
ロシア軍による一連の戦闘行為によって安全が懸念されているウクライナのチェルノブイリ原子力発電所(廃炉作業中)や同国内の各原子力発電所に関し、国際原子力機関(IAEA、ウィーン)のラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長は23日(現地時間)、「IAEAは専門家や設備をウクライナに送る準備ができている」との声明を発表した。同国のゼレンスキー大統領も23日午後6時(日本時間)、日本の国会で演説し、紛争下のチェルノブイリ原発の危険性に言及した。
IAEA「これ以上、時間を失うわけにはいかない」
グロッシー事務局長は同日、IAEA公式YouTubeアカウント上で、以下のように声明を発表した。
グロッシー事務局長は「主要な原子力施設が武力紛争地帯で稼働している劇的で特異な状況」と現状を指摘し、「ウクライナの原子力施設の安全とセキュリティについて引き続き深刻な懸念を抱いています」と述べた。現在まで、ウクライナ政府やウクライナの国家原子力規制検査官、原子力事業者エネルゴアトムと「緊密かつ継続的に連絡を取り合ってきた」と語り、原子力の安全を確保するための7つの不可欠な指針を遵守するため「明確な合意枠組みを確立する必要がある」と述べた。
さらに「ウクライナのさまざまな施設で、IAEAの専門家による現場での立ち会いや、重要な安全装置の提供など、実質的な支援と支援措置を含む協定を締結するための準備ができている」ことを強調。その上で、以下のように語った。
「(ウクライナの原発に対する安全確保に向けた)集中的な協議が何日も続いていますが、前向きな結論は得られていません。それにもかかわらず、悲惨な状況が続いており、原子力事故を防ぐ必要性は日を追うごとにますます差し迫っています。
私は本日、IAEAの準備が整っていて、直ちに展開し、ウクライナの原子力の安全とセキュリティを確保するために不可欠な支援を提供できることを改めて表明します。この支援は、公衆衛生と環境を脅かす可能性のある重大な原子力事故のリスクを回避するために不可欠です。(中略)これ以上時間を失うわけにはいきません」
ゼレンスキー大統領「核物質の処理場を戦場に変えた」
チェルノブイリ原発に関しては、健康状態などが不安視されていたロシア軍の拘束下で勤務を続けていた作業員の交代が行われた。しかし、ウクライナ当局は23日、Facebookなどを通じ、欧州連合(EU)からの資金援助で建設した放射性廃棄物の監視・管理のための研究施設が破壊され、放射性核種のサンプルなどが略奪されたことを明らかにした。また22日には、同発電所付近で「放火または砲撃で火災が発生している」ことを報告。依然として、予断を許さない状態だ。