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吉澤恵理「薬剤師の視点で社会を斬る」

コロナ禍で膝に痛みを抱える人が急増…運動不足や体重増が要因か、初期段階での受診が重要

文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト
コロナ禍で膝に痛みを抱える人が急増…運動不足や体重増が要因か、初期段階での受診が重要の画像1
「Getty Images」より

 東京をはじめとする21都道府県が、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて緊急事態宣言下にある。政府は、期限となる9月12日での宣言解除は難しいとの見解を示している。今後も感染予防に重点が置かれることになり、企業や学校のリモートは必須の対策ともいえる。

 しかし、リモートワークが一般化したことで、これまでの習慣が大きく変わり、体調に変化が生じる人も少なくない。北海道札幌市にある福住整形外科クリニック院長の亀田和利医師のもとにも、膝の痛みを訴える患者が多く訪れるようになったという。

「膝関節の周りには、関節を支える筋肉があります。リモートで運動量が極端に減ったことで筋肉も衰え、膝関節に負担がかかり、違和感や痛みを訴える人が増える傾向にあるようです」

 膝の痛みのなかでも多いのが「変形性膝関節症」であり、その患者数は全国で約3000万人と推定されるという。亀田医師に変形性膝関節症について詳しく聞いた。

「変形性膝関節症とは、膝の関節の間の軟骨がすり減り、骨同士が擦れ合い、摩擦によって痛み、腫れ、こわばり、運動能力の低下が起きる症状です。また、関節周囲の骨の変形も生じ、数年から数十年かけて進行し、関節の動きが大きく制限され、日常生活にも支障をきたすようになります」(亀田医師)

 一般に変形性膝関節症は40~50代以降に多く、特に女性の発症率が高い傾向にある。

「何気ない日常生活で行う動作でも、膝を使用する回数は一日に数千回ともいわれます。長い年月をかけて膝はダメージを受けています」(同)

 コロナ禍で外出の頻度が減り膝周囲の筋力が低下した状態では、膝への負担が大きくなる可能性がある。変形性膝関節症を進行させないためには、初期のケアが重要だという。

「変形性膝関節症の初期の段階では、歩き出す時などに痛みがありますが、歩き始めると痛みが消えることが多く、『病院へ行くほどでもない』と放置してしまい、悪化するケースも多く見受けられます。初期の段階で症状を把握し、適切な治療を行うことで悪化を防ぐことは可能ですので、ぜひ受診してほしいと思います」(同)

変形性膝関節症の治療

・運動療法…変形性膝関節症の初期で軽症の場合は、運動療法により改善と進行防止が期待できる。

「運動療法は、ウォーキングなど負担が少ない運動を習慣とします。膝の周りの筋肉を強化することで関節を安定させ、痛みを軽減します。運動療法に加えて肥満の場合は減量します。体重が1kg増えると、膝には3kg以上の負担がかかるといわれています。体重を減らせば、その分、膝への負担を大幅に軽減できます。コロナ禍に体重が増加した人は、食事、運動など日常生活を根本的に見直すことをお勧めします」(同)

・投薬治療…炎症や痛みの状態に合わせて、内服または注射による治療が行われる。薬を必要とする程度の症状では治療が長期化するケースもあり、患者のアドヒアランス(患者が積極的に治療方針の決定に参加し、その決定に従って治療を受けること)が重要となる。

「痛みが強い場合は鎮痛剤を服用し、膝の潤滑剤としてヒアルロン酸を注射します。炎症がひどい場合はステロイドの注射を行いますが、頻繁にできるものではなく、十分に症状を見極めた上で行います」(同)

 膝に水が溜まるという症状も変形性膝関節症で見られるが、この場合は水を抜くことが必要となるケースも多い。

「水が溜まった状態でヒアルロン酸を注射すると、ヒアルロン酸が薄まってしまい効果が得られないため、水を抜く必要があります。この場合は、水を抜いても炎症があるうちは、繰り返し水が溜まることもあり、根気よく治療を続けることが大切です」(同)

・手術による治療…投薬による治療法で効果がみられない場合は、手術という選択肢がある。しかし、患者にとってのメリット、デメリットを十分に考慮した上で決定することが必要である。

「人工膝関節置換術や骨切り術という手術の選択肢があります。しかし、1カ月程度の入院を要することもあり、患者さんにとって手術という選択は、非常にハードルが高い場合があります。麻酔に伴うリスクや手術後の合併症として、手術の傷から菌が入り感染症を起こす、血栓ができる、長期的には人工関節が緩んでしまうなどの合併症が起きる場合もあります」(同)

・再生医療…医療の進歩により新たな治療の選択肢として注目されているのが、再生医療である。

「医療機関によって、行う再生医療はいくつかあります。当院では、PRP-FD療法を行っています。患者さんの血液から血小板を取り出し、濃縮しフリーズドライ加工したものを治療の際に溶解し、膝の関節に注射します。血小板には成長因子を放出して損傷部分を治癒する働きがあり、この血小板を凝集して損傷部位に注射することで新しく健康な細胞の成長を促進し、治癒を促すという治療法です」(同)

 保険適用ではないPRP-FD療法は、自己負担となるため高額ではあるが、長期的に見ると通院のトータルな時間とコストを比較すると費用対効果は大きい。何より、膝の健康を取り戻せるという大きなメリットがあり、多くの整形外科医が再生医療による治療の普及に努めている。

 人生100年時代となった現代、”歩く”ことは健康寿命を保つ鍵ともいえる。この機会に変形性膝関節症の病態について知り、予防や早期の治療に役立ていただければ幸いである。
(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)

吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト

吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト

1969年12月25日福島県生まれ。1992年東北薬科大学卒業。福島県立医科大学薬理学講座助手、福島県公立岩瀬病院薬剤部、医療法人寿会で病院勤務後、現在は薬物乱用防止の啓蒙活動、心の問題などにも取り組み、コラム執筆のほか、講演、セミナーなども行っている。

吉澤恵理公式ブログ

Instagram:@medical_journalist_erie

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