
オウム真理教の後継団体「Aleph(アレフ)」が、団体規制法で義務づけられた、活動実態に関する報告をしていないとして、公安調査庁は同法に基づく再発防止処分を公安審査会に請求した。この問題は、そもそもアレフが被害者に約束した賠償の支払いを渋っていることが発端。教祖など重大事件に関わった幹部らは3年前に死刑が執行され、今月で坂本弁護士一家殺害事件から32年が過ぎたが、被害者はいまだに賠償のすべてを受け取れてはおらず、オウム事件はいまだに終結できずにいる。
賠償金も支払わず、確定判決にも従わないアレフ
事件被害者からの申し立てを受け、東京地裁がオウム真理教の破産宣告を行ったのは、地下鉄サリン事件から1年が過ぎた1996年3月。被害者・遺族が届け出た債務は約38億2200万円に上った。少しでも多く被害者に配当できるよう、破産管財人の阿部三郎弁護士(故人)らは教団の資産を調査すると共に、国会議員らに働きかけ、国の債権を事実上放棄させる特例法を成立させた。破産手続を通して、最終的に被害者に総額約15億5000万円が配当された。
しかし、これでは被害者への賠償は不十分だ。阿部管財人はアレフに働きかけ、2000年にオウムの破産に伴う残りの債務(その時点で約40億円)をすべてアレフが引き継ぐことで合意が成立した。その代わりに、パソコンショップなど教団の経済事業を管財人は「黙認」することとした。この時点で、アレフは支払いの義務を負った、といえる。
破産手続が終結した2009年の時点での残債は約22億7200万円。破産裁判所の許可を得て、阿部管財人から「オウム真理教犯罪被害者支援機構」(宇都宮健児理事長)に引き継がれた。同機構は、アレフと分裂した「ひかりの輪」と交渉し、ひかりの輪とは支払いに関する合意ができた。しかしアレフとは協議が進まず、同機構は2012年3月、東京簡裁に調停を申し立てた。
ところが、この調停でも、アレフは「(同機構の)会計処理が不透明」「(同機構と)信頼関係がない」などと述べて、支払いには後ろ向きの姿勢を続けた。結局、分割払いとする裁判所の決定にアレフが異議を申し立てたため、調停は不調に終わった。同機構副理事長の中村裕二弁護士は、「(調停を行っている)5年10カ月もの間、教団は『払う』『払う』と言って引き延ばし続け、最終的に裁判所が解決策として示した決定を蹴った」と言う。
アレフ側は2017年11月までに、元管財人が運営していた「サリン事件等共助基金」に約3億5000万円を送金したが、その後、支払いは滞っている。
そこで同機構は、2018年2月にアレフに対し、約10億5000万円の支払いを求め、東京地裁に提訴。翌2019年4月には全額の支払いを命じる判決が出た。教団は判決を不服として上訴したが、東京高裁、最高裁もその主張を退け、この判決は確定した。しかし、今なお教団はこの判決に従っていない。
今なお教団側との戦いを強いられる被害者たち
支援機構は、2020年1月に強制執行を申し立てたが、差し押さえできたのは、教団の北越谷施設に保管されていたアレフ所有の現金約3000万円のみだった。
そのため、支援機構は強制執行が可能な資産情報を得る必要があるとして、東京弁護士会に弁護士法に基づいた照会を公安調査庁に行うよう申し立てた。同弁護士会はこれを適法と認めて、照会を行った。
アレフは団体規制法に基づいて、幹部や構成員の氏名、収益事業の概要などほか、現金預貯金や不動産などの資産の報告も義務づけられている。公安調査庁は弁護士会の照会に対し、銀行口座情報を開示した。
支援機構は2020年5月、この情報に基づいて、東京地裁に銀行口座差し押さえの申し立てを行った。裁判所の手続きに時間がかかり、今年2月になってようやく金融機関に差し押さえ・転付命令が出されたが、わずか1000万円ほどしか回収できなかった。
「これでは、年5000万円の遅延損害金にも満たない。教団は、支払いを免れようと、不動産は名義を替え、現金を巧みに隠して、資産隠しをしている」と中村弁護士は憤る。