態調査をされたんですか?

米川都議 はい。各校に対して、誰がどういう体制で勤務しているかを調査しました。とりわけ、1人勤務のときに、その人が業務責任者を兼ねているのかどうかが焦点でした。

--調査は直接、各校にダイレクトに行ったのですか?

米川都議 そうです。都教委を経ずに、会派の控室から直接、各校に質問票をファックスで送りました。学校側は突然、都議からファックスがきたので、さぞや驚いたでしょうね。各校はセンターに相談したようで、そこから高等学校教育課に上げられ、結局、回答は全部、高等学校教育課経由で返ってきました。

--私が、いくら質問しても一切回答しないのに、さすがに都議会議員からの調査ともなると無視できないのでしょう。その調査によって判明したのは、どのようなことでしょうか。

米川都議 朝から夕方、昼から夜までという時間帯を調査した結果、何校かは、従事者が業務責任者を兼務しているという回答がありました。また、連絡体制表では必ず「受託者」とされている本社の社員を通して従事者へ連絡するというツリー(指揮命令系統を示した連絡網チャート)になっていました。そうすると、この学校側の図書館担当者とやりとりする会社の人が真の業務責任者で、そのほかの人は仮の業務責任者でしかないということです。

--その事実を労働局に通報しましたか?

米川都議 はい。7月に、「都立高校では1人勤務で業務責任者を兼務している実態があります」という情報提供を労働局にしました。そのうえで、「このような仕組みは適法なのか」と聞きました。当初、労働局の担当者は「上司と相談します。報告します」というだけの回答でした。

--労働局サイドの反応がはっきりしたのは、いつごろですか?

米川都議 9月30日に議会で一般質問する2週間くらい前のことでした。偽装請負の可能性があることを追及したいという話をしにいったんです。そのときに「『偽装請負の可能性がある』と発言して大丈夫ですよ」「“可能性がある”ということなら問題がない」とまで言われました。これで、いよいよ一歩踏み込めるようになったんです。

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米川都議が情報開示請求により入手した公文書は5000枚以上に上る。このなかに、偽装請負の証拠が隠されていた。

--これが9月30日の一般質問の内容につながっていくんですね。

米川都議 はい。東京労働局に行ったときに、都立高校・学校図書館で行われている業務責任者が従事者を兼務しているパターンは、典型的な偽装請負の4例のひとつであることが東京労働局のリーフレットに明記してあり、それを見てびっくりしました。9月の一般質問の直前でした。その時点で論理が整然とつながってきましたね。

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--これにより、言い訳のきかないところまで都教委を追い込めたわけですね。

米川都議 そうです。これがなかったら少し弱かったかもしれません。そもそも仕様書に書いてある「従事者が業務責任者を兼務」と知らなかったら、質問すらできず、調査にも入れなかったでしょう。いろいろな偶然が全部、今回は重なったと思います。

--都教委とは、9月の一般質問の前にやりとりされましたか。

米川都議 ええ。8月の段階で各学校に、誰がどういう体制で勤務しているか調査をかけています。その段階で、1人勤務のときには業務責任者を兼ねているとして、そこで指示をしたら違法になりますよねという話は、(担当課と)していました。こういう実態はあるでしょうと。それを受けて担当課が9月のアタマに、1人勤務のときには業務従事者に学校側は指示してはいけませんよという事務連絡を各学校に流しました。

 1人勤務のときには、必ず会社の業務責任者を通してやりとりをしなさいという事務連絡を出したのです。しかし、実際は目の前にいて、お昼に2人になったら、その人が業務責任者として扱えるのに、(1人のときには指示できないのは)おかしいという話をしました。

 教育委員会は9月アタマに現場に文書を出して、1人勤務のときでも、米川が調査したときには、業務責任者を兼ねていましたと答えたかもしれないが、その事務連絡を出した以降は、そういう問題行為は起こっていませんというスタンスになっていました。

--1人勤務のときにも、従事者が業務責任者だということですか?

米川都議 今年からはちゃんと、何時から何時までは誰が業務責任者だとされましたが、それまでは、いくら事務連絡があったとしても、その人がどういう立場なのかは誰もわからない状況でした。だからグレーだよねという抜け穴です。1人勤務のときには単なる従事者、もうひとり来た瞬間に、同じ人が業務責任者になるなんて、おかしいでしょう。その人がどういう立場で勤務しているかを学校側が常に把握できないのはおかしい、という話もしました。

--財務局とのやりとりとは?

