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中国、驚愕の監視社会の実態…北京五輪で各国選手のSNS投稿・通話も監視か

構成=大野和基/ジャーナリスト
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中国、驚愕の監視社会の実態
驚異的な監視社会となった中国(「Getty Images」より)

 2月4日に開会する北京2022オリンピック競技大会。その出場選手やメディア関係者向けのスマートフォン用健康管理アプリ「MY2022」に、セキュリティー上の欠陥があるとカナダの研究者らが発表し、世界中で物議を醸している。

 このアプリは北京オリンピック組織委員会が、主に大会期間中に選手間の新型コロナウイルス関連の医療情報を追跡・共有する目的で作製したものだが、トロント大学の学際的研究室「シチズン・ラボ」の研究者らによると、「MY2022」は個人データを送る際に適切に暗号化しておらず、脆弱な状態だと公表。

 これに対し国際オリンピック委員会(IOC)は、第三者機関による検証の結果、「重大な脆弱性は見つからなかった」と説明し、「MY2022の携帯電話へのインストールは義務ではない」とした。だが中国政府は、すべての外国人に対し、中国に向けて出発する14日前に「MY2022」をダウンロードし、体調などを毎日記録することを求めている。そのため、中国政府が外国人の情報を収集して監視しようとしているのではないかとの懸念が高まっている。

 そんななか、中国のAIを用いた驚愕の監視社会の実態を暴いた書籍『AI監獄ウイグル』(新潮社)が1月14日に発売され、大きな話題を呼んでいる。著者で、米調査報道ジャーナリストのジェフリー・ケイン氏に、中国当局の厳しい監視の模様を、ジャーナリストの大野和基氏が取材した。

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ジェフリー・ケイン氏(撮影:Chale Chala)

外国人ジャーナリストは当局の監視下に

――2017年にバックパッカーを装って新疆ウイグル自治区へ取材に訪れたとき、何気なく写真を撮ったあなたが突然、警察に囲まれた話が出てきますが、詳しく教えてください。

ジェフリー・ケイン氏(以下、ケイン) 写真を撮った瞬間、私は4人の警官に囲まれて、少しの間拘束されました。新疆ウイグル自治区ではこれはノーマルのことです。特に中国西部ではノーマルです。また、もしあなたが外国人のジャーナリストであれば、中国の多くの地域でもノーマルです。この件で私がショックを受けたのは、その警官たちが突然、姿を現したことです。彼らが私を長い間監視していたことは、非常に明白です。

 この経験は、私に限ったことではありません。私は、追尾されて嫌がらせをされた多くの特派員を知っています。ホテルに泊まっていて、朝起きたら突然、警官らが現れて、「なぜここに泊まっているのか」「何をしているのか」と尋問された人もたくさん知っています。

 それでも、我々ジャーナリストにとって地元の人ほどひどくありません。新疆ウイグル自治区の地元の人にとっては“テクノロジカル・ディストピア(暗黒郷)”です。ありとあらゆる面が監視されています。

――もし私が観光客やジャーナリストとして中国に入って、興味のある光景をカメラで撮影し始めると、あなたと同じような目に遭うと思いますか?

ケイン 場所によりますが、同じ目に遭うでしょうね。北京の中心街であれば大丈夫でしょうが、新疆ウイグル自治区やチベット、北朝鮮との国境、モンゴルの内部など、首都から離れたところであれば、かなり嫌な目に遭うでしょう。

 私の知人で、最近中国を旅行した多くの人が同じ目に遭っています。以前は外国人の観光客にはもっとオープンでした。北朝鮮の国境近くでリサーチをしている友人がいますが、彼と同僚は丹東に行っただけで丸一日拘束されたと言っていました。北京にすぐ戻るように言われたのです。

中国の「予測的取り締まり」、AIが逮捕を判断?

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ジェフリー・ケイン氏(撮影:Marion Ettlinger)

――監視は中国に入った瞬間から始まるのでしょうか。

ケイン 正確にはわかりませんが、私のリサーチによれば、もしあなたがジャーナリストやビジネスパーソン、政府関連の仕事をしていれば、入国した瞬間から監視されます。監視している人は自分のことを明かしません。

 中国を訪問する人は、そこまで厳しくないと思い込んでいることが多いですが、投資家や半導体などセンシティブな仕事に関係していれば、あなたが持っている知的財産や半導体チャートを盗まれる確率は非常に高いでしょう。

 私が知っている多くのビジネスパーソンは、自分たちが監視されていることに気づいていません。自分の周囲にいる人が政府に報告し、知らないうちに企業秘密が盗まれています。

――predictive policing(予測的取り締まり)とは何ですか?

