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『ムショぼけ』で見せた俳優・木下ほうかのすごさと「おいしい明太子」の話【沖田臥竜コラム】

文=沖田臥竜/作家
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鳥越アズーリFM『ほうか道R』 の収録現場にて

 先日、俳優の木下ほうかさんがパーソナリティを務めるインターネットラジオに呼ばれたので、急激に寒くなってきた秋空の下、「完全に服装を間違えたな」と思いながら、収録に伺ってきた。ほうさかんは、わたしが原作を書いた現在放送中のドラマ『ムショぼけ』に出演しているという縁で、最近仲良くさせていただいている。

 ラジオ収録といえば、忘れられないのは、九州のラジオ番組に電話で生出演したときのことだ。放送自体は無難にこなし、スタッフとのやりとりもまったくもって問題がなかった。だが、問題が生じたのは放送後だ。電話越しに女性スタッフからこんなことを言われたのだ。

 「ギャランティのほうですが、本当にお気持ちだけになってしまうんですー」

 別に私はギャランティをもらうために出たわけでもなかったし、この程度の内容でもらえるとも思っていなかった。ましてや私ごときである。タレントでも俳優でもない。少し謙遜しながら、「いいですよ〜、ギャラなんて」と言っているにもかかわらず、女性スタッフが食い下がってきたのだった。

 「そういうわけにはいきません!」

 一瞬、私は叱られているのかと思った。同時に何の権限があってそこまでピシャリと言ってのけることができるのだろうかという思いが脳裏を掠めたのだが、よくよく考えると悪い話ではない。

 「では、口座番号を……」と口にしようとすると、彼女はー住所を教えてくれーと言うのである。

 確かに以前に一度、―これは書いてはダメ―といって話したネタを勝手に書いてしまった「週刊新潮」から、突然、取材協力費として現金書留で10,000円が送られてきたことがあった。今回もそのパターンかと思ったのだが、自宅住所を教えることにどこか嫌な予感を覚えた私は、たまたま居合わせた会社の若い子の住所を教えることにしたのだった。

 そして後日。彼女は期待を裏切らなかった。

 「ボス〜! 九州のラジオ放送局からギャラが届きましたっ!」

 少し興奮気味の電話の向こうの若い子。「しょうぞう」に、私はいくらか尋ねてみた。

 「明太子みたいです !!!」

 絶句した。よくもまあ、いけしゃあしゃあと、―そういうわけにはいきません!―などと、あそこまで強い口調で言い切れたものだと、言葉を失ったのである。

 そして、脳内が通常運転を再開し始めた頃には、私の口角は上がり始めていた。

 ―これはおいしい―

 明太子の話ではない。ネタになるとほくそ笑んでいたのである。

 そして数日後。私はTwitterで、そのことを投稿したのだった。するとすぐさま、九州のラジオ局のスタッフから連絡が来たのだ。

 「すんまっしぇん !!! 本当に説明不足で申し訳ありませんでしたっ!!!」

 もちろん私は本気で起こっていない。笑い話のつもりだったのだ。

 「いえいえいえいえいえいえ……こちらこそ、冗談のつもりだったんです……なんか、すいません……」

 私の人生、恐縮ばかりである。ラジオと聞くといつもこの出来事を、微笑ましく思い出すのであった。

役柄を超えてみせる役者の存在意義

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朝日放送(毎週毎週日曜よる11時55分)、テレビ神奈川(毎週火曜よる11時00分)で放送中。TVer、GYAO!にて見逃し配信あり。

 さて、木下ほうかさん演じる平松は、北村有起哉さん演じる主人公、陣内宗介の兄貴分である。ほうかさんのドラマ『ムショぼけ』に対する情熱は熱く、衣装合わせのときに、北村さんが話す関西弁を一番心配してくれたのは、他ではない、ほうかさんだった。

 そして、北村さんのセリフをすべて、ほうかさん自らが教材用にと吹き込み、それだけではまだ足りないだろうと、ほうかさん自身の人脈を使い、若手俳優のミツイコウタくんを方言指導として北村さんにつけてくれたのであった。現場ではいつも北村さんの影に、熱心に関西弁をレクチャーするミツイくんの姿があった。

 ほうかさんはクランクイン前に、私にこう言っていた。

 「先生〜、お芝居で軽く、平松という役柄を超えてみせますよ〜」

 その言葉通りだった。平松は無論、私が生み出したキャラクターだ。だから必然的に、頭の中には平松というイメージ像があった。それをほうかさんは、現場でたった二言セリフを喋った時点で、そのすべてを上回ってみせたのである。

 ―これが役柄を上回るということか………―

 あらためて、役者の存在意義を学ばされた瞬間であった。

 今、ドラマ『ムショぼけ』は、そうしたみんなの力によって、私の元から飛びたっていこうとしている。その瞬間まで、私は東に西に走り回り、大きく羽ばたいていってくれるまで、「がんばれよ!」と背中をさすってやろうと思っている。

 映画監督・藤井道人とたった2人で、五反田の居酒屋から始まった物語だ。

 ここまでやってきたのだ。関わってくれた人たちには、十分に夢も見させていただいた。それは十分すぎるほどにだ。ドラマだけでなく、小説においても、小学館の担当編集者の人を始め、今まで仕事してきた場所、出版業界の人たちが、会社や媒体を問わずに力を貸してくれている。

 小説家になろうと思い、20年が過ぎた。いつか本を出せたら、いつか売れたら、いつか映画になったら……いつか自分が書いた小説が話題になったらいいなと、ただそれだけを思ってきた20年だった。物を書くというのは地道な作業で、楽しいなんてことはまずない。当たり前である。それが仕事というものだ。書くことが苦しくて、何度もペンを折ろう、何度もペンを折ろうと考えながら、やってきた20年だったようにも思う。

 『ムショぼけ』には、どうせなら、高く大きく、もう私からは見えなくなるくらいに羽ばたいていってほしい。

 てっいうか、私は確かラジオの話をしていなかったか……すまんすまんである。

(文=沖田臥竜/作家)

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●沖田臥竜(おきた・がりょう)
2014年、アウトローだった自らの経験をもとに物書きとして活動を始め、小説やノンフィクションなど多数の作品を発表。最新小説『ムショぼけ』(小学館)を原作にした同名ドラマが現在放送中(ドラマ『ムショぼけ』朝日放送、テレビ神奈川)。調査やコンサルティングを行う企業の経営者の顔を持つ。

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