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北朝鮮・金総書記、父と祖父の銅像撤去を開始…金日成と同じ称号「首領」使用へ

取材・文=相馬勝/ジャーナリスト
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北朝鮮・平壌(「gettyimages」より)

 マルクス・レーニン以来、これまでの世界の共産主義社会でも唯一、最高指導者の世襲制をとっている北朝鮮で、3代目の金正恩朝鮮労働党総書記が、創始者の金日成主席や2代目の金正日総書記の銅像や絵画などのシンボルを街なかから撤去し始めていることが明らかになった。

 また、金正恩氏は金正日総書記があえて侵さなかったタブーともいえる金日成主席の称号「首領」を冠し、「金正恩主義」を浸透させようとしていることも判明した。これは金正恩氏が初代と2代の「遺訓統治」から脱却し、21世紀の北朝鮮の最高指導者として自らの権威を高め、権力基盤固めに入っていることを示しているようだ。

金ロイヤルファミリーへの人格崇拝

 北朝鮮の金ロイヤルファミリーを取り巻く人格崇拝は、50年以上にわたって北朝鮮の社会や文化を支配してきた。北朝鮮には、金正恩氏の祖父である金日成氏(1948~94年まで統治)と、父である金正日氏(94年から死去した2011年まで統治)の記念碑が数多く存在する。

 共産主義世界で唯一の世襲指導者であり、神のような地位を得ていた2人の肖像は、あらゆる建物や家の壁に飾られており、彼らの革命的な功績を描いた壮大な壁画は、人口2500万人の国のほぼすべての主要な町や都市で見ることができる。2人が数時間だけ訪れた場所でさえ、今の日を記念した碑やミニ博物館が建設されている。

 ところが、首都・平壌の風光明媚な一等地にある普通(ポトン)江を望む高台の一角の、かつての金日成一家の豪華な邸宅が建設されていた跡地に、金正恩氏の命令で幹部用の大型高級マンションが建設されている。かつての邸宅は1950~53年の朝鮮戦争で破壊された後に再建され、金日成氏らが50年代から77年に錦繍山(クムスサン)太陽宮殿に移るまで20年以上もの間、住んでいたもので、韓国の聯合ニュースによると、2009年に破壊された後、新しい高級マンションの建設が始まるまで、この場所は空き地になっていたという。

 ある住民は米政府系報道機関「ラジオ・フリー・アジア(RFA)」の取材に対して、次のように語っている。

「多くの人々は、なぜ金日成主席の長年の住居を高級住宅地に変えようとしているのか理解できない。私の知る限り、この邸宅は金日成氏がもっとも長く住んでいた場所で、北朝鮮の歴史的にも非常に重要な場所だ。それだけに、多くの住民は『いずれ博物館でも建つのではないか』と言っていたのだが、それが高級マンションだとは想像もつかなかった。この歴史的な場所にマンションを建てることが重要なのかどうか、本当に疑問だ」

 また、ある情報筋はRFAに「建国者の旧居の上に建設されている住宅開発は、金正恩氏が祖父の重要性を軽視している数多くの例のひとつにすぎない」と憤りを隠していない。この情報筋によると、金正恩氏が建設を指示した平壌の新しい総合病院も同様の批判を受けている。巨大な構造物が、革命の地である万寿台の丘と労働党創立記念碑の間の見通しを妨げているからだ。万寿台の丘には、金日成氏と金正恩氏の20メートルの銅像があり、太東江を挟んで対岸の万寿台の丘から見えるように、金槌、鎌、筆などの像が建てられている。この情報筋は「景色の真ん中に病院が建ってしまったので、平壌の景色は意味がなくなってしまった」と語っている。

 さらに、金一族の名前を冠した建物が、意味不明のまま改名された例もある。金亨稷氏は金日成氏の父親であり、金春秋氏は1910年から45年まで朝鮮半島を植民地化していた日本と戦ったゲリラで後に北朝鮮の副大統領になった人物だが、かつての「金亨稷軍医大学」が、今は「金春秋陸軍医科大学」と改名されている。

 このほか、金日成氏の叔父である金亨権と弟の金哲柱の名前を冠した研究所も同様に改名されたものの、建国者とその最初の妻である金正淑の名前を冠した研究所は変更されていない。金正恩氏もさすがに祖母の名前は消しがたいのだろうか。ただ、現存する「金亨稷師範大学」や「金哲柱師範大学」「金輔鉉大学(金日成の祖父にちなんだ名前)」の改名も間近かもしれないとRFAは報じている。

 また、同筋は「数年前、万寿台創作社の正門の看板に描かれていた『3大将軍』の肖像画まで消えてしまい、多くの人が困惑していた」と語っている。「3大将軍」とはゲリラ時代の金日成氏とその妻、さらに金正日氏の子供時代の3人を指すという。これとは別に、朝鮮労働党本部の会議場から金日成・金正日両氏の写真が撤去されていることも確認されている。

絶対的な権力固め

 RFAはこのような変化について、「最高指導者の許可なしに、これらの陸軍士官学校などから指導者一族の名前を削ったり、党の会議場から肖像画を運び去ることは絶対に不可能である。非常にゆっくりと、しかし巧みに先代と先々代の痕跡を消し去っている。孫は通常、父や祖父を忘れたくないと思い、その遺産をしっかりと育てようとするのが普通だが、今行われていることは本当に驚きであり、不思議なことだ」との市民の話を伝えている。

 その一方で、北朝鮮の複数の国営メディアが10月、金正恩氏に「首領」という称号をつけて報じていたことや、「金正恩主義」という言葉を初めて使っていたこともわかっている。22日付の労働新聞の論説では金正恩氏に「首領」という言葉が3回使われている。「革命の傑出した首領であられ、人民の偉大な親であられる敬愛する金正恩同志」「またもうひとりの偉大な首領」「敬愛する総書記同志を革命の偉大な首領に」などだ。北朝鮮で「首領」といえば、金日成氏だけに許された称号であり、金正日氏も存命中は使っていない。その死後、ようやく「先代の首領」という称号が付けられたほどだ。

 これについて韓国の情報機関である国家情報院は、権力掌握から10年を迎えた金正恩氏が統治への自信から自らを祖父と同じ地位に「自分で」引き上げ、自ら金日成主席と同列に並び、絶対的な権力固めに入ったと分析している。

(取材・文=相馬勝/ジャーナリスト)

相馬勝/ジャーナリスト

相馬勝/ジャーナリスト

1956年、青森県生まれ。東京外国語大学中国学科卒業。産経新聞外信部記者、次長、香港支局長、米ジョージワシントン大学東アジア研究所でフルブライト研究員、米ハーバード大学でニーマン特別ジャーナリズム研究員を経て、2010年6月末で産経新聞社を退社し現在ジャーナリスト。著書は「中国共産党に消された人々」(小学館刊=小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞作品)、「中国軍300万人次の戦争」(講談社)、「ハーバード大学で日本はこう教えられている」(新潮社刊)、「習近平の『反日計画』―中国『機密文書』に記された危険な野望」(小学館刊)など多数。

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