ケイン これは中国だけではなく、今は世界中で使われています。ビッグデータとAIを組み合わせて、将来起きそうな犯罪を予測します。アメリカでは、警察が近隣地区でどういう犯罪が起きやすいかを予測します。どこをパトロールしたらいいか、それによってわかります。犯罪が起こりそうなところや通りが予測できます。

 しかし、中国での予測的取り締まりは異なります。中国では、その個人の今までの人生のデータに基づいて、その人がどういう犯罪をやる可能性があるかを予測します。その人のDNA、バイオメトリクス(生体認証、顔、指紋、目の虹彩などで個人を見分ける技術)、普段の生活パターンから計算された、その人にとってのノーマルな状況から判断します。普段とは違った時間に動くと、AIが疑わしいと判断します。これは新疆ウイグル自治区では、どの個人にも適用されています。AIの判断によって、その個人を収容所に入れるかどうかも判断されます。

 アメリカでは、「将来、罪を犯しそうである」という理由で人を拘束することはできませんが、中国ではいかなる理由でも拘束することができます。このディストピアは村上春樹の小説に出てきそうな感じで、まるでSF小説と同じです。

――本書にはIntegrated Joint Operations Platform(IJOP:一体化統合作戦プラットフォーム)や、Sky Net surveillance database(スカイネット監視データベース)を使われることが出ていますね。

ケイン 私が本書(英語のオリジナル版)を出したのは昨年の6月ですが、それは2016年から2019年に起きたことです。ですから今の監視技術は、そのときのものよりももっと精巧になっています。監視の量、激しさも、そのときよりもはるかに高くなっています。Sky Netはひとつのシステムではなく、いろいろなシステムが統合されたグループのシステムです。最近読んだ統計では、中国政府は新疆ウイグル自治区で、どの1平方メートルに入る人も、カメラがとらえているということです。IJOPは個人が所有する車、個人の健康状態、家族計画、銀行取引なども記録しています。

「MY2022」アプリで外国人を監視?

――さて、トロント大学のシチズンズ・ラボが脆弱性を指摘した「MY2022」アプリは、北京オリンピックに出場する選手とメディア関係者はスマホにダウンロードしないといけませんが、それで個人情報がすべて盗まれ、監視されると言っていますね。

ケイン 今使われているこのようなテクノロジーの多くは、もともと新疆ウイグル自治区で実験されたものです。中国政府は、まずそこで実験をします。これを今オリンピックで使うことには何の驚きもありません。オリンピックや将来のオリンピックで起きることはぞっとします。どんな選手でも中国政府に少しでも批判的なことをSNSなどに投稿すると、試合中でも拘束されたり、逮捕されたり、追放される可能性があります。ここ数年、我々が目の当たりにしたことは、外国人に対する監視のやり方は、地元の人に対する監視のやり方を同じであるという、新しいトレンドです。

 以前は、もしあなたが中国を訪問している外国人であればセーフ、つまり拘束したりはしませんでしたが、外国人やオリンピック選手であっても、少しでも中国政府に批判的なことを言ったり投稿すると、脅威にさらされるということです。これがオリンピックについての大きな懸念です。最近、中国・湖南省出身の女子プロテニス選手である彭帥がしばらく姿を消しましたが、それと似たようなことがオリンピック選手に起こるかもしれないということです。

――中国政府はこの「MY2022」で、選手から健康状態に関する情報も収集しているのでしょうか。

ケイン それが大きな割合を占めていますね。このアプリをリバースエンジニア(分解したり、製品の動作を観察したり、ソフトウェアの動作を解析するなどして製品の構造を分析し、そこから製造方法や動作原理、設計図などの仕様やソースコードなどを調査すること)した人がいますが、それがスパイウェアであることがわかったのです。

 そのアプリが入っているスマホでの会話も盗聴することができます。ですから、SNSに投稿しなくても、中国政府に批判的なことを会話してもばれるということです。このアプリを選手にダウンロードさせるということは、中国政府は新疆ウイグル自治区にいる人に対して行っている監視と同じレベルの監視を選手に対しても行うということです。

――つまり、選手は会話であろうとSNS投稿であろうと、すべてが監視されているという前提に立ったほうがいいということですね。

ケイン そうです。選手はハッキングされているということを前提にするべきです。特に、有名な選手はよりリスクが高いと思います。選手だけではなく、中国に旅行する人は誰でも、自分が使っているスマホ、PCなど、すべてのエレクトロニクスはハッキングされて監視されていると思ったほうがいい。

 私はこの本を出したので、もう中国には行けません。もし今中国に行けば、拘束されます。中国政府からそのようなことを言われたことはありませんが、私が中国に行くと拘束されるでしょう。

 以前、私が中国にいたときは、私はバーナーフォン(使い捨ての、契約不用のプリペイドの携帯。CIAが海外で使っている携帯電話)を使い、使い終わるとゴミ箱に捨てていました。私はジャーナリストなので、中国では私のエレクトロニクスはすべて監視されます。だからバーナーフォンを使うしかありませんでした。

 私の知人にカナダ人のマイケル・スパヴァ氏がいますが、彼はほぼ3年間、刑務所に入れられました。最近釈放されましたが、私は彼とは昔からの知人です。

 彼が逮捕されたのは、カナダが孟晩舟を逮捕したことに対して、中国が憤慨しているときでした(ちなみに、孟晩舟は中国の実業家で、父親の任正非が設立した華為技術有限公司の副会長。2018年12月1日、アメリカの要請により、対イラン経済制裁に違反して金融機関を不正操作した容疑で逮捕された)。

 今、中国では誰もが安全と感じられないことが大問題なのです。安全ではないと感じたときに、私は中国を出ました。中国でジャーナリズムを行うことは非常に難しくなっています。

――選手が中国に入国するときには「MY2022」をダウンロードしないといけませんが、それ自体が抑止力になるということでしょうか。中国が欲さない政治的なことを口にしないようにするとか。

ケイン そう思います。選手はダウンロードすることが義務ですから、中国政府に批判的なことを一切口にしない、投稿しないという抑止力になります。

 アメリカでは以前、オリンピックのときにアメリカのイラク侵攻を批判した選手がいました。つまり、オリンピックには常にそういう政治的な要素がついて回ります。オリンピックが日本やアメリカやドイツで行われ、そこで政治的な発言をしても拘束されたり、逮捕されたりすることはありません。

――一旦拘束されると、どれくらいの期間拘束されるかわからないのですか?

ケイン それが問題です。新疆ウイグル自治区の場合、最初に「2年間拘束する」と言われ、それがどんどん長くなっていきます。私がインタビューした自治区の人は、家族が1年間拘束されると伝えられましたが、それが3年に延び、今は6年にまで延びています。

 それと同じことが外国人にも起きています。マイケル・スパヴァ氏の場合、拘束されたとき最初は何の容疑で拘束されたかも明白ではありませんでした。裁判抜きで何年も拘束されました。中国には国家安全法と国家情報法があり、中国政府の安全を脅かす、あるいは批判的であるととらえられれば、どんなことでも犯罪とみなされます。中国では法律があってないようなものですから、些細なことでも逮捕されると思ったほうがいいでしょう。

民主主義国家でもプライバシーがどんどん失われている

――本書のCODA(エピローグ)で、「世界はますますパノプティコン(全展望監視システム)のようになってきた」と書いていますが、このパンデミックでさらに悪化し、ますます世界中が監視社会になってきたと思いますか? 

 日本でも防犯カメラがあちこちにあり、それによって警察が犯人を逮捕することが簡単になりましたが、逆に民主主義国家でもプライバシーがどんどん失われていると思います。

ケイン 世界は20年前と比べると、ますます非民主主義になっています。背景のひとつに、中国とロシアの台頭があります。民主国家にポピュリズムが台頭したことも大きいです。それによって世界の動き方が変わりました。

 いろいろな脅威を考えたときに、中国は世界中のデジタル民主主義にとって最大の脅威だと思います。中国は積極的に他国へ干渉することを示しました。口では干渉していないと言っていますが、サイバーハッキング、スパイウェアなど、ありとあらゆる監視テクノロジーを使って干渉しています。さらに、そのテクノロジーを独裁国家に輸出しています。

 より小さな国は中国を見倣って、そのやり方を自分の国でもやろうとしています。テクノロジーを使って国を支配したいのです。中国はまさにその模範です。

 パンデミックが起きて、それをさらに悪化させたことは事実です。世界中で我々が目の当たりにしているのは、裁判なしで人を拘束できる法律がどんどんできたことです。

 この法律の問題は、“サンセット条項”がないことです。サンセット条項は、行政機関などが存続の必要性を見直されない限り、一定期間後に消滅することを定めた条項です。一般的に、緊急事態が起きると新しい法律ができますが、緊急事態が終わると効力がなくなります。

 しかし、パンデミック下でできた法律にはサンセット条項がありません。また、今のパンデミックが収束しても、ロックダウンの法律はまだ残っています。それが将来、また適用されるかもしれません。そのことも大きな懸念のひとつです。

(構成=大野和基/ジャーナリスト)

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