米川都議 財務は、都知事名で委託関係の契約するときには契約二課が全部請け負うので、6月くらいから契約二課に「こういう仕様書ってどうなんですか?」という話はしていました。開示請求して文書が出てきて、仕様書を全部見ていったところで、こういう仕様書の内容だと違法性があるのではないのかと。

--財務局は、都教委とは別ルートでやりとりですか?

米川都議 そうですね。このときは別々の同時進行です。横のつながりは特になくて、財務は財務で、この仕様書上どうなのかと。契約そのものが違法行為の可能性があるのかどうかということ。そういう問題のある契約を都知事名で結ぶのはどうなのか、と言いました。

--いよいよ、議会で一般質問。事前に当局と質問と回答の内容についてやりとりがありましたか?

米川都議 はい。最初の質問原稿では、「現状では違法の可能性がある」といった文言をズバッと言う文章にしていましたが、そのへんを「なんとかならないか」と言ってきました。“こうなったら違法の可能性がありますよ”などと、状況を限定した上で問題点を指摘するように変えてほしいという要望でした。

--その申し出は、都教委の誰からですか?

米川都議 “かなり上のほう”というところで勘弁してください。

--当日の質問原稿の表現を変えることで、事前に委託見直しの方向で決着していたのですか?

米川都議 そうです。偽装請負の可能性が確認されたという表現をやわらげるにあたって、「当然、業務委託は見直すんだよね」という話をしました。

--それに対して、どんな回答だったんですか?

米川都議 「委託は見直す方向でやりますが、まだ予算要求はこれからなので」と、具体的なことは、すぐには何もなかったです。やりとりは中旬から何度もありました。ただ、向こうからは回答があまりないような状況でした。どう対応するかを協議していたみたいです。大規模な転換になってくるので、なかなか回答が来ない状態が続きしまた。

--決着したのはいつですか?

米川都議 一般質問の前日、9月29日です。

--どういうふうに妥結したのでしょうか?

米川都議 9月29日の段階で提案がありました。その際に、予算要求はして、具体的にどういう形になるかはわからないが、「必ず来年度、直接雇用を入れる」という話でした。

--結果的に、9月30日の一般質問は、かなり柔らかい表現になっていましたね。

米川都議 そうですね。実際の質問自体は、業務委託をどうにかしろとは言っていません。あくまでも“チーム学校”として、直接雇用の職員ならやりとりできるのに、できないようなやり方をしているのはおかしいよねとか、司書教諭がかかわる時間が少ないよね、という話をしました。

--ここまで交渉が決裂せずに、うまくいったポイントはどこにあると思いますか?

米川都議 前年に共済組合のことを議会で取り上げたときの手法が役に立ちました。教育委員会事務局の職員は昭和37年の法改正以降、公立学校共済に加入しなければならなくなっているところを、東京都共済に加入しているのは問題ではないのかと指摘しまして、そういう法令違反の予算は認められませんと追及したのです。

このときに、教育委員会だけに話をしてもラチがあかないので、財務局の主計部に対して「こんな教育予算をつけるのならば、令和2年度の東京都の一般会計予算に賛成できません。どうするんですか」と迫りました。これが突破口になって変えられたので、学校図書館も同じような手法で臨んだのが功を奏したと思います。

--“違法の可能性があるような契約だったら予算化は認められない”とした点がキモだったのですね。都教委や財務局としたら、「共済のときのように、米川は忖度なしに爆弾をぶつけてくるぞ」という恐怖感があったわけですね。

米川都議 そう思います。

インタビュー後編に続く。
(文=日向咲嗣/ジャーナリスト)

これまでの流れ

インタビュー後編

日向咲嗣/ジャーナリスト

日向咲嗣/ジャーナリスト

1959年、愛媛県生まれ。大学卒業後、新聞社・編集プロダクションを経てフリーに。「転職」「独立」「失業」問題など職業生活全般をテーマに著作多数。2015年から図書館の民間委託問題についてのレポートを始め、その詳細な取材ブロセスはブログ『ほぼ月刊ツタヤ図書館』でも随時発表している。2018年「貧困ジャーナリズム賞」受賞。

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