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木村誠「20年代、大学新時代」

MARCHの難関大学化が加速…法政は明治と実志願者数トップ争い、中央は志願者激減

文=木村誠/大学教育ジャーナリスト
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法政大学本部キャンパス(「Wikipedia」より)
法政大学本部キャンパス(「Wikipedia」より)

 大学受験生の子どもを持つ父親(東大OB)が「MARCH(明治・青山学院・立教・中央・法政)に合格する子は本当にいるのか」と嘆いたと聞いた。MARCHは早慶の“滑り止め”などというのは昔の話、今や第1志望の受験生でもなかなか受からない難関校ばかりなのだ。

 ミッション系のJALパック(上智・青山・立教)の難関化は前々回でも触れたが、MCH(明治・中央・法政)の中でも先行する明治大学はともかく、やや出遅れ気味だった法政大学も今年は急速に難化しており、冒頭の父親の驚きも無理はない。

 MARCHの難化の主因としては、まず入試の多様化で一般選抜の枠が狭まっていることが挙げられる。各私大とも、従来の付属校の他に系列校を増やして元の入学枠が広がっている。加えて、指定校の学校推薦や総合選抜の枠も拡大傾向にあり、一般選抜の募集人員はどうしても減らされる。そのため、競争率(志願者/募集人員)が高まるのだ。

 次の要因としては、文部科学省の方針で、東京23区の私大では入学定員をオーバーすると私学助成がカットされるので、大学としては入学定員を厳守するため合格者数をギリギリまで絞り込まざるを得ない。これも実質競争率(合格者/入学定員)が高まる要因だ。

 さらには、枠が狭まる一般選抜でも、大学入学共通テストや民間英語検定などを活用するなど、多様な入試方法をどんどん設けているので、その分、募集人員が分散する。それぞれが合格者数を絞り込まざるを得ない。

 これらの諸要因の結果、一般選抜の実質競争率は高くなる。

 ミッション系のJALパックと比べ、MARCHの中でもどちらかといえば“バンカラ”の校風であった明治や法政では、最近は女子受験生が増加している。背景には、キャンパスの都心の交通の便の良さや高層ビルの校舎などイメージがあるのだろう。これも、男子受験生にとっては狭き門となっている一因といえよう。

 MCH(明治・中央・法政)でもイメージカラーは微妙に違うが、創立時は似ている。明治は1881(明治14)年の明治法律学校、中央大学は1885(明治18)年の英吉利法律学校、法政は1880(明治13)年の東京法学社と、ルーツとなった学校が法律を学ぶという点や、慶應義塾大学の福沢諭吉、早稲田大学の大隈重信のような個性的なワンマン創立者がいないことも似ている。

 2022年入試では、MARCHの志願者数は2021年の反動で青山学院大学が増、逆に立教大学が減で、明治は微増、中央が減、法政が急増となった。とりわけ法政の伸びが目立つ。

 地方試験会場は、明治6カ所、中央10カ所、法政9カ所なのに対し、早慶上智と立教はゼロだ。地方受験生が受けやすくしようという中央や法政の配慮は、かつての校風とも関係があるのかもしれない。

明治大学は名門の日本学園を系列校に

 明治は有名私大でも早い段階で全学部統一日程入試を導入し、志願者数(一般選抜)で全国トップに立った。その後、近畿大学に抜かれたが、学内併願を換算した実志願者数では、近年は法政と全国1位の座を競っている。

 駿河台、和泉、生田、中野と、キャンパスが東京の人気エリアに近い。また、国際日本学部や情報コミュニケーション学部、総合数理学部など学際色の強い比較的新しい学部が、人気を支えている。グローバリズムやデータサイエンスなど社会の新しい動きをキャッチする感覚も鋭いのだ。

 国際日本学部は、その後、私立の神奈川大学だけでなく、国立の東京外語大学でも新設された。これは明治の“先見の明”を証明している。

 また、明治は卒業生が中堅社員として企業を支えるイメージもあり、就職の実績を見ると国家公務員でも一般職が多い。そのイメージが幸いして、企業の評価も高く、就職が好調なのも強みだ。そのイメージアップは明治の就職キャリアセンターのパワーがあってこそだが……。

 以前は付属・系列校は意外と少なかったが、近年は系列校が増える傾向にある。たとえば、最近、名門の日本学園と系列校化基本合意書を締結した。日本学園OBには、元首相の吉田茂氏、岩波書店創業者の岩波茂雄氏、日本画大家の横山大観氏などがいる名門だ。男子校だが共学化し、名称を明治大学付属世田谷中学校・高等学校とする。また、2029年度から付属高等学校推薦入学試験による明治への入学者受け入れを開始する予定だ。

志願者数が大幅に減少した中央大学

 中央の2021年末の志願動向での前評判は高かった。新型コロナの影響で敬遠された国際経営学部を除き、その他の学部では志望者が軒並み増えていたのだ。その要因として、2023年度の法学部の都心にある茗荷谷キャンパスへの移転や、国家試験に強いというイメージが評価されている、というのである。

 ところが、結果的に2022年度志願者数は前年比ダウンで終わった。一般選抜方式の学部別試験では、昨年より825人減の3万4732人で、募集人数2784人に対し12.5倍だった。ところが、大学入学共通テスト利用入試(併用でなく単独方式)では1万168人減の1万3749人で、倍率こそ20.1倍と高いが、志願者数そのものは激減だった。

 それが、全体で志願者大幅減となって表れた形だ。MARCHの中央以外の共通テスト利用入試志願者はやや増えているのに、中央だけが大幅減のために、一般に「東京の主要私大の共通テスト利用入試の受験生離れが進んでいる」といわれているほどだ。

 これは、中央が比較的国公立大との併願者が多く、共通テストが難化して平均点が大幅に下がった影響もあるだろう。さらに、中央の受験料値上げや併願割引の縮小の影響もあったと考えられる。

 もともと高い志願倍率だったので、合格可能性も考えて出願をやめた受験生も多いと思われるからだ。逆に言えば、それほど中央の影響力は大きいということであろう。

 ただ、地方の国公立大受験生にとっては、東京の受験生が嫌う郊外のキャンパスであろうと、司法試験だけでなく司法書士、税理士などの国家試験に強い中央は大きな魅力がある。2023年以降は法学部都心移転の影響もあり、中央の法科大学院もセットで人気が復調するであろう。

 2019年に新設された国際経営学部、国際情報学部も、コロナ収束後には就活などで実績を残せば、受験生に存在感を高めるだろう。

女子が4割…イメチェンに成功した法政大学

 MARCHでは、偏差値で明治、青山、立教と法政との間に溝が生まれている、と言われてきた。しかし、2022年の法政は前年度比119%と、MARCHで最も志願者数を伸ばした。一般選抜では約20%の伸びとなっている。

 とりわけ法、経営、経済、社会など従来型の社会科学系学部や、小金井キャンパスの理工、情報科学、生命科学など理工系学部が伸びている。これらの学部の受験生は、他大学との併願も多いと予想できる。学内併願を換算した実志願者数では近畿大よりも多く、近年は人気でも明治とトップ争いを演じている。

「この分野で具体的に何を学びたい」という受験生の志向の多様化にマッチさせる学部の多様化も効を奏し、人間環境、デザイン工、国際文化、スポーツ健康などの学部の志願動向も堅調だ。

 法政は、最近では女子学生の比率が40%に達している。まじめな女子法大生のあふれる高層ビルがそそり立つ市ヶ谷キャンパスも、カラフルな印象だ。法政OGである田中優子・前総長や各学部の女性若手教授の活躍も手伝って、すっかり“イメチェン”を果たしたのだ。

 それがまた女子受験生の人気を呼ぶという、好循環が生まれそうな予感につながる。

東京理科大学は理系人気が追い風に

 東京理科大学は「早慶上理」あるいは「SMART」と括られる。SMARTは、Sは上智大学(英名Sophia University)、Mは明治、Aは青山、Rは立教、Tは東京理科だ。

 偏差値や就職実績などで早慶は別格なので、SMARTの方がしっくりくるというのだが、プライドの高い東京理科のOB・OGの中には、早慶と同格以上という自信に満ちた声を上げる人もいる。確かに首都圏の進学校では東京理科の評価は高く、東京工業大学や早慶の受験生の併願先に選ばれることも多い。それだけブランド力もあるわけだ。

 ところが、その神通力は、地方ではもう一歩の印象だ。公私協力方式でできた山口東京理科大学と諏訪東京理科大学は、ともに定員割れが続き、それぞれ公立化によって山陽小野田市立山口東京理科大学と公立諏訪東京理科大学となり、延命の途を選んだ。地方の受験生には、もう一歩なじみが薄いということであろうか。

 一方で、本家の東京理科は理系人気を背景に人気上昇の傾向は続き、2022年度の一般入試で志願者数が10%近い伸びを見せている。新設の経営学部国際デザイン経営学科などは半数近くが女子学生であり、理系女子の進出も目につく。前身の東京物理学校の長い伝統もあり、高校の理数系の教員にはOBやOGが多い。高校時代の東京理科出身の教師の存在が、理系女子受験生を惹きつけているようだ。

(文=木村誠/大学教育ジャーナリスト)

木村誠/大学教育ジャーナリスト

木村誠/大学教育ジャーナリスト

早稲田大学政経学部新聞学科卒業、学研勤務を経てフリー。近著に『ワンランク上の大学攻略法 新課程入試の先取り最新情報』(朝日新書)。他に『「地方国立大学」の時代–2020年に何が起こるのか』(中公ラクレ)、『大学大崩壊』『大学大倒産時代』(ともに朝日新書)など。

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