
6月4日は虫歯予防デーです。今回も、拙著『歯・口・咀しゃくの健康医学』から、人生100年時代の「口の健康」と「咀嚼の効用」についてお話しします。
“死ぬまで元気”が万人の願いでしょう。筆者の考える理想的な終末は、身体は弱っても排泄、入浴、食事など身の回りのことが自分ででき、本を読み、音楽を楽しみ、しっかりと会話のできる生活です。そして体調が崩れ、寿命が迫ったならば、数カ月であの世に旅立てればいいなと思います。この「数カ月」というのは、家族を含めた近しい人たちに大きな負担をかけず、かつ別れを告げるのにちょうど良い期間だと思うからです。つまり、死に至る前の不健康期間が数カ月という終末が理想です。
現在、日本の平均寿命は、女性では90歳に届こうというところまで延びています。しかし、寿命が尽きる前の約10年間は「不健康期間」といわれ、程度の差はありますが、介護なしの自立した生活ができない期間です。残念ながら、いくら平均寿命は延びても、この期間は縮まっていません。
つまり、この不健康期間を縮めることが、理想の終末を迎えるための“必須の第一歩”であり、これをなすための健康法こそが、現在切実に求められているものです。
フレイルと口腔フレイル
不健康期間は、身体が脆弱化する「フレイル」に陥ることから始まるといえます。このフレイルは、口腔機能の低下が第一の指標となることから、全身のフレイルと区別して「オーラル(口腔)フレイル」という分野を設け、口を衰えさせない取り組みが出てきました。
本連載前回記事でお話ししたように、この取り組みにより、寝たきりだった方が歩いて行動できるようになり、要介護4から2まで下がった例もあります。
また最近の研究では、ベッドに寝たきりにさせず、車いすを使ってでもベッドを離れるようにすると、一日4時間の離床で嚥下機能(物を飲み込む力)の維持につながり、また6時間以上の離床で全身の筋肉量が保たれるということが報告されています。
このように色々な方法を用いて、まずは口腔機能低下症に陥らないようにすることが健康寿命を延ばすために重要だといえます。
そこで、ここまで2回にわたってお話ししてきた“咀嚼の効用・噛むチカラ”によって、口腔フレイルを避け、全身のフレイルに陥ることを予防し、要介護の状態にならないことで、自然と不健康期間を縮めることが大切です。
咀嚼回数と質の充実は、脳の活性化をはじめ肥満予防、糖尿の予防と改善、腸内環境の改善、脳内ホルモンの分泌向上など、多岐にわたり全身の健康に好影響を与えることがわかっています。
つまり、咀嚼の充実を図り不健康期間を縮めるためには、常に「きちんと咀嚼のできる口」でなければならないのです。では、人生100年時代の今、どのようにして常にきちんと咀嚼のできる口を維持すればよいのでしょうか。