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田中圭太郎「現場からの視点」

自国開催の東京パラリンピック関連テレビ放送、なぜリオ大会より減少したのか?

文=田中圭太郎/ジャーナリスト
東京パラリンピック
東京パラリンピック(筆者撮影)

 東京パラリンピックのテレビでの放送時間が過去大会とどう変わったのかを調査した、ヤマハ発動機スポーツ振興財団の「テレビメディアによる障害者スポーツ情報発信環境調査」の結果が、12月17日に明らかになった。

 この調査は2008年の北京大会以降、パラリンピックが開催された年に実施されている。夏季大会で比較すると、2016年のリオ大会は2013年に東京2020パラリンピックの開催が決まったこともあり、それまでの大会に比べるとテレビの放送時間は激増した。自国開催の東京大会では、放送時間はさらに増えるだろうと予想された。しかし、実際にはわずかに減少する結果に終わったことが分かった。特に、開催後の放送時間はリオ大会よりも大幅に減少している。

 コロナ禍の無観客開催だったこともあり、パラリンピックの選手の活躍や、大会の意義を知るにはメディアの力が不可欠だったが、関係者にとっては残念な結果となった。しかも、大会開催中と開催後の社会情勢を振り返ってみると、パラリンピックの放送時間が減少した大きな要因が国内の政局だった可能性がある。調査結果について考えてみたい。

自国開催なのにリオ大会を下回った放送時間

 同調査は、2008年の北京大会以降、パラリンピックの開催にあわせて実施されている。マスメディアでのパラスポーツの露出状況を把握し、その影響度やパラスポーツの社会的認知度を図ることが目的だ。

 調査の方法は、パラリンピックの競技を伝える放送だけでなく、情報番組やニュース番組なども含めたパラスポーツ関連の放送時間を、東京都内の地上波デジタル放送のデータから抽出。パラリンピック開催1カ月前からと、開催中、それに開催1カ月後までの期間でそれぞれ集計した。全体の放送時間を過去の夏季大会と比較したものが、次の図になる。

自国開催の東京パラリンピック関連テレビ放送、なぜリオ大会より減少したのか?の画像1
(図1)ヤマハ発動機スポーツ振興財団「テレビメディアによる障害者スポーツ情報発信環境調査」資料より

 対象となったのは、NHK総合、NHK教育、日本テレビ、TBS、フジテレビ、テレビ朝日、テレビ東京での放送。前提として、北京大会や2012年のロンドン大会に比べると、2016年のリオ大会は放送時間が飛躍的に増加していた。これは、東京2020オリンピック・パラリンピックの開催が、2013年に決定したことが背景にある。すべての期間で放送時間が増加していた。

 東京大会は自国開催であることや、時差がないことを考えれば、リオ大会よりも放送時間が増えることが予想された。ところが、各チャンネルを合わせた開催1カ月前から開催1カ月後までの放送時間は230時間47分9秒。リオ大会の234時間36分59秒を下回ったのだ。

開催後の放送時間がリオ大会よりも激減

 東京パラリンピックNHKが放送権を持っていて、民放各局も一部の競技を生中継した。その結果、競技の生中継はパラリンピックでは史上最も長い時間放送された。ゴールデンタイムで生中継されたのも初めてだった。

 では、なぜパラスポーツ関連の放送時間が、全体ではリオ大会より減少してしまったのだろうか。その分析のためには、放送時間を開催前1カ月間、開催中、開催後1カ月に分けて見る必要がある。

自国開催の東京パラリンピック関連テレビ放送、なぜリオ大会より減少したのか?の画像2
(図2)ヤマハ発動機スポーツ振興財団「テレビメディアによる障害者スポーツ情報発信環境調査」資料より

 開催前1カ月の期間では、東京大会の放送時間はリオ大会よりも約8時間40分増えてわずかに上回った。さらに、開催中の放送時間については、倍近くに増加している。生中継の増加や、日本選手団の活躍もあって、大幅に増えたと言えるだろう。

 唯一減少していたのは、開催後の放送時間だった。しかも、リオ大会に比べると放送時間は約3分の1近くにまで大幅に減っている。リオ大会では日本選手団の金メダルはゼロだったが、東京大会では13個を獲得。金・銀・銅を合わせたメダル数も、リオ大会の24個の倍以上となる51個に増加した。本来であれば、開催後も活躍した選手の情報番組やニュース、バラエティ番組などでの露出が増えるのではと考えられるが、そうはならなかった。

開催後の放送時間の少なさは「政局」の影響か

 同財団は「今回の調査結果は速報値」と話していて、さらに分析を進め、22年3月末までに詳細な調査結果を公表することにしている。また、3月に開催される冬季パラリンピックの北京大会についても、同じ調査を実施する予定だ。

 開催後の放送が少なかったことに関しては、コロナ禍であることや、放送権の問題など、いくつかの要因が考えられる。しかし、筆者が大きな要因として指摘したいのは、政局の影響だ。おそらくパラスポーツ関係者の中にも、同じように感じた人がいるのではないだろうか。

 東京パラリンピックは8月24日から9月5日まで開催された。大会直前にはすでに、衆議院の任期が10月21日に満了することを踏まえて、当時の菅首相が解散総選挙や自民党総裁選、党役員人事などをどうするのかについて盛んに報じられていた。

 それが、8月31日から9月1日にかけて、菅首相が9月中旬の衆議院解散を選択肢として持っていると報じられたことで政治報道は過熱。結局、解散は見送られ、9月3日に菅首相は退陣に追い込まれた。退陣表明を受けて9月17日に自民党総裁選が告示され、29日の投開票で岸田新総裁が選出され、岸田首相が誕生した。

 パラリンピック開催中から開催後1カ月は、情報番組も、ニュースも、自民党総裁選に多くの時間が割かれていたのは間違いない。今回の調査結果に大きな影響を与えていると考えるのが自然だろう。

パラリンピックに触れる最大の機会がテレビだった

 パラリンピックを開催する意義は、各選手が金メダルを目指すことだけではない。様々な障害のあるアスリートが創意工夫を凝らして自分の限界に挑む。その姿を通して、世の中に存在するバリアを減らしていくことや、障害があることをマイナスではなくポジティブにとらえる必要性を、観ている人に気付いてもらう。その結果、よりよい社会をつくるための変革を起こすことも大きな意義だ。

 コロナ禍で開催された東京2020パラリンピックは、オリンピックと同様に無観客で開催されたことで、テレビが大きな役割を果たしたことは間違いない。前述した通り、史上最も長い時間にわたって生中継された。初めてパラリンピックの競技をテレビで観て、選手の高い能力に感動し、スポーツとしての魅力を知ったという人も多かったのではないだろうか。

 テレビ局の伝え方にも変化があった。以前であれば、選手には身体的・社会的ハンディがあるといったストーリーを中心にした伝え方が多かった。それが今回は、選手のアスリート性にフォーカスした放送内容に変化しているという指摘がある。この変化は、多くの選手が望んでいたことでもあった。日本国内で今後さらにパラスポーツの認知度があがることにつながるだろう。

 一方で、コロナ禍で選手と交流するイベントは開催されず、各国の選手団を受け入れるホストタウンとなった自治体も思うような交流ができなかった。パラリンピックに触れる手段として最も大きなメディアがテレビだっただけに、放送時間の減少は残念だ。

 開催都市である東京都の小池知事をはじめ、オリンピック・パラリンピックに関わった政治家は「パラリンピックの成功なくして東京大会の成功はない」と繰り返し発言していた。東京パラリンピックの開催直前には、当時の菅総理はパラリンピックの有観客開催に強い意欲を見せていた。

 しかし、仕方がないこととはいえ、結果的には多くの人にパラリンピックの意義を知ってもらう機会は失われた。放送時間の減少に政局がどれほど影響を与えたのかについて、今後の調査を注視したい。

(文=田中圭太郎/ジャーナリスト)

田中圭太郎/ジャーナリスト

田中圭太郎/ジャーナリスト

ジャーナリスト、ライター。1973年生まれ。大分県出身、東京都在住。97年、早稲田大学第一文学部東洋哲学専修卒。大分放送を経て2016年からフリーランスとして独立。警察不祥事、労働問題、教育、政治、経済、パラリンピック、大相撲など幅広いテーマで執筆。著書に『ルポ 大学崩壊』(ちくま新書・2023年2月9日発売)、『パラリンピックと日本 知られざる60年史』(集英社)。メールアドレスは keitarotanaka3000-news@yahoo co.jp、 HPはジャーナリスト 田中圭太郎のWEBサイト

Twitter:@k_taro_tanaka

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