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江川紹子の「事件ウオッチ」第191回

江川紹子が懸念するオウム事件のその後…活動実態を伏せ賠償責任から逃げるアレフの現在

文=江川紹子/ジャーナリスト
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教祖ら幹部の死刑は執行されたが、事件の被害者は今なお教団側との戦いを強いられている……。(写真はGetty Images)

 オウム真理教の後継団体「Aleph(アレフ)」が、団体規制法で義務づけられた、活動実態に関する報告をしていないとして、公安調査庁は同法に基づく再発防止処分を公安審査会に請求した。この問題は、そもそもアレフが被害者に約束した賠償の支払いを渋っていることが発端。教祖など重大事件に関わった幹部らは3年前に死刑が執行され、今月で坂本弁護士一家殺害事件から32年が過ぎたが、被害者はいまだに賠償のすべてを受け取れてはおらず、オウム事件はいまだに終結できずにいる。

賠償金も支払わず、確定判決にも従わないアレフ

 事件被害者からの申し立てを受け、東京地裁がオウム真理教の破産宣告を行ったのは、地下鉄サリン事件から1年が過ぎた1996年3月。被害者・遺族が届け出た債務は約38億2200万円に上った。少しでも多く被害者に配当できるよう、破産管財人の阿部三郎弁護士(故人)らは教団の資産を調査すると共に、国会議員らに働きかけ、国の債権を事実上放棄させる特例法を成立させた。破産手続を通して、最終的に被害者に総額約15億5000万円が配当された。

 しかし、これでは被害者への賠償は不十分だ。阿部管財人はアレフに働きかけ、2000年にオウムの破産に伴う残りの債務(その時点で約40億円)をすべてアレフが引き継ぐことで合意が成立した。その代わりに、パソコンショップなど教団の経済事業を管財人は「黙認」することとした。この時点で、アレフは支払いの義務を負った、といえる。

 破産手続が終結した2009年の時点での残債は約22億7200万円。破産裁判所の許可を得て、阿部管財人から「オウム真理教犯罪被害者支援機構」(宇都宮健児理事長)に引き継がれた。同機構は、アレフと分裂した「ひかりの輪」と交渉し、ひかりの輪とは支払いに関する合意ができた。しかしアレフとは協議が進まず、同機構は2012年3月、東京簡裁に調停を申し立てた。

 ところが、この調停でも、アレフは「(同機構の)会計処理が不透明」「(同機構と)信頼関係がない」などと述べて、支払いには後ろ向きの姿勢を続けた。結局、分割払いとする裁判所の決定にアレフが異議を申し立てたため、調停は不調に終わった。同機構副理事長の中村裕二弁護士は、「(調停を行っている)5年10カ月もの間、教団は『払う』『払う』と言って引き延ばし続け、最終的に裁判所が解決策として示した決定を蹴った」と言う。

 アレフ側は2017年11月までに、元管財人が運営していた「サリン事件等共助基金」に約3億5000万円を送金したが、その後、支払いは滞っている。

 そこで同機構は、2018年2月にアレフに対し、約10億5000万円の支払いを求め、東京地裁に提訴。翌2019年4月には全額の支払いを命じる判決が出た。教団は判決を不服として上訴したが、東京高裁、最高裁もその主張を退け、この判決は確定した。しかし、今なお教団はこの判決に従っていない。

今なお教団側との戦いを強いられる被害者たち

 支援機構は、2020年1月に強制執行を申し立てたが、差し押さえできたのは、教団の北越谷施設に保管されていたアレフ所有の現金約3000万円のみだった。

 そのため、支援機構は強制執行が可能な資産情報を得る必要があるとして、東京弁護士会に弁護士法に基づいた照会を公安調査庁に行うよう申し立てた。同弁護士会はこれを適法と認めて、照会を行った。

 アレフは団体規制法に基づいて、幹部や構成員の氏名、収益事業の概要などほか、現金預貯金や不動産などの資産の報告も義務づけられている。公安調査庁は弁護士会の照会に対し、銀行口座情報を開示した。

 支援機構は2020年5月、この情報に基づいて、東京地裁に銀行口座差し押さえの申し立てを行った。裁判所の手続きに時間がかかり、今年2月になってようやく金融機関に差し押さえ・転付命令が出されたが、わずか1000万円ほどしか回収できなかった。

「これでは、年5000万円の遅延損害金にも満たない。教団は、支払いを免れようと、不動産は名義を替え、現金を巧みに隠して、資産隠しをしている」と中村弁護士は憤る。

 実際、アレフが公安調査庁に報告した資産は、支援機構が起こした裁判の東京地裁判決が出る前に、激減している。判決前の2019年1月には12億9000万円だったものが、判決後の翌2020年1月の報告は約5億5000万円と前年の約4割だ。敗訴するのを見越して、不動産を名義替えしたり預貯金を現金化するなどして、差し押さえられるのを免れようとしているのではないか。

 さらにアレフは、公安調査庁が弁護士照会に応じて銀行口座情報を開示したのは違法などとして、今年3月と5月に行うべき報告を拒否した。同庁は9回にわたって是正指導を行ったが、教団側は応じなかった。そこで、公安調査庁は初めての再発防止処分請求に踏み切った。

 公安審査委員会は30日以内に判断をする。処分が決まれば、6カ月の間、居住用以外の拠点施設の使用や信徒勧誘、お布施など財産上の利益を受けることができなくなる。

 アレフは、教団本体とは別の広報部のホームページに今年も、地下鉄サリン事件があった3月20日の前日、「被害者の方々に対する補償については、これからも継続していく所存です」などとする文言を掲載した。しかし、実際にはそうした誠意はまったく見られない。

 被害者側は、今も教団側の資産隠しとの戦いを強いられている。しかも、事件から時間が経ち、関係者の高齢化は進み、時間との戦いもある。

「あらゆる法的手段を駆使して、賠償を支払わせるようにしたい」と、中村弁護士は言うが、困難を強いられている。

 賠償金支払いの約束を守らない。法律による報告義務に応じない。そして何より、最高裁で確定した判決に従わない。社会のルールを無視し、自分たちの利益や流儀を優先させるアレフの「カルト性」は深刻だ。賠償に応じる姿勢を見せていた一時期より、最近のアレフはカルト性がさらに高まっている、ともいえる。

 このままだと、団体規制法の強化も検討しなければならないかもしれない。

(文=江川紹子/ジャーナリスト)

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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