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藤和彦「日本と世界の先を読む」

韓国経済、再び苦境、IMFが懸念…物価と金利が高騰、企業の資金調達で流動性の危機

文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー
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韓国大統領府のHPより

 政権移行期にある韓国経済は深刻な苦境に陥りつつある。新型コロナウイルスのパンデミックによる世界的な供給網(サプライチェーン)の混乱から始まったインフレの高進が止まらない。3月の消費者物価指数(CPI)は前年比4.1%増となった。物価上昇率が4%台を記録したのは2011年12月以来10年3カ月ぶりのことだ。原油価格をはじめとする原材料価格も急騰したことが災いしており、ウクライナ危機が収束しない限り、物価高が続く可能性が高い。

 次期大統領の尹錫悦氏は、公約に掲げた50兆ウォン規模の追加補正予算を準備しているが、「インフレが激化しているなか、公約にこだわって予算執行を強行すれば物価上昇をさらに助長させるだけだ」との警告が早くも出ている。

 物価高騰の懸念のため、金利が急上昇していることも気がかりだ。3年物の国債利回りが8年4カ月ぶりに3%を超えた。国債利回りが上昇すれば、貸出金利も連動して上がることになる。韓国銀行によれば、家計と企業の債務を合計した民間債務は、昨年末時点で国内総生産(GDP)の220%以上に達し、1975年の統計開始以来最高を記録している。国債利回りの上昇が社債の調達利回りを押し上げており、「信用度の低い企業が資金調達の道を断たれ、流動性の危機に陥りかねない」との懸念が生じている。

 企業債務以上に心配なのは、文政権時代に急拡大し今や世界最高レベルに達した家計債務のほうだ。低金利で資金を借りられる条件が整うなか、マイホームを購入するために家計が多額の借金をしたことが主な要因だ。新型コロナのパンデミック以降急増した家計融資の大半が、金利変動による影響を受ける変動金利型融資であることから、金利の上昇は利子負担の増大に直結する。金利上昇以前から問題になっていた家計の債務返済能力の低下がさらに進むことは間違いない。

不動産価格が上昇

 高値となった不動産価格の上昇がさらに加速する事態にもなっている。ロシアのウクライナ侵攻のせいで建設資材価格が史上最悪のペースで急騰している。セメント価格が20%以上、鉄筋価格も50%近く上昇していることから、工事の中断を余儀なくされる不動産企業が続出している。住宅供給のスケジュールにも支障が出始めており、悪化しつつある不動産市場のセンチメントがさらに冷え込み、不動産バブル崩壊のリスクは高まるばかりだ。

 国際通貨基金(IMF)も3月下旬、「韓国の家計負債の急増と不動産価格の上昇について厳重に警戒しなければならない」との見解を示しているが、韓国の金融当局は引き締めを続ける姿勢を崩していない。韓国銀行(中央銀行)は4月14日、政策金利を引き上げて年率1.5%とした。利上げは3カ月ぶりで、昨年8月以降4回目だ。韓国の金融市場でも長短期金利の逆転現象が現れ、景気鈍化に対する不安感が高まっているが、次期総裁に指名された李氏も金融引き締めを継続する方針を表明している。

 米連邦準備理事会(FRB)がインフレに対応するため引き締めを加速する方針を明確にしていることが背景にある。韓国も金利を引き上げなければ米韓の金利差によって海外マネーの流出が進むとの懸念が高まっている。足元でウォン安が進行しており、追加利上げで為替の安定を図らざるを得ないのだ。

グローバリゼーションの流れが反転

 30年間続いてきた世界のグローバリゼーションの流れが反転し始めたことも韓国経済にとって悩みの種だ。グローバリゼーションの恩恵を最も受けてきた国の一つが韓国だったからだ。韓国の輸出は1990年の680億ドルから2020年には5130億ドルと急拡大し、その間のGDPも2830億ドルから1兆6310億ドルと飛躍的に成長した。GDP世界第10位となった韓国経済だが、貿易収支の黒字なしでは生きていけない構造になっている。

 だが「最後の砦」ともいえる貿易収支にも陰りが見えている。エネルギー価格の高騰により、韓国の今年第1四半期の貿易収支は14年ぶりに赤字となり、4月以降もこの傾向が続いている。韓国経済の現状は内憂外患といっても過言ではないが、最も深刻な問題は日本以上の勢いで進んでいる少子高齢化だ。韓国の昨年の合計特殊出生率は0.81人で、2017年以降、5年連続で過去最低を更新している。この数字はOECD加盟国のなかでダントツの最下位だ。

 2040年の高齢化率は35%を超えるとの予測が出ている。人口減少も始まっており、韓国の人口は来年、5000万人を下回る見通しだ。少子化の問題は喫緊の課題なのだが、最後まで大統領選挙の争点にならなかった。それどころか、次期大統領の尹氏は選挙期間中に、これまで女性の地位向上に取り組んできた女性家族省の廃止を公約に掲げていた。

 韓国も日本と同様に近年、女性活躍を強力に推進してきたが、これに若い男性が「女性を優遇しすぎだ」「男性に対する逆差別だ」と不満を募らせてきた。若い男性の票を狙った公約だったが、若い女性からは猛反発を買ったといわれている。少子化がいっそう加速することになるのではないだろうか。

 日本との関係改善を掲げる韓国の次期政権が、出足から大きくつまずかないことを祈るばかりだ。

(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

1984年 通商産業省入省
1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)
1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)
1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)
2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)
2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)
2016年 経済産業研究所上席研究員
2021年 現職
独立行政法人 経済産業研究所

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