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虐待事件や拡大自殺事件が続く日本、「アメリカ式対策」を取り入れるタイミングか…在米心理士に聞いた

(構成=高橋聖貴)
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 岡山市で5歳の女児が、鍋の中に長時間立たされるなどの虐待を受けて死亡した事件があったように、子供が虐待される事件が相次いでいる。一方、埼玉県ふじみ野市では、死亡した母親の蘇生措置を断った医師を散弾銃で死亡させた事件も起きた。こちらは「拡大自殺」(他者を巻き込んで殺害し、自分も死のうとする行為)と呼ばれる事件だが、昨今、こうした問題も少なくない。

 こうした悲劇を減らすために、政治や社会、地域コミュニティなどはどうすべきなのか。どんなシステムの構築が求められるのか。

 そこで、この2月に『日本の虐待・自殺対策はなぜ時代遅れなのか』(開拓社)を出版した吉川史絵さん(カリフォルニア州公認結婚・家族心理セラピスト)に話を聞いた。

 吉川さんは、アメリカ・カリフォルニア州で、犯罪被害者支援の取り組むエキスパートで、虐待・自殺問題に対してラディカルな対応をしている同国の事情に精通している数少ない日本人だ。

 日本とは異なる、虐待・自殺の「アメリカ式」対策とはどんなものなのか? その中で求められる「社会的な義務」とは? 

求められる「チームで虐待事例に対応するシステム」

――まず、『日本の虐待・自殺対策はなぜ時代遅れなのか』を書こうと思ったきっかけを教えていただけますか。

吉川 一番大きかったのは、2018年に東京・目黒で起こった女児虐待死事件(編注:度重なる虐待を受けていた5歳女児が死亡し、女児の両親が逮捕された事件。児童相談所など行政も虐待を把握していたが、悲劇を防ぐことができなかった)です。それまでもオンラインニュース等で日本の虐待事件については知っていたんですが、この事件には大きなショックを受けました。

 児童相談所が関わっていて、ソーシャルワーカーの介入がありながら、子供を死なせてしまったことに非常な憤りを感じたことを覚えています。その頃、私はすでに犯罪被害者の心理ケアを行っていましたので、日常的にソーシャルワーカーや警察、弁護士または教師と協働していろいろなケースに取り組んでいました。ですから、自分の経験を伝えることで、少しでも日本の社会に役立てられないかと思ったことがきっかけです。

――この本で一番訴えたかったことは何ですか。

 日本でも、だいぶ前から自殺・虐待・不登校などの問題に注目が集まっていますが、なかなか有効な解決策が見つからないのではないでしょうか。一方、私はカリフォルニア州ロサンゼルスという、メンタルヘルスに関しては積極的な取り組みを行う土地で、しかも心理士として働いています。

 私が日々どのような仕事をし、どのように問題に取り組んでいるかをご紹介できれば、きっと日本の方々の助けになるのではないかと思います。本書では、カリフォルニア州では自殺・虐待・不登校などに対し、どのように介入や手助けを行っているかをできるだけ具体的に書いています。

 日本のメンタルヘルス対策は、まだまだ過渡期にあると思います。そんな中、「自殺・虐待などの問題を解決したい」「もっと社会をよくしていきたい」と思い、情熱的に取り組んでいる方は日本にもたくさんいらっしゃると思います。カリフォルニア州での対策や取り組みを本書で知っていただき、日本でも法律レベルで、あるいは個々人が何ができるか、議論する際の参考にしていただければと思います。

――日本では、幼い子供が虐待で犠牲になる事件が続いています。本書で訴えられているように、そろそろ「アメリカ式」を取り入れるタイミングなのかもしれません。改めて、虐待への「アメリカ式」の対応を教えていただけますか。

吉川 まず、アメリカでは、虐待に遭遇した人は必ず通報しなければならない点は日本と違いますね。アメリカでは、法的通報義務者(Mandated Reporters)と呼ばれる人たちがいて、彼らは虐待に遭遇したら通告することが法的に義務づけられています。この法的通報義務者は、「虐待の被害者になりうる可能性のある人たちに接触する機会を持つ職業従事者」と定義されています。

 例えば医師を含めた医療従事者、心理学者、教員を含めた教育従事者、警察関係者がそうです。私の資格である心理士も、およそ44種の職種に分類される法的通報義務者の中に含まれています。

 通報先は、児童家族福祉サービス(DCFS)や警察などの法的執行機関、社会福祉機関となります。私たち法的通報義務者は、通報を怠った場合は、軽犯罪を犯したことになります。

 通報せずに、関係者などから民事訴訟を起こされ、敗訴した場合は、処罰を受けるだけでなく、資格失効になる可能性もあります。ですから、虐待を知った人たちは必ずDCFSや警察に通報し、対応してもらいます。日本ではまだそこまで徹底した対応がとられていないのではないでしょうか。

 それから、虐待事例に対して、アメリカではソーシャルワーカー・警察・教師・心理士・医師・弁護士がチームを組んで取り組む点も日本と違いますね。日本ではいきなり警察が介入してくることに対して抵抗感がある人もいるかもしれません。ですが、現実に虐待された子供がどんどん命を失っている現実を考えると、これらの職業がチームで虐待事例に対応するような「システムの変更」がそろそろ必要なのかもしれません。

 一方、虐待事例に対して厳しく対応するだけでなく、虐待していると疑われる親に対して、アメリカでは育て方(ペアレンティング)などを細かく指導します。カリフォルニア州では「親の役割を効果的に果たすための訓練・教育プログラム」や、幼児期の健康や発達の問題を検出して、診断および治療を行うプログラムもあります。

――日本では最近、「拡大自殺」に関連すると思われる事件が増えています。アメリカではどうですか。またアメリカでは自殺や「拡大自殺」にどのように対応していますか?

吉川 私が知る限りでは、アメリカでは「拡大自殺」がそれほど多くは発生していないようです。「拡大自殺」という言葉を英訳するのが難しいですが、Murder Suicide(殺害後に自殺すること、あるいは心中)が一番近いかな、と思います。

 Murder Suicideの場合、殺してくれと片方が頼んだ可能性も考慮されるため、自殺ほう助と殺人の両方で罪に問われる可能性が高いと思います。そのため、自殺として扱うのではなく、殺人として扱われる可能性が高いでしょう。本書で述べた通り、Murder Suicideを実行する前に誰かにその心情を吐露した場合は、心理士・心理学者、教育関係者・警察・医師などがチームで対応する場合も多いです。また自殺願望者に対する介入方法も確立されています。

 さらに「移動型精神診断チーム(Psychiatric Emergency Teams 、PETチーム)」のような移動型精神疾患診断チームを導入しているところも多いです。例えば2014年のロサンゼルス郡内では、実際に4724件がこの移動型チームを利用して自殺する前に介入し、命を救っています。万が一、PETチームがすぐに介入できない場合は、代わりにメンタルヘルスについての知識を持ち、実際に介入した経験がある警察官が、15分以内に現場に向かうよう手配されるのも、大きな利点でしょう。

 メンタルヘルスの点で問題を抱えている場合、アメリカでは日本より気軽にカウンセリングやセラピーを受ける人が多いです。その傾向も、「拡大自殺」を未然に防いでいると言えるのかもしれません。

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