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杉江弘「機長の目」

東京五輪パラ中止を主張できず感染爆発を招いた日本医師会とコロナ分科会の怠慢

文=杉江弘/航空評論家、元日本航空機長
東京五輪パラ中止を主張できず感染爆発を招いた日本医師会とコロナ分科会の怠慢の画像1
東京五輪・パラリンピック競技大会組織委員会のHPより

 東京五輪・パラリンピックは結局のところ開催したほうが良かったのか、悪かったのか。そして途中で中止という選択肢はどうであったか。オリパラ開催によって間接的にも新型コロナ感染者が増え、それに比例して死者も増えたが、我々国民はどうすべきであったか、正解を問いたい。

開催前には反対、終わってみれば多くが賛成に

 9月4、5両日に実施された共同通信の世論調査では、「開催してよかった」が五輪で69.2%、パラで69.8%で、「よくなかった」は五輪で32.8%、パラで26.3%という結果が出された。

 東京新聞も「東京大会がなければ、競技の普及も、選手強化もこれほどは進まなかった。日本でパラスポーツが発展する確実な一歩にはつながった」と評価している。しかし、開催直前の7月17、18両日で朝日新聞の世論調査では、オリパラの開催について反対が55%、賛成が33%と反対が多く、安全安心の大会には「できない」が68%と「できる」21%を圧倒していたのである。

 思うに国民は一度始まってからは医療崩壊のニュースが出てきても途中で中止をするとなると競技間で不公平になったり、選手が気の毒という気持ちと、NHKが朝から晩までメダル争いを放映するなかで自宅で出産した赤ちゃんが死亡した等の悲しいニュースが飛び込んできてもそれを一瞬で忘れ、感動に走るという構図になっていたのではなかろうか。

 立憲民主党の枝野代表ですら「途中で中止するのは現実的ではない」と開催前から発表していたのだ。菅政権はオリパラの成功によって落ち込んでいた内閣支持率を回復させ、来たる衆議院選挙での勝利を描いていたが、この世論調査の推移を見ると、その戦略は実に正しかったといえるかもしれない。

 それにもかかわらず内閣支持率がさらに下がり首相退任に追い込まれたのは、ひとえに菅首相のコロナ対策と個人的資質に国民がうんざりしていたからで、これが仮に饒舌な安倍前首相が先に紹介した世論調査の結果を前面に出して、「オリパラは政府国民の一致した力で大成功を果たした」と勝利宣言をして自民党総裁選挙の前に衆議院の解散総選挙を打って出ていたら結果も変わっていただろう。

 コロナ禍での総選挙ということもあり、以前のような自公の大勝とはならないものの、議席の減少を少なく留め、自公で過半数は確保できただろうとの目測もあながち誤りとはいえない。

医師たちが身体を張ってオリパラ中止を発信しなかった責任は重大

 新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は、国会で「五輪が人々の意識に与えた影響はある」と発言した。尾身氏は開催前から同様の主張を展開し、オリパラが人流の拡大を生み感染防止に対する意識の低下につながると訴えてはいた。

 しかし、分科会の総意としてオリパラの開催に明確に反対するという見解を出すことができずに、最後は「どうしてもやるなら無観客が望ましい」と菅政権の意向に譲歩するかたちとなった。この点については、17万2763人(2019年12月1日現在)の医師からなる日本医師会もほぼ同様の対応をとったのではないか。

 日本医師会は公益社団法人だが、開業医らが運営する利益団体としての性格を持つため「国民の皆様の健康を守ります」と言いながら、政権との利害関係も濃厚でオリパラ開催については分科会同様、政権にある程度忖度したのは明らかである。

 だが本来、医師たちはオリパラの政治的、経済的効果などへの配慮は不要で、本当に感染拡大につながると思えばオリパラの開催は国民の命を守れなくなると明確に見解を出すべきであった。尾身会長も「どうしても開催するなら会長を辞任する」となぜ言えなかったのか。私はこの1年半の医師たちの個人的な発言や組織としての動向を振り返ってみた。

 日本の医師は個々には優秀な方が多いが、組織としては大きな役割を果たせていないのではないか。それは当初から医療崩壊の可能性を指摘はしてもコロナ専門病棟の建設やPCR検査体制の完備などを国や自治体に具体的な政策提言として打ち出せなかった事実が物語っている。

 中国において10日間でコロナ専門病棟の建設というニュースに接して、それをわが国も参考にしようと真剣に検討しただろうか。「アベノマスク」の配布に際しても、「布製のマスクは効果がないので配るなら不織布マスクでないとダメ」と安倍前首相にハッキリ進言しただろうか。今なお市場には布やウレタンマスクが出回っているが、それらは飛沫や空気感染には効果が少ないので着用しないようにキャンペーンしたり、市場に出回らないように業者に金を払って回収させる等の強い対策を政府に求めるといった行動をなぜとらないのか。

今日の日本の医療の実態

 話はオリパラ開催に戻るが、本音では多くの関係者が不安を口にしていたのである。

 東京五輪・パラリンピック競技大会組織委員会の職員が「五輪と感染拡大、正直なところ『関係ない』と思っている人はいないのでは。私が心配している通りのことが起きてしまった。病院に患者さんが入れない事態までいくと思っていなかった。申し訳なさというか、自問自答する毎日」と告白していたこと。メディアでは『バイキングMORE』(フジテレビ系)の坂上忍氏がスタジオに出席する医師や専門家に繰り返し「人がさらに亡くなるのに、あえてオリパラを開催する理由を説明してほしい」と食い下がったものの、誰一人として答えられなかった事実。それらを目のあたりにして、私は本来医療の専門家として先頭に立って正論を言うべき医師たちが、自らの保身からかどうかわからないが口をつぐむ姿に今日の日本の医療の実態を見た思いである。

 医師たちの怠慢はほかにもある。今なお根強く存在するワクチン接種への不安にどう向き合ってきたのかという点だ。

 国民のなかには、今回のコロナワクチンへの不安は短期的には副反応への恐怖、中長期的には遺伝子組み換えによるワクチンの人体への影響を心配する声が少なくない。

 前者についてはワクチン接種後に急死した1000人を超える方々について解剖もせずに因果関係は不明としたり、女性でスパイクタンパク質が卵巣に蓄積して不妊の心配があることについて、田村厚労大臣が「ラットを使った実験で安全性は確認できている」と述べたが、これでは単純にデマと切り捨てられ、十分な説明とはなっていないだろう。

 後者の遺伝子組み換えワクチンの人体に与える将来的な影響については、世界の多くの科学者が深刻な懸念を表明しているが、これに関してはワクチンメーカーもわからないとしている。そしてウイルスの変異についても、mRNAワクチン技術の発見者のロバート・マローン博士が「我々のしていることは、ワクチンを回避するようにウイルスを訓練(進化)させている」と述べていることにも注目したい。

 中国が武漢でワクチンによってではなく、都市封鎖することによって全土の感染を抑え込んだ経緯を見るならば、ワクチンではなくPCR検査と隔離、それに人流の封鎖で十分対応できたものの、ワクチン接種を始めたためにどんどん変異株を生み出したことになる。インドではワクチン接種済みの人々がマスクを外して沐浴に繰り出したためにデルタ株に変異させた、という論理も指摘されている。

 このようにワクチンに対して内外でさまざまな意見や不安があることに対し、政府や医療関係団体は、これまでどのような努力をしてきたのか。国やこれらの組織は内部で議論を重ねたり、パネルディスカッション等を公開で行うという方法もあるのに何もしてこなかった。治療にあたる現場の医師をはじめとする医療従事者の努力には頭が下がるが、医師会や政府の分科会等の組織には猛省を促したい。

開催後にも中止する勇気を持て

 以前このコラムでも述べたが、オリパラ新型コロナの流行がなくても一時中断すべきだったのではないかと思っている。近年開催のオリパラは利権がらみでどこの国、都市でも財政難という事情がある。IOC(国際オリンピック委員会)は無理やりどこかに開催させるのではなく、国際社会は世界中で大きな紛争が終結し、貧困問題が解決するまでオリパラは中断し、選手たちには世界選手権で競い、メダル争いをしてもらえばいいのではないか。

 日本は「原発はアンダーコントロール」と誰しもが虚偽とわかるような説明で東京大会を誘致した政治的な思惑もあったので、コロナ禍にあっても強行するのが至上命題となっていた。だが、冒頭に述べたように、一度決めたら途中で考え直して中止するという文化も根付いていなかったことも判明した。わが国ではいったん物事が始まると途中で中止したり、引き返すことができる文化が育っていない。それは先の大戦を振り返っても明らかだ。

 戦争が始まってラジオや新聞から毎日のように大本営の「敵艦船を撃沈!」というようなニュースが流されると、同調圧力は強化され、反対の意見は非国民扱いとされた。私は長く航空業界に身を置き、機長として安全のためには着陸を中断したり、途中で引き返す勇気も必要だと自分に言い聞かせてフライトしてきた。それは日本航空(JAL)の元社長の松尾静麿氏の「臆病者と言われる勇気を持て」という社是に基づくものであった。安全は何よりも優先されなければならないが、実際にはさまざまな圧力があるのも現実である。それに打ち勝つためには温故知新の考え方に立つ以外にはないだろう。

 東京オリパラは開幕以降に新型コロナの感染拡大や医療崩壊という事実に直面したのだから、思い切って中止するという勇気が必要だったのである。

(文=杉江弘/航空評論家、元日本航空機長)

 

杉江弘/航空評論家、元日本航空機長

杉江弘/航空評論家、元日本航空機長

1946年、愛知県生まれ。1969年、慶應義塾大学法学部卒業。同年、日本航空に入社。DC-8、B747、エンブラエルE170などに乗務する。首相フライトなど政府要請による特別便の経験も多い。B747の飛行時間では世界一の1万4051(機長として1万2007)時間を記録し、2011年10月の退役までの総飛行時間(全ての機種)は2万1000時間を超える。安全推進部調査役時代には同社の重要な安全運航のポリシーの立案、推進に従事した。現在は航空問題(最近ではLCCの安全性)について解説、啓発活動を行っている。また海外での生活体験を基に日本と外国の文化の違いを解説し、日本と日本人の将来のあるべき姿などにも一石を投じている。日本エッセイスト・クラブ会員。著書多数。近著に『航空運賃の歴史と現況』(戎光祥出版)がある。
Hiroshi Sugie Official Site

Twitter:@CaptainSugie